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立憲VS国民民主 「福岡・静岡」参院選候補擁立チキンレースの舞台裏 

2019年5月17日 09:15

DSCN0944--1.jpg 衆参ダブル選挙の可能性が高まる中、国民民主党と立憲民主党が、参院選の候補者調整を巡ってドロドロの争いを続けている。
 舞台は福岡と静岡。福岡は定数6(改選3)、静岡は4(改選2)の複数区で、両選挙区にそれぞれの党の公認候補が決まっていたが、ここに来て話し合いが決裂。福岡で国民が、静岡では立憲が新人候補の擁立に向けて走り出した。有権者無視で進む“野党内バトル”の実情を追った。
 
■国民・福岡県連、18日にも候補者擁立へ
 福岡選挙区で立憲民主党の公認に決まっているのは、八女市長から国政に転身した野田国義参院議員(当選1回)。民進党が国民民主党に移行する際に離党し、昨年暮れになって立憲に入党していた。

 こうした野田氏の動きが気に入らない国民民主と連合福岡の一部が、対立候補の擁立を検討。今年1月には、元裁判官で福岡県弁護士会に所属する春田久美子弁護士の名前が浮上したが、労組幹部が主導した密室選考に県連内部からも批判の声が上がり、候補擁立の話自体が立ち消えになっていた。

 この間の経緯について、ある国民民主党の関係者はこう解説する。
「統一地方選まで県連の代表だった吉村(敏男・元県議)さんは、野田さんの動きを苦々しく思っていた。野田さんは、『国民民主党公認か無所属で戦え』という榛葉賀津也(しんば かづや)参議院幹事長や吉村さんの説得を断り、立憲に行ったことで彼らの反発を買った。他に野田さんを悪く言う人がいるのも事実。しかし、国民から出ても(出馬しても)野田さんが勝てる見込みはない。政党支持率の差は歴然だし、いろいろな意見はあろうが、候補者としては当然の選択だったと思う。
 春田弁護士の件は、県連のほとんどの議員が知らないうちに決まっていた。そんな状況で、選挙になるわけがない。吉村さんが県議選で落選して、いったんは擁立見送りということになっていたのに、またぞろ擁立話……。しかも、党本部の都合を地元に押し付ける格好でだ。こんなもん、だれも納得しないだろう」

 事態が急展開したのは先週あたりから。統一地方選後、国民民主の県連代表になった城井崇衆院議員(福岡10区支部長)が、党本部の平野博文幹事長から叱責され候補者擁立を承諾。18日には県連の常任幹事会を開き、候補者擁立を正式決定するのだという。前出の国民民主党関係者は、あきれ顔でこう話す。
「誰を連れてくるのか知らないが、とにかく候補者を立てるんだという。擁立しても真剣に選挙をやる地方議員は少ないことが分かっているのに、バカな話だ。党本部の都合で、県連内部の声が無視されるなんて、絶対おかしい」

 国民民主党所属の別の地方議員からも、ボヤキしか出てこない。
 「うち(国民)は、3年後に改選を迎える古賀之士参院議員(当選1回)を抱えており、今回の選挙で立憲と対立するのはどう考えてもマイナス。立憲には、3年後に古賀さんを支援してもらえばいいというのが大方の考えだ。二人しかいない衆議院議員(福岡2区の稲富修二氏と福岡10区の城井崇氏)も、立憲とのケンカは避けたいところ。次の選挙で立憲に対立候補をぶつけられたら、復活当選も難しくなるからだ。現職の野田さんは、もともと民主党からの仲間、わざわざ共倒れを招くようなマネをする必要はない。うまくまとまりかけていたのに、県連代表の城井さんが平野幹事長から説得され、候補者擁立を承諾してしまった。『城井さん、どっちを向いているんだ』という話だ」

 福岡県の立憲と国民は、県議会において同一会派を組む関係。両党県連の支持母体である連合福岡が接着剤となっている。それぞれの党が候補者を擁立した場合、最前線でぶつかり合うのは日頃付き合いの深い地方議員であり、組合員。地元を知らない党幹部たちの都合に振り回される現状には、不満が出て当然だろう。事情を知るはずの国民の党本部が、なぜ福岡での候補者擁立にこだわるのか――。

■「静岡のかたきを福岡で」
 福岡の候補者調整に影響を及ぼしているのは、「静岡選挙区」を巡る党幹部同士の対立だ。静岡選挙区で改選を迎えるのは、国民民主党の榛葉参議院幹事長(当選3回)。野田氏を「1億円」で同党に来るよう説得し、失敗した人物だ。その榛葉氏の立場を脅かしているのが、立憲民主党の福山哲郎幹事長。榛葉氏との仲は険悪で、そのせいもあってか静岡選挙区での公認候補擁立に積極的なのだ。噂される候補予定者は、北海道知事選でも名前が挙がった徳川家19代目の徳川家広氏。本人は迷っているらしいが、ある政党の情勢調査によれば「出馬すれば勝てる状況」だという。

 国民民主としては、党幹部の落選だけは避けたい。立憲が静岡で榛葉氏に候補者をぶつけるのなら、同じ複数区の福岡で野田氏に刺客を送るという対抗策に出るしかなかった。「静岡のかたきを福岡で」というわけだが、これは“立憲が静岡での候補者擁立を見送れば、国民も福岡での擁立を断念する”という有権者不在のチキンレース。両党の駆け引きに、国家や国民のためという大義名分はない。迷惑しているのは、巻き込まれた形の両党地方議員と立憲の野田氏。いずれも「冗談じゃない」、というのが本音だろう。

 国民民主の支持母体は、連合の中でも右寄りの旧同盟系労組。改憲も原発も容認してきた組織だ。これに対し、立憲を支持しているのは旧総評系。改憲や原発には反対の姿勢で知られる。ある県政界関係者は、次のように分析している。
「国民民主党が候補者を立てても、立憲の野田さんは強いと思いますよ。むしろ戦いやすくなる。原発も改憲も反対だと、ハッキリ言えるようになるからです。国民民主も旧同盟系の労組も、憲法改正には前向きであり、原発再稼働も賛成。自民党と同じなんですよ。ただでさえ不人気の国民民主が、議席を狙えるわけがない。一強だなんだと批判されてきたが、こうした状況を招いた責任は、いまだにコップの中で争っている旧民主党の連中にあるんじゃないですか」



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