政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
社会

「馬毛島」買収交渉の裏事情

2019年5月14日 08:55

20180516_h01-01-thumb-autox447-24420--2.jpg 安倍政権が、米空母艦載機の陸上離着陸訓練(タッチアンドゴー)に供する予定だった「馬毛島」(鹿児島県西之表市)の買収交渉が頓挫。島の大半を所有する「タストン・エアポート」が、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴って発生した福島県内の放射能汚染土を、受け入れるか否かの検討に入っていることが分かった。(参照記事⇒「買収交渉頓挫の“馬毛島” 「別案」は原発汚染土 」)
 交渉失敗は防衛省の責任。当初44億6,000万円の土地代を提示しながら、タストン社の代表が替わったとたん160億円に大幅アップするという不可解な展開に、国会関係者からも「おかしい。どういう評価をしているのか」と疑問の声が上がる。そもそも、タストン社側の希望額は400億円超。これではまとまるはずがない。
 では、馬毛島の妥当な金額とは、一体どれくらいなのか――。

■土地価格を左右する「滑走路」の現状
 タストン社が2016年(平成28年)に防衛省に提出した馬上島の土地の鑑定評価書によれば、算出された価格は462億円。不動産鑑定士は、素地価格を139億円、滑走路の造成工事費を約334億円とみて、諸条件を加味した上で鑑定額を導き出していた。

 これに対し、防衛省が当初提示した契約金額は44億6,000万円。素地価格の三分の一にも満たない額に、タストン社側は呆れたという。

 防衛省側の算定額は、馬毛島に近接する「種子島」の、もっとも安い山林の価格を引っ張り出して面積をかけたという単純な数字。滑走路の造成費や、数十年間同島の維持管理に努めてきたタストン社の経営努力を無視した、不誠実な対応だった。

 政府関係者が問題視したのは、鑑定額の7割近くを占める滑走路の造成」。工事を行ったのがタストン社の親会社「立石建設」だったため、工事内容に疑問が投げかけられたのだという。“大手ゼネコンでもない立石建設に、滑走路の造成ができるのか”という論法だ。ところが、立石建設の技術力は折り紙付きだった。

 立石建設の創業は1964年(昭和39年)。業歴は輝かしいもので、1980年(昭和55年)にはベルトコンベアを活用した同社独自の工法で羽田空港のB滑走路埋立工事を一括受注。その後、出雲空港や新潟空港の滑走路延長工事にも参画し、実績を上げていた。土木工事の分野では業界に多大な貢献をしており、現在では路盤材として一般的になった「クラッシャーラン」は、もともと同社が開発した特許技術を、旧建設省の役人に頼まれ公開したのだという。

 滑走路を整備する技術力には問題がない。次に問われるのは、“何のための滑走路なのか”という点だ。改めてタストン社の関係者に話を聞いたところ、「緊急時の航空機利用が第一の目的だった」という答えが返ってきた。馬毛島は鹿児島市内から2時間以上。まず鹿児島港から高速船で1時間30分かけて種子島の西之表港に――。そこからさらに小型船で40分以上揺られなければならない。島には立石建設の従業員らが常駐していたため、急な事態に備えるため、風雨に弱いヘリの離発着場ではなく有翼機利用が可能な滑走路にしたのだという。もちろん、将来的にタッチアンドゴーの訓練場や自衛隊の基地になることを見込んだ開発だった可能性もある。

 林地開発許可の申請を鹿児島県に出したのは2003年(平成15年)で、滑走路としての整備を終えた2017年には「馬毛島場外離着陸場」として国交省鹿児島空港事務所の許可を得、開場式を行っていた。下は、その時の写真だ。

001.jpg

 昨年、HUNTERの記者も馬毛島に上陸して現地を歩いたが、整備された滑走路はきちんと維持されている。

DSCN0639.JPG

■タストン社の逆襲
 何度も述べてきたことだが、馬毛島は国有地ではない。民間企業である「タストン・エアポート」が大半を所有している。その島を、「売ってくれ」と頼んだのは日本政府だ。誠実な買収交渉を行うのが当然であるにもかかわらず、防衛省側はタストン社の立石勲代表を悪者に仕立て上げ、裏で批判を繰り返してきた。「話が変わる」「信用できない」――防衛省内部から聞こえてきていたのは、そんな立石評ばかりだった。あげく、タストン社の債権者をそそのかし、同社の破綻を目論んだ。国家権力が民間企業を潰しにかけ、所有地を収奪するという恐るべき事態だ。許されていいはずがない。

 税金の無駄遣いは責められるべきだが、馬上島の基地化は米国との約束事項。日米安全保障委員会(2プラス2)における共同文書に、硫黄島で行っている陸上離着陸訓練の移転先として同島が明記されているのだ。本当に国防上必要というのなら、タストン社側の希望する金額に近づいて買い取るのが常識というものだろう。

 タストン社の負債は240億円超。これを下回る金額で島の土地を売れば、タストン社だけでなく親会社の立石建設も危うくなる。立石建設関係者や債権者が、160億円という仮契約時の金額に納得できなかったのは当然のことなのだ。不誠実な安倍政権に、馬上島の買収交渉打ち切りを通告したタストン社。逆襲に転じた同社が、福島県内の放射能汚染土を引き受ける可能性は決して低くない。



【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