夏の参院選に向けて野党間の候補者調整が進む中、福岡選挙区を巡る国民民主党と立憲民主党の対立が、頂点に達しつつある。
国民民主は、党本部主導で立憲の公認候補である野田国義氏に対立候補をぶつける構え。一方、候補者一本化を呼びかけてきた立憲の関係者からは、県議会と福岡市議会での共同会派を解消した上で、次の総選挙に向けて国民民主の現職がいる福岡2区と10区に候補者を擁立すべきとの声が上がっている。
改めて、有権者不在の“野党間バトル”を取材した。
■“擁立ありき”の支部も
参議院福岡選挙区の定数は6。改選数は3で、前回2016年の参院選では自民、民進、公明が議席を分け合っていた。
旧民進党系の動きとしては、昨年暮れに入党した野田国義参院議員を立憲が公認。国民民主に対し共闘を呼び掛けてきたが、国民の党本部と連合福岡の一部がこれを拒絶したことで、巻き込まれた国民の地方組織がガタつく状況となっている。
今月18日に常任幹事会を開いた国民民主の県連は、県内11の衆院総支部ごとに意見を集約し、25日に結論を出すことで一致。現在、各総支部で話し合いが持たれているが、組織の末端からその進め方に激しい反発が出ているのだ。
例えば福岡5区。今週開かれた会議の議題は、“対立候補を擁立すべきか否か”ではなく、「党本部で候補者を決めるか、県連で決めるか」を選ぶ内容。はじめから“擁立ありき”で進められた会議だった。5区の結論は「党本部一任」。ある国民民主の関係者は、あきれ顔にこう語る。
「参議院選挙で候補を立てるのかどうかを話し合うべきなのに、候補者選定を東京がやるのか福岡がやるのかを聞くんだから、バカげている。事前に結論が出ているのなら、会議をやる必要なんてない。茶番の結果が党本部一任。主体性のない地方組織は、党本部の下請け機関ということだ。連合福岡の指示を受けた県会議員の仕事だろうが、付き合っていられない。離党を考える」
■対立煽る労働組合
福岡選挙区を巡るゴタゴタは、国民と立憲の幹部同士の対立が原因だ。その背景については、今月17日の配信記事「立憲VS国民民主 「福岡・静岡」参院選候補擁立チキンレースの舞台裏」で報じたが、関係者の証言から、連合福岡の一部労組も両党組織の対立を煽っていることが明らかになってきた。
ある野党関係者によれば、参議選で国民民主党の候補を擁立するよう圧力を強めているのは、「野田さんは認めない」という厳しい姿勢をみせている電力や自動車などの旧同盟系労組。実際18日の県連常任幹事会では、代表の城井崇衆院議員が、旧同盟系の6つの産別から候補者擁立の要請が来ていることを明かしていた。連合は、旧民進党から分かれた国民民主と立憲の早期合流を促しながら、裏では対立を煽っているということだ。ある国民民主の関係者は、あきれ顔でこう話す。
「うち(国民民主)や立憲民主に、ひとつになれと言ってきた連合が、参院選の対立候補を擁立しろと言うのだから筋が通らない。そもそも連合福岡は、野田さんに国民と立憲の二つの政党から推薦をもらってこなければ支持しないと言っていたはず。仮に国民が擁立できても、その候補者を立憲が推薦することはあり得ない。つまり、はじめから狙いは野田潰し。原発反対、改憲反対の立憲に行った野田さんが憎いだけだろう。私らは、労組のために政治をやっているわけではないのに……」
別の国民民主所属議員によれば、労組からは「補者擁立の方針を決めないのなら、推薦を含め一切の支援を行わない」という脅しもあるとされ、同党の所属議員たちは、戦々恐々の状態だという。まるでヤクザのシマ争いだ。
■国民民主、県連崩壊の可能性
揺れる国民民主の態度に、怒り心頭なのは立憲の県連組織。参院選で戦うことを見越して、県議会や福岡市議会の共同会派を割り、立憲の所属議員だけで別会派を結成する方針を打ち出す構えだ。すると22人いる県議会会派「民主県政県議団」から10人近くが減り、福岡市議会の「福岡市民クラブ」からは10人の中から5人が抜ける。いずれも会派として数の力が落ちることになるが、深刻なのは国民民主の福岡市議会メンバー。残る5人のうち2人が社民系であることから、展開次第で国民民主系が3人になり、本会議での代表質問権が無くなる“非交渉会派”となる可能性が出てくる。
立憲側の報復は、地方議会レベルに止まらない。国民民主の現職衆院議員は、稲富修二氏と城井崇氏。稲富氏は福岡2区で、城井氏は福岡10区でともに落選し比例復活したが、立憲は何の遠慮もなく次の総選挙で対抗馬を擁立することになるという。稲富、城井両氏の小選挙区での票が激減するのは必至で、比例復活も困難になるものとみられている。
党本部と一部労組の暴走に、巻き込まれた形の国民民主党福岡県連。崩壊近しとみた複数の地方議員からは、「離党」を示唆する声が上がり始めている。