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薩摩川内市に疑惑発覚 宿泊施設無償譲渡先に過剰な補助金
重なる「加計疑惑」の構図

2018年5月25日 08:00

00000-薩摩川内市.jpg 学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡る問題の構図は、総理周辺の意向で行政が歪められ、地元自治体が公有地を学園に無償で譲渡した上に100億円近い助成金まで支給したというもの。同じような構図の“事件”が、地方でも起きていた。
 鹿児島県薩摩川内市(岩切秀雄市長)への情報公開請求で入手した文書などから、同市が所有していた宿泊施設を民間のファンド会社に無償譲渡したうえ、岩切市長の専断で施設を取得した民間企業に億単位の過剰な補助金を支出していたことが分かった。補助金の総額は、当初市が条例で定めた上限をはるかに超えている。
 異例ともいえる民間企業への優遇に、市役所内部から「市長による民間企業への便宜供与ではないのか」との声が上がる事態となっている。

◆市の宿泊施設「甑島館」を無償譲渡
甑島館.png 問題の宿泊施設は、市内の甑島にある「甑島館」(薩摩川内市里町)。平成8年に「薩摩川内市里交流センター甑島館」として建設された同館は、地上7階、地下1階の鉄筋コンクリート造りで、39の客室に天然温泉の露天風呂、レストランなどを備えた施設だ。(右が甑島館。同館のHPより)

 建設から20年以上が過ぎた同館は、建物の老朽化が進む中で赤字経営に転落。平成23年度に300万円台だった赤字額が、25年度には800万円台にまで膨らみ、市は民間に所有権を移すことで利活用する方針を打ち出していた。

 平成27年に同館の経営を希望する民間事業者を公募。応募がなかったため期間を延長し、ようやく手を挙げた福岡市のファンド会社「アイ・ビー・キャピタル」と契約を結び、土地を除く施設のすべてを無償で譲渡していた。同館の評価額は、温泉権を含めて3億6,506万円となっている。

◆規定以上の補助金を次々に支出
 施設の無償譲渡に伴って補助金も支給されている。市は、当初条例で上限7,000万円と定められていた事業者への補助金を、別の補助金を積み増しする形で2,000万円増やし、さらに2年後、新たな補助金要領を策定して1億円の“追い銭”を支払っていた。これまでに支出された補助金の総額は合計1億7,881万8,000円。無償で譲渡された施設の財産価値と合わせ、5億5千万円に上る公有資産が、アイ・ビー・キャピタルに流れた計算だ。

 甑島館の運営を巡る動きの中で最大の問題となるのは、市がファンド会社に支給した補助金。まず、補助金の支出根拠と、申請日、支給決定日についてまとめると、次のようになる。

表
 無償譲渡の契約が締結されたのは平成27年5月26日だ。この時は仮契約で、同年7月の議会承認を経て本契約となっている。7月6日には、補助金支給を可能とするための「薩摩川内市里交流センター甑島館活用促進条例」(上限7,000万円)を制定し、翌年1月に事業費補助と温泉源改修のための計5,881万8,000円を補助金申請日と同じ日に支給決定。この間、27年の12月21日に別の補助金を支出するため「里地域交流活性化施設整備費補助金交付要領」を策定し、同日付けで申請を受け付け支給を決めていた。ここまでで、甑島館活用促進条例の上限(7,000万円)を超える7,881万8,000円が支出されていたことになる。

 無償譲渡から2年を経た昨年10月、薩摩川内市はまたしても当初計画を無視した補助金支給に踏み切る。新たに「甑島地域宿泊施設整備費補助金交付要綱」(上限1億円)を策定し、同館を運営するアイ・ビー・キャピタルに1億円の補助金を支払ったのだ。

 なぜ、施設を無償譲渡し、8,000万円もの補助金を支給したファンド会社に、追加の1億円が必要だったのか――。確認したところ、市は、アイ・ビー・キャピタルが「雨漏り」や「人手不足」などを理由に「運営が難しくなった」と申し出てきたため、やむなく追加の補助を決めたという。まさに“追い銭”だ。

