年間約4,000万円もの公費をかけて事実上の家庭教師にあたる「学習指導員」を雇用し、在校生に過剰なサービスを与えていたことが分かった全寮制男子校「鹿児島県立楠隼(なんしゅん)中学・高等学校」(鹿児島県肝付町)。2015年4月の開校以来、深刻な定員割れが続いているが、県の同校への特別待遇に対し、厳しい視線を向ける教育関係者は少なくない。
楠隼の実態を、2回に分けて検証する。
◆鹿児島県教委に確認した楠隼の実態
同校の実情について、鹿児島県内に住む複数の教育関係者から疑問の声が寄せられたのは先月。職員数や公費支出の多さを指摘する内容だったため、周辺取材と並行して次の6点について県教育委員会に確認を求めた。
1、楠隼中学校・高等学校のそれぞれの定員数と現在の在校生徒数及び年度ごとの応募者数、受験者数、入学者数。2、両校の、それぞれの学級数と学級ごとの生徒数。
3、両校の、それぞれの職員数。
4、両校のために雇用した学習指導員の雇用状況と雇用に係る予算額。
5、楠隼中学校・高等学校のために支出された公費の額。
6、楠隼高等学校卒業生の大学別合格者数。
これに対する県教委の回答を、順番に見ていきたい。
■深刻な定員割れ
まず、楠隼中学校・高等学校のそれぞれの定員数と現在の在校生徒数については下の表のとおりで、定員を満たしている学年は皆無。中学からの持ち上がりが高校に進むようになるのは平成30年(2018年)からだったため、平成29年に入学した生徒=3年生は定員60(30年度から90人)に対し11人しかいない。
翌年度から在校生が50人台になってはいるが、この年からエスカレーター組が進学するため定員は90に増えており、年度ごとの応募者数、受験者数、入学者数を示す下の表にあるように、30年度に入試を経て高校に入った生徒は8人しかいない。
楠隼高校の受験者は年々減り続けており、30年度は10人(入学者8人)。今年度の受験者は、ついに一桁の9人にまで減り、入学したのは7人だった。楠隼中学から楠隼高校に進学したのは、平成30年度、31年度ともに49人となっており、毎年10人ほどが他の高校に“逃げた”形だ。
楠隼の定員割れは、上掲の表を見て分かる通りかなり深刻で、開学以来健闘していた中学も今年度から減少。高校に至っては、論じるのが無駄になるほどの惨憺たる状況となっている。
■優遇されるエリート養成校
エリート養成校であることをウリにした学校であるため「少数精鋭」になるのかもしれないが、下の表にある学級数と学級ごとの生徒数をみると、楠隼高校の学級構成は「1学級30人」とされる一般的な普通科高校の定数より少ない。(*県教委によれば、高校1年で7人という少ない生徒数の学級があるのは、中学から持ち上がった49人と学習の習熟度が違っていたための措置。2学年の15人学級は、文系が分かれた結果だとしている)
高校の受験者数が極端に少ないため、中学から全員が持ち上がったとしても、定員を満たすことができないのだ。この傾向は今後も変わらないはずで、中学への入学者減や、高校進学時までに“逃げる”生徒が増えるようなら、益々厳しい状況になるとみられている。
それでも、鳴り物入りで開学した同校を「失敗例」にすることはできない。県教委は、人とカネを同校に集中させ、事態打開を図る構えだ。楠隼は中学生167人、高校生123人。右は同校の職員数だが、楠隼高校では、一人の職員が約3.8人の生徒の指導にあたっている計算となる。
一方、鹿児島県内で知られた進学校3校の学級数、職員数、在籍生徒数を調べてみると、下が今年4月1日現在での数字。楠隼高校との差は歴然である。
・鶴丸高校 24学級 職員数82 在籍数952 ⇒職員一人あたり11.6人
・甲南高校 24学級 職員数73 在籍数959 ⇒職員一人あたり13.1人
・鹿児島中央高校 24学級 職員数80 在籍数951 ⇒職員一人あたり11.8人
過剰な職員配置に加え、寮では、昨日報じたように「学習指導員」という名称の家庭教師まで手配するという厚遇ぶり――(*参照記事→「鹿児島県立中高一貫校 事実上の家庭教師に年間約4千万円」。県内の教育関係者から、批判の声が上がるのは当然と言えるだろう。