鹿児島県薩摩川内市(岩切秀雄市長)が福岡市のファンド会社に無償譲渡した宿泊施設「甑島館」の運営を巡り、昨年10月に支給した補助金1億円の使途が不明確となり、5月末に補助金支給決定を取り消していたことが分かった。市は、補助を受けた民間のファンド会社に全額を返すよう申し入れたとしている。
同市はファンド会社に対し、甑島館を無償譲渡した上、3回計1億7,881万8,000円の補助金を支出。このうち、無理に当初計画を見直す形で補助を決定した1億円の使途報告が、市の要求通りに提出されない事態となっていた。
市内部からは、補助金支出を強引に決めた岩切市長の責任を問う声が上がっている。(右が甑島館。同館のHPより)
■福岡市の「アイ・ビー・キャピタル」に過剰な補助金
薩摩川内市里町にある「甑島館」は、平成8年に建設された天然温泉を利用した宿泊施設。地上7階、地下1階の鉄筋コンクリート造りで、39の客室を備え、市内外の客に利用されていた。
建設から20年以上が過ぎた同館は、建物の老朽化が進む中で赤字経営に転落。平成23年度に300万円台だった赤字額が、25年度には800万円台にまで膨らんだため、市は民間に所有権を移すことで利活用する方針を打ち出し、公募に応じた福岡市のファンド会社「アイ・ビー・キャピタル」(本房周作代表)に、土地を除く施設のすべてを無償で譲渡していた。同館の評価額は、温泉権を含めて3億6,506万円となっている。
施設の無償譲渡に伴って支出された補助金は、総額1億7,881万8,000円。市は、まず無償譲渡の契約が締結された平成27年7月に、補助金支給を可能とするための「薩摩川内市里交流センター甑島館活用促進条例」(上限7,000万円)を制定し、翌年1月に事業費補助と温泉源改修のための5,881万8,000円を支給。27年の12月には、「里地域交流活性化施設整備費補助金交付要領」を策定し、別途2,000万円を支出していた。
この時点で当初計画の補助額7,000万円を上回っていたが、岩切市長は昨年10月、周囲の反対を押し切る格好で新たに「甑島地域宿泊施設整備費補助金交付要綱」(上限1億円)を策定。「アイ・ビー・キャピタルが“雨漏り”や“人手不足”などを理由に『運営が難しくなった』と申し出てきたため、やむなく追加の補助を決めた」(市側の説明)として、上限いっぱいの1億円をアイ・ビー・キャピタルに支給していた。無償で譲渡された施設の財産価値と合わせ、約5億5千万円に上る公有資産が同社に流れた計算となっている。
■実績報告未提出 市は補助金支給決定を取り消し
HUNTERが薩摩川内市への情報公開請求で入手したアイ・ビー・キャピタルの補助金申請書によれば、大規模改修工事の内容は館内外の防水塗装、ボイラーの入替、客室トイレ・空調などの入替、Wi-Fi設置などに1億8,600万円余りを使うというもの。市が1億円、同社が約8,600万円を出す計画になっていたが、改修工事の実態については市内外から「1億円以上かけた改修など行われていない」「補助金詐欺ではないのか」などと疑問を呈するの声が上がっていた。
疑惑は、改修工事が終わった直後から膨らんだ。市がアイ・ビー・キャピタルに補助金費消を証明する書類を要求したところ、同社は数か月間これに応じず、膠着状態に――。HUNTERは先月、改めてアイ・ビー・キャピタル側から出された補助金の使途を証明する文書を情報公開請求していた。
今月3日までに開示されたのは、27年の12月から翌年2月までに支給された2件分約8,000万円の補助金に関する実績報告だけ。昨年支給された1億円についての実績報告は、不存在となっている。市は、アイ・ビー・キャピタルに求めた実績報告などの書類が提出されないため、5月末に補助金の支給決定を取り消し、全額返済を求めているという。
市役所内部では、早くからアイ・ビー・キャピタルに対する過剰な補助金支出を危ぶむ声が噴出。4月にはHUNTERにも複数の告発文が届き、5月25日に「薩摩川内市に疑惑発覚 宿泊施設無償譲渡先に過剰な補助金」として、甑島館を巡る一連の過程に疑念があることを報じていた。市は、報道を受けた形で補助金の支給決定を取り消している。
福岡市のアイ・ビー・キャピタル本社には質問書を送付し、補助金の使途を証明する書類等を提示可能かどうか回答を求めたが、同社はこれを黙殺。事実上の取材拒否となっている。
ある市関係者の話。
「昨年10月の補助金については、事務方が強く反対した。強引に事を運んだのは市長だ。市長とある市幹部は、以前からアイ・ビー・キャピタルとの関係が疑われており、過剰な便宜供与に懸念を示す声もあった。補助金の原資は税金で、“騙されました”で済む話ではない。これではまるで補助金詐欺だ。議会にチェック機能がない以上、私たちが実態を告発するしかない」