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全寮制男子校「鹿児島県立楠隼中学・高校」の実態(下)

2019年7月25日 09:20

DSC02135-2.jpg 寮生向けに「学習指導員」という事実上の家庭教師を雇用するための予算が年間約4,000万円――。開学以来、深刻な定員割れが続いている全寮制男子校「鹿児島県立楠隼(なんしゅん)中学・高等学校」(鹿児島県肝付町)の運営実態を知った教育関係者からは、「不公平」「公立の学校がやることではない」「教育差別だ」「税金投入する意味があるのか」といった厳しい批判の声が寄せられた。
(参照記事⇒「鹿児島県立中高一貫校 事実上の家庭教師に年間約4千万円」「全寮制男子校「鹿児島県立楠隼中学・高校」の実態(上)」)
 たしかに、税金を使った事業である以上、費用対効果が検証されるべきだ。改めて、楠隼の教育事業にかけられている“予算額”と“進学実績”を確認し、県内の教育関係者に感想を聞いた。

■楠隼だけに膨大な予算
 楠隼中学・高校に、多額の税金が投入されているのは事実だ。下に、鹿児島県教育委員会に確認した開学費用と、教員給与などの経常費を除いて特別な事業にかかった予算額をまとめた。

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 楠隼の開学費用は約51億円。同校の設置にともない2016年に閉校となった高山高校の旧校舎改修(楠隼は旧高山高校の校舎を利用)と、寮の建設にかかった額だ。これとは別に、全国で展開する生徒募集など同校のみの特別な事業に、令和元年だけで約2,200万円を費消する予定となっている。こうした振興事業費は、令和元年度と同じかあるいはそれ以上の額が毎年支出されており、報じてきた「学習指導員」への報酬や経常経費を含む楠隼のための予算は、他の県立高の予算をはるかにしのぐ額になるという。

■進学実績
 では、多額の公費をかけて維持されるエリート養成校・楠隼の、大学進学実績はどうなっているのか。下に、県教委が開示した資料をそのまま掲載する。 

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 卒業生の数は30年も31年も30人台。ただし、初年度と次の年では、国立大学への進学者数などで、明らかに違いが出ているのが分かる。
 真価が問われるのは、中学からの持ち上がり組が大学受験に挑む令和3年度の入試からということになるが、受験者数が激減している現状(下の表参照)があるだけに、先行きは厳しいと言わざるを得ない。

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■関係者の話
 報じてきた楠隼の実態について、関係者はどう見ているのだろう。現役教員らに話を聞いた。

【現役教員】
 楠隼が苦しい状況になることは、開校前から分かっていたことです。当時の知事(伊藤祐一郎前知事)や一部の県議、その周辺の利害関係者だけで計画が進められただけで、県民のニーズなど全くなかったのですから。教育関係者の間では、楠隼について次のような問題点が指摘されていました。

(1)全寮制男子校は、男女共同参画社会に逆行するのではないか?
(2)県費で他県の生徒の教育費を支出することに問題はないのか?
(3)女子生徒はもちろん地元の生徒が最初から排除されることに問題はないのか?
(4)過疎地の学校に人が集まるのか?

 こうした疑問に対する明確な回答や説明は、当時の知事からも県教委からも全くありませんでした。開校以来、毎年、定員割れが報じられる度に、県教委は「楠隼中高校の特色を広く発信し続け、周知を図る」と繰りかえしていましたが、ここに来てとうとう何も言わなくなりました。県民の声に耳を傾けることもなく無謀な計画を進めた結果が、HUNTERが指摘しているような、私学だったら閉鎖が当然の事態ではないのでしょうか。進学実績については、努力した生徒たちがいる以上、ご覧のとおりと言うしかありません。

【県関係者】
 公共事業にありがちな、“一度決まったら止められない”という事業の典型でしょう。定員割れを真摯に受け止め、思い切って見直しをするべきなのに、高校での3学級維持や、進学実績にこだわるあまり傷口を広げています。「学習指導員」にかかる予算が4,000万円にまで膨らんだのは、県教委の焦りの裏返しなのかもしれません。進学実績について論じるのは、まだ早いような気もしますが、どれだけ良い学校への合格者がいても、深刻な定員割れが続けば事業として成り立たなくなるでしょう。現状は、まさにそうだ。
 楠隼の問題については、県教委の中だけでなく、県議会でも議論を進めるべきだと思います。公開の場で、なぜこうなったのかを明らかにし、今後についてもしっかり県民に説明するべきではないでしょうか。
【高校教員OB】
 定員割れの続く楠隼への特別扱いには、怒りさえ覚えます。そもそも、楠隼だけが「30人学級」で、他の公立学校は「40人学級」という差があります。さらに、その定員を楠隼は大きく割っているのに、高校から入った生徒たちだからという理由で、1ケタの人数で1学級を設けています。ここまで来ると異常としか言いようがありません。
 普通は1人でも定員を割ったら、学級減になるものです。楠隼の開校以来、公立高校の廃校、統廃合はなくなりました。その理由は、楠隼が定員を大幅に割り過ぎているので、他校に大ナタが振るえなくなったというのです。これは説得力をもって、広く噂されています。学校の設備にしても、「全室冷暖房完備」、「洗濯代行サービス」など、楠隼だけが特別扱いです。
 一方で、県内の他の学校では、施設の不備あるいは故障が放置されているケースばかりです。楠隼への特別扱いと、それ以外の公立学校への対応の違い――。まさに鹿児島県教委のダブルスタンダードであり、もういい加減にやめにしてもらいたい。言わずもがなだが、格差を是正するのが、公教育であり、公立学校の存在理由でしょう。一体、鹿児島県は誰のために教育事業を行っているのでしょうか。
【公立高校関係者】
 楠隼ね。鹿児島県の学校関係者の間では、計画段階から「うまく行くはずがない。“公立ラサール”など作る必要がない」などといった懐疑的な見方が大勢を占めていました。しかし、「上意下達」が鹿児島県を支配する空気。地元の県会議員が絡んでの話だったと言われていますが、方向性を決めたのは当時の伊藤知事でした。異を唱える者など、おりませんでした。
 開校後も、楠隼から聞こえてくる、あまりよくない話に他の学校関係者は同情を示しつつも、とりあえず、そこに行かずに済んでいる自分にほっとしているというのが実情でしょう。事が起きる前に、教育関係者が想像力を働かせれば、行動力を少し示せれば、事態は変わったのでしょうが……。




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