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首相演説で排除の当事者らが「抗議デモ」企画 
被害者市民が語る北海道警察の所業(下)

2019年8月 2日 08:30

大杉さん(右端)を取り囲む警察官たち .jpg 国民の安全・安心を守るはずの警察官が、権力の手先となって普通の市民に襲い掛かる――。安倍首相の街頭演説が行われた北海道で起きた“事件”は、まさに戦前の特高警察を彷彿とさせるものだった。
 「安倍辞めろ」「増税反対」とヤジを飛ばしただけで拘束、排除されたのは女子大生などの一般市民。信じられないことに、その現場に居ただけの男性も警官から自由を奪われていた。
 恐怖に身体を震わせながら、当日の様子を詳細に語った“被害者”4人。謝罪どころか事件の概要さえ公表しようとしない北海道警察の姿勢に憤り、「デモ」という形で抗議の意思表示をする計画だという。
(写真:被害者の一人を取り囲む道警の警察官たち)

■「怖かった」
 戦前の特高警察が蘇ったその日、何もしていないのに排除された人もいた(7月29日付の記事参照)。
「ツイッターで札幌の応援演説を知り、友人の大杉さんにその情報を伝えたら、ぼくも一緒に見に行くことになったんです。そこで何をするのかはまったく考えていなかったので、大杉さんが叫び出した時は驚きました。というか、突然のことでちょっと恐かった」――そう話すのは、札幌市のアルバイト職員・石井孝之さん(31)=仮名。最初に拘束・排除されたNPO職員・大杉雅栄さんとは友人同士だが、会って話すのは年に2、3回ほど。首相演説のあった日はたまたま時間がとれたため、有権者の1人としてその場に立ち会うことにした。

 ほどなく起こった「安倍辞めろ」の一声を機に、石井さんもまたその場から排除されることになる。声を挙げず、プラカードも掲げず、つまりは何の意思表示もしていないその人を、警察官たちは容赦なく取り囲んだ。大杉さんほど大胆に行動できない性格の石井さんは、その時の思いを率直に「恐かった」と振り返る。何が悪いのかと警察官に尋ねると、相手は言ったという。「それ訊かれたら、言わなきゃいけなくなるよ」――。
「聞いて、『あ、警察は本気出せばどんな理由でも逮捕できるんだ』と思いました」(石井さん)

 恐怖で身体が固まり、目の前の排除劇を黙って見ているしかなかった。それでも、大学院生の桐島さと子さん=仮名が強面の男に暴力を振るわれた時は、咄嗟にスマホのカメラを構えた。だがすぐに制服警察官に制止され、手を引っ込めざるを得なかったという。
「警察が言うには、(桐島さんに対する強面の男の暴力を)俺たちが止めるから』と。実際に止めてたので、そこは公平だったと思いますが、結果的には10秒ぐらい注意しただけ。何の暴力も振るっていないのに囲まれてる大杉さんたちに比べると、不公平な扱いだなあと思いました」(同)

■別の場所でも繰り返された拘束・排除
 大杉さんと桐島さんは「大名行列」のように警察官を従え、500mほど離れた札幌市時計台まで移動。そこからタクシーに乗り、次の首相演説の場である百貨店前へ足を向けた。「増税反対」コールの後、女性警察官に腕を組まれながら移動を続けた女子大生の絹田菜々さん=仮名は、その百貨店の向かい側の道で解放された。

 その直前、どこまでついてくるのかと尋ねた絹田さんに、警察官は「確認してみる」と答え、上司らしき相手と連絡をとっていたという。それを見た瞬間、警察の行動が現場職員の判断によるものでなく、組織的なものだと確信した。何もせずに取り囲まれた石井孝之さんは、前後を私服の男たちに固められたまま大通方面へ移動、百貨店前で再び大杉さんのヤジを耳にする。

 まさに安倍首相らが百貨店向かいの車道に場所を移し、改めて演説を始めたところだった。声の主たる大杉さんは街宣車の真後ろにおり、やはり一瞬で警察官に取り囲まれていた。札幌駅前で排除された時よりもさらに強引に押さえつけられ、聴衆のいる場所から数十m離れた所まで引っ張られたという。私服の男からは首を絞められそうになり、その時の痛みが以後も数日間続いた。駅前から移動してきたらしい警察官は、抵抗し続ける大杉さんを見るなり「またあんたか」と呆れ声を放った。

■「警察には説明する責任がある」
 「警察はしっかり責任を認めて欲しい」と、大杉さんは言う。学生時代、ホームレス支援活動に携わり、東日本大震災後には原発反対デモなどに参加した経験があるが、特定の組織や党派に所属する考えは持っていない。今回のヤジは突発的な行動で、いわば「あまりにヤジがないことに驚いた」ためだったという。
「秋葉原みたいな感じになってるだろうと想像して行ったら、まったく抗議の声がなかったので途惑いました。ここでヤジを飛ばしたら警察には止められるだろうと思いましたが、まさかあんなにあからさまに実力行使される……。警察が言論の自由を制限・弾圧するのは今に始まったことじゃないと思うけど、安倍政権になってからより酷くなったのは確かだと思います」(大杉さん)

 今回の騒動は、写真や動画がSNSなどで拡散し、また大手報道機関が採り上げたことで大きな話題となったが、当事者の大杉さんは「本質はもっと根深い」と捉えている。
「動画なんかを観ると、非常にわかりやすいじゃないですか。ああいう目に見える圧力が批判されるのは当たり前の話で、本当に恐いのは目に見えない力。学校や職場で政治の話をしにくい空気とか、“世間の感覚に支えられた言論の不自由”とでもいうようなものがありますよね。今回の件で『日本はいつのまにこんな国に…』って、新鮮な気持ちでショックを受けている人も多いようですけど、ぼくとしては『炭坑のカナリアはとっくに鳴きやんでるぞ』と」(同)

■被害者らが抗議デモを計画
 未だに謝罪や説明をしようとしない警察。その姿勢に対し、“事件”から3日後、抗議デモの話が持ち上がった。ともに排除された人たちが、改めて道警本部などを回って声を挙げる計画を立てたのだ。近く札幌市中心部で『ヤジも言えないこんな世の中じゃ…デモ』と題した抗議行動を行なう予定だという。その輪がどこまで拡がるかはわからないが、時間とともに問題が風化することは喰い止めたいと思っている。
「インターネットで『選挙妨害だろう』みたいな匿名の批判も見ました。公職選挙法の判例をみても、あれが妨害にあたる行為だったとは思えませんが、そもそも選挙以外に民主主義を実践する場はないのかと。選挙制度が生まれる前から、もっとプリミティブな(原始的な)言論の自由というものが存在するはずだし、それが認められない社会の中で議会や選挙だけあったって、そんなものに意味はないと思うんですよ」(大杉さん)
 早ければ8月10日夕、彼らは再びその本来的な自由を行使することになる。
 
 筆者は地元月刊誌『北方ジャーナル』の取材で北海道警に質問を寄せ、排除行為の適正性や暴力を使った警察官の処分、謝罪の考えの有無などを尋ねたが、道警は7月26日付で「事実関係を確認中です」とのみ回答、排除の判断の主体や現場警察官の属性などを尋ねる問いには「警備態勢に関することについてはお答えできません」としている。道警の言う「確認」の結果は、同30日の時点で伝えられていない。
                                                   
                                                         (小笠原 淳)


【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。



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