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財務次官セクハラ事件の背景

2018年4月20日 09:25

 女性記者へのセクハラ疑惑で財務事務次官が辞任に追いこまれた18日、テレビ朝日が夜の報道番組「報道ステーション」で自社の社員がセクハラ被害にあっていたことを認め、未明の記者会見で調査内容を公表した。 17日に配信した記事で、“被害にあった女性記者が社内でセクハラを訴えたが、相手にしてもらえなかったことから新潮にネタを流した――。考えられる筋書きは、そんなところだろう。”と書いたが(「新潮報道の問題点と記者クラブ制度の弊害」)、その通りだったということだ。
 じつはこの見立て、永田町や霞が関での取材経験を持つ記者なら容易に想像がついた話。背景にあるのは、容姿端麗の女性記者を選んで大物政治家などの担当に送り込む、一部報道機関の歪んだ取材姿勢だ。

◆政治家取材に女性を揃えるテレビ各局
 結論から先に述べるが、今回のような事件が起きた責任の一端は、記者クラブ加盟社――とくに在京キー局の取材姿勢にある。

 もちろん、セクハラは犯罪だ。権力を笠に着た財務次官がやった行為は、絶対に許されない。しかし、セクハラの機会を与えた報道機関の方に、まったく責任がないとは言い切れない。

 いつの頃からそうなったのか定かではないが、大手メディア―とりわけテレビ局が、大物政治家の番記者に若くて容姿端麗の女性を充てるようになった。お色気作戦で、鼻の下の長いオヤジ議員を篭絡しようという魂胆だ。

 目立つ女性記者が一人ふたりなら偶然と割り切ることもできるが、永田町の取材現場をのぞいてみると、アイドルタレントと見まごうばかりの女性記者がゴロゴロ。一部の報道機関が、意図的にこうした状況を作り出していることは確かだ。

 実際、茂木敏充経済担当相を担当している番記者が女性ばかりであることは、多くの報道関係者が認めるところだ。「女性記者には機嫌よく何でも話す」(全国紙記者)という茂木氏の性分に付け込もうと、各社が競い合った証拠である。情けないと言うしかない。

◆現場の記者たちは……
 ある閣僚の番記者を務める新聞記者は、こうした風潮について、苦々しげにこう話す。
「女性記者にだけ愛想がよくなる政治家がいるのは確かです。だから、そうした政治家には女性の記者が多くつく。茂木さんのケースはその典型です。キー局のお色気作戦は露骨で、見ていて胸くそが悪くなりますね」

 首相官邸の記者クラブで2年間取材した経験を持つ全国紙記者も、テレビ局の取材姿勢に苦言を呈す。
「男性政治家や高級官僚は、どうしても女性記者に弱い。そこで、なんとか情報を得ようと王道を外れた取材手法をとる報道機関が出てくる。とくにテレビ局の場合は、そうした傾向が顕著です。テレビ局には、女子アナ志望としか思えないような美人記者が多いのは確かで、新聞記者とは違う雰囲気の人が少なくない。話してみると、記者経験のなさがバレバレのような人もいて、こっちが心配になります。セクハラを誘発するような状況を作っている原因が、報道機関にあると批判されても仕方がないでしょうね。今回のケースは氷山の一角と言うべきかもしれません。もちろん、一番悪いのはセクハラする側。財務次官がやったようなセクハラが、また繰り返される可能性は高いと思います」

 一方、こうした現状について、女性の記者はどう感じているのか――。テレビ記者歴十数年のある女性は、次のように語る。
「私自身は、セクハラを受けたと感じたことはありませんが、後輩の記者から相談を受けたことはあります。地方でも、泣かされている女性記者はいるんです。ただ、容姿端麗の女性ばかりを送り込むことに問題があると言われますが、それでは容姿端麗の女性は取材するなということになりかねません。問われているのは、無言のうちに“女性を武器”にした取材を求める一部関係者の姿勢なのです。
 政界や経済界で重要な情報を握っているのは男性ばかり。重いポストに就く女性が増えれば、いまのような問題は減るんじゃないでしょうか。依然として男社会である日本の現状にこそ、問題があるのではないかと思います。
 (被害に遭った)テレ朝の女性記者には、がんばれとエールを贈りたい。取材した情報を他社に渡したことが批判されていますが、記者同士で情報交換するのは普通。結果的に犯罪行為を暴いたのだから、褒められるべきです。責められるべきは、セクハラの訴えに取り合わなかったその記者の上司ではないでしょうか」

◆忘れてはならない「西山事件」
 1971年、沖縄返還協定を巡る密約について、毎日新聞の西山太吉記者が外務省の女性職員と性的関係を結び、同省から持ち出させた機密文書を野党議員に渡したことが発覚して大事件となった。西山氏は国家公務員法違反(教唆)で、女性職員は同法の機密漏洩罪で逮捕・起訴され、いずれも有罪が確定している。取材手法を巡って様々な議論がなされてきたが、その時の教訓は生かされているのだろうか……。



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