福岡市の高島宗一郎市長が20日、自身の公式ブログで、保守分裂となった福岡県知事選挙に立候補した元厚生官僚・武内和久氏を支援することを表明。21日の告示日には、武内陣営の出陣式に出席して支持を呼びかけた。
「政策を比べて判断した」という市長だが、支援表明のタイミングやこれまでの経緯から考えて、計算された動きと見る方が自然。つまりは茶番劇だが、それを隠すためかブログの記述の中でエキサイトし、現職・小川洋知事を支持する有権者を「福岡県民は不幸」と決めつけ誹謗中傷している。
■ブログの支援表明で「県民は不幸」
そもそも、高島市長と現職の小川洋知事とは宿泊税などを巡って対立関係が続いており、誰もが知る「険悪な仲」(市職員)。一方、武内氏は市長の後ろ盾でもある麻生太郎副総理兼財務相が推しており、つい先日まで福岡市の「政策参与」として高島氏自身が特別待遇を与えてきた人物だ(参照記事⇒「県知事候補は時給18,000円 元官僚に弁護士報酬を超える額 」)。間違っても市長が小川支持に回るはずがなく、どこで武内支援のアクションを起こすかが注目されていた。
武内氏は、最近になって県と福岡市がそれぞれ導入を検討し対立する事態となっている「宿泊税」に言及。「二重課税はしない」として福岡市の徴収権を認め、高島市長が支援表明をするための環境整備を行っていた。
もともと「武内支援」が市長の本音。ブログでは、武内氏の宿泊税や子供の医療費に関する姿勢を評価する一方で小川知事を厳しく批判。自民党の推薦を得た武内氏が大量リードを許す展開に苛立ちが募っているのか、傲慢にも小川氏を支持する有権者を「不幸」と決めつけている。
■虚偽と事実誤認による自己主張
下は、市長が武内氏支援を表明した20日のAmebaブログ。タイトルは《福岡県民が不幸なのは「イメージ情報」だけで福岡県知事選挙の投票をしなければならないこと》、その下に【福岡県知事選では武内和久候補を応援します】とある。
ラインのブログも同じ内容。ただし、見出し部分は前掲のものより明確に武内支援を打ち出している。
いずれも、見出しのあとに武内支援の理由が長々と述べられているのだが、冒頭部分にはこうある。
昨日までアテネで開催されていたOECD主催の会議に招待されていました。福岡市が世界に誇る「福岡100」の発表をするためです。ちなみに、この世界に先駆けたプロジェクト実現に貢献してくれたのが、実は武内候補なのです。武内候補は、世界が未経験の少子高齢化に対して、安心して住み続けられる具体的な政策を常に考え、その的確なアドバイスは福岡市の施策にも活かされていて、成果がダボス会議をはじめとして世界中の有識者から注目されているのです。
武内候補は福岡県知事になって、攻めの福祉をすると訴えています。福岡県、そして全国でこれから顕在化する少子高齢化に向けて、口だけでなく、本当に県民幸福度日本一、いや世界一を作れるのは武内候補と私は思います。
今の福岡県民が不幸なのは、武内さんのこうしたずば抜けた能力を全く知ることなく、報道されることもなく、単に麻生が連れて来た人とか、小川知事がイジめられてるという「イメージ情報」だけで、来るべき福岡県知事選挙で投票しなければならなくなっていることです。
内容が陳腐であることは明らか。まず、疑問府を付けざるを得ないのは《的確なアドバイスは福岡市の施策にも活かされていて》という市長の武内氏に対する評価だろう。福岡市が政策参与に就任した武内氏に対し、「時給18,000円」という法外な額の報酬を支払っていたことが明らかになっているが、同氏が特別職の公務員だったのか否かという記者の質問に答えた市保健福祉局の担当課は、「武内氏は、政策決定には関与していないから特別職ではない」と断言しているからだ。《的確なアドバイスは福岡市の施策にも活かされ》という市長のブログの記述は、虚偽である可能性さえある。
次に問題となるのは、《今の福岡県民が不幸なのは、武内さんのこうしたずば抜けた能力を全く知ることなく――》という一文だろう。武内氏の古巣である厚生労働省関係者に聞いてみたが、武内氏に“ずば抜けた能力”があるという評価は「聞いたことがない」という返事がほとんど。福岡市役所周辺でも“武内政策参与”の良い評判を聞くことはできなかった。活躍が話題にならない人に、“ずば抜けた能力”があるとは思えないし、ましてやそれが報道の責任であるはずもない。
武内氏は、昨年の4月から暮れまでKBC九州朝日放送の情報番組にコメンテーターとしてレギュラー出演していた。同氏の動きに注目し始めた昨年5月からほとんどの発言をチェックさせてもらってきたが、“ずば抜けた能力”を想起させるような発言や場面は記憶にない。テレビ関係者によれば、面白味のなさが同氏の知名度が上がらなかった理由でもあるという。《武内さんのこうしたずば抜けた能力を全く知ることなく、報道されることもなく》という高島市長の主張は、単なる言いがかりに過ぎないのである。
《麻生が連れて来た人とか、小川知事がイジめられてるという「イメージ情報」だけで、来るべき福岡県知事選挙で投票しなければならなくなっている》という記述も間違い。多くの県民は、武内氏を“麻生が連れてきた人”と思っているのではなく、誰が連れてきたのか分からない中で“麻生さんが無理やり自民党の推薦候補にした人”とみているのだし、“小川知事がイジめられ”てきたのも事実。いずれも“イメージ情報”などではない。要は、報道などで目の前に提示された事実を、個々の有権者がどう解釈するかということであり、選挙とは概してそうしたものだろう。県民を「不幸」と決めつけるのは、傲慢な姿勢による誹謗中傷。この程度の市長が3期も務めること自体が、県民にとっての「不幸」だと申し上げておきたい。
■自民党県議団が抱える矛盾
高島市長が武内支援を決めた理由は、ご本人がブログに記されたとおり、宿泊税と子供医療費という県と市が争う政策課題で、武内氏が高島市長の意向に沿う方針であることを明言したからだ。しかし、そのことで武内氏支援の中心となっている自民党県議団は、大きな矛盾を抱え込む格好になっている。
自民党県議団は、宿泊税導入を巡る県議会でのやり取りを通じ、福岡市との協議に行き詰った小川知事に「解決に向けて政治生命をかけろ」と強要し、実際にそう答弁させているのだ。市側に譲歩することを表明した武内氏を、このまま支援するというのでは筋が通るまい。
子供の医療費に関しても同じこと。県も県議会も、「子供医療費の額を増やせ」と叫んできた福岡市長の主張を無視してきた以上、武内氏の勝手な方針転換を認めることはできないはずだ。大票田である福岡市の票が欲しいからといって、これまでの経緯をなかったことにすれば、それこそ一連の小川知事への対応が“いじめ”だったと白状することになる。
告示前日というタイミングでの支持表明は、最大の効果を狙った高島流なのだろう。しかし、現職の小川洋知事が大量リードして迎えた選挙戦の様相が、大きく変わることはない。県民は不幸でも愚かでもなく、「イメージ情報」に躍らされているわけでもないからだ。
知事選には他に、共産党福岡県委員会副委員長で新人の篠田清氏が立候補している。