◆無視された契約書
 しかし、雨漏りなど建物の老朽化に伴う内外装の劣化や人手不足は、補助金支給の理由にはならない。平成27年5月26日に、市とアイ・ビー・キャピタルの間で結ばれた「公有財産譲与仮契約書」には、次のように定められているからだ。

契約書

 「乙(=アイ・ビー・キャピタル)は、譲与物件に数量の不足又は隠れた瑕疵のあることを発見しても、甲(薩摩川内市)に対して損害賠償の請求をすることはできない」――。つまり、雨漏りなど内外装の不備が見つかっても、市が補修のための資金を出す必要はない。

 人手不足は、甑島館を運営する側の責任だろう。これについては、市は何の関係もない。アイ・ビー・キャピタルが、人を集めれば済む話だ。同社は、甑島館の運営事業者に応募した時、「社員教育(人材育成)・研修を強化し、総合的にレベルアップする」「現在の雇用形態や人数等を吟味し、当分の間は支障がないように雇用したいと思いますが、研修を重ねる中で、一人で複数の業務を行えるよう指導します。研修もテーマ別に行い、各分野のプロを育成したいと考えます」「いろんな会社で人材を育成していくような環境も作っている」などと人材確保についての自信を示していた。いまさら「人手不足」ではあるまい。

◆補助金1億円の使途に疑念
 「補助金を出さなければ甑島館の運営を投げ出す」――。もし、アイ・ビー・キャピタルが、これに近いことを述べて、補助金支給を迫ったのであれば、明らかな契約違反だ。契約書上、アイ・ビー・キャピタルは「10年間」甑島館の運営を行うことが定められており、勝手に退場することは許されない。現状を承知の上で、無償譲渡を受けたのだから当然だろう。そもそも、無償譲渡が決まってから2年も経って、1億円もの補助が本当に必要だったのか?

 市が開示した資料によれば、が市に提出した補助金申請書に記載された大規模改修工事の内容は、館内外の防水塗装、ボイラーの入替、客室トイレ・空調などの入替、Wi-Fi設置などに1億8,600万円余りを使うというもの。市が1億円、アイ・ビー・キャピタルが約8,600万円を出す計画になっていた。トラブルが表面化したのは、補助金が支給されたあとだという。

 改修工事が終わり、市がアイ・ビー・キャピタルに要求したのは工事内容の証明。公金が支出されているのだから当然だ。いったん提出されたが、これが要求した内容に見合うものではなかったため、市が再提出を求めたという。しかし、同社は再提出に応じておらず、「数カ月たった現在まで市が必要とする証明はなされていない」(市側説明)格好となっている。補助金支出に見合う改修工事だったのどうか、疑念が持たれる状況だ。

 HUNTERは23日、福岡市のアイ・ビー・キャピタル本社に質問書を送付。訊ねたのは、薩摩川内市から補助金費消の証明を再提出するよう求められているかどうか、補助金の使途と補助金費消を証明する書類等を提示可能かどうかの3点だったが、出稿までに回答はなかった。

 ファンド会社への無償譲渡と2億円近い補助金は、適正と言えたのか――。市内部からは「1億円の補助金支出は、本当に必要だったのか疑問。改修工事はアイ・ビー・キャピタルがやる約束で、無償譲渡が成立したはずだ。最後の1億円については、市内部や議会からも『必要ない』という意見が少なからずあった。市長が、強引に事を進めたのは、どう見てもおかしい。改修工事の証拠が示されていないということは、補助金支出の妥当性に疑義が生じているということ。市長及び市幹部とアイ・ビー・キャピタルとの関係にも疑念がある。加計学園を巡る疑惑と同じ構図だ。大変なことになるのではないか」などと、先行きを懸念する声が上がっている。



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