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【財務次官セクハラ疑惑】新潮報道の問題点と記者クラブ制度の弊害

2018年4月17日 09:10

0417_sintyou2.jpg 文書改ざんに隠蔽、虚偽答弁と犯罪の底なし沼にはまった財務省の事務方トップに女性記者へのセクハラ疑惑が浮上。週刊新潮が証拠の音声データまで公表し、前代未聞の騒ぎとなっている。
 記者へのセクハラが事実なら即刻更迭か辞任が妥当だが、福田淳一事務次官は財務省の聞き取り調査に答える形で事実関係を否定し、新潮社を名誉棄損で提訴するとして反撃に転じる構え。財務省はセクハラを受けたとされる女性記者に、調査への協力を理由に名乗り出るよう呼びかけた。
 加害者が被害者に「出てこい」と脅しをかけるという非常識な対応に呆れるしかないが、別の視点で見たとき、新潮の報道内容が記者クラブ制度の問題点を浮き彫りにしていることに気付かされる。

◆女性記者はなぜ自分で記事にしなかったのか?
 事務次官が飲食を共にするほどの相手である以上、セクハラ被害を受けたとされる女性は「記者クラブ加盟社の記者」と考えるのが普通だ。霞が関の役人は、記者クラブに所属していないメディアの取材は断ることがほとんどで、例えば週刊誌やネットメディアの記者と飲食を共にする取材を受けることなどないからだ。

 そこで問題となるのは、セクハラを受けた記者が、自分で記事を書かず、新潮社にネタと音声データを渡したことだ。“被害”を受けたのは女性だが、職業は記者。自分で記事を書き、自社の媒体を通じて次官の犯罪行為を明らかにすべきだったのではないだろうか。

 酷な言い分かもしれないが、女性記者が所属する媒体が新聞であろうとテレビであろうと同じことで、他社にネタを流し音声データまで提供したとすればジャーナリスト失格だろう。重ねて言うが、被害にあったとされる女性は記者=ジャーナリストなのだ。ただ、それをできなくしている原因が、「記者クラブ制度」にあることを忘れてはなるまい。

◆ハラスメント黙殺 ― 記者クラブ制度の弊害
 女性記者が新潮にネタを渡した理由は容易に想像がつく。大手メディアは、自社の社員が受けたセクハラやパワハラには沈黙を決め込むのが相場で、相手が取材対象の権力者なら、なおさらだ。財務省の次官を相手にケンカを売れば、リーク情報はもちろん、他社が簡単に入手する情報でさえ得にくくなる。今後の取材活動に影響が出るのを避けるため、真実に蓋をしているということだ。

 実例を挙げればきりがないが、権力の監視を使命とする報道機関が、権力側の暴走を容認するという理不尽がまかり通っているのがこの国の現状である。記者クラブ制度がこうした事態を招いているということに、議論の余地はない。

 被害にあった女性記者が社内でセクハラを訴えたが、相手にしてもらえなかったことから新潮にネタを流した――。考えられる筋書きは、そんなところだろう。セクハラに目をつぶった社があったとしたなら言語道断。悪質なセクハラが報じられないというのなら、報道機関の資格はあるまい。普段からセクハラやパワハラを社会悪として報じている以上、一番身近で起きた“事件”をきちんとニュースにするのがジャーナリズムの基本だからだ。

 セクハラ被害を受けた女性が“記者”であるならば、つらいかもしれないが真相を文字に起こし、その記者が籍を置くメディアは一刻も早く“報道”すべきである。

◆腐りきった政府の責任者は「安倍晋三」
 新潮の報道に疑問を感じる一方、この問題に対する財務省側の対応には虫唾が走る。
 16日に公表した調査結果の中で同省は、福田事務次官からの聴取だけでは、事実関係の解明は困難として、被害にあった女性記者に調査に協力するよう呼びかけた。女性記者が絶対に名乗り出ないことを見越してのことだ。新潮はもちろん情報源を秘匿するし、実際、公開された音声データからは女性の声だけ消されている。訴訟を明言した上で被害者に「出てこい」というのは、脅し以外のなにものでもあるまい。

 名乗り出たとたん、その女性は週刊誌にネタを渡した記者として相当の批判を覚悟しなければならないし、下手をすれば記者としての今後を失う。記者の訴えを無視した可能性がある新聞もしくはテレビ局は、社名が漏れた瞬間に報道機関としての資格を失いかねない。どのみち名乗り出ることはできまいと踏んだ財務省が、強気に出たということだろう。歪んだ組織に犯罪者のトップ――。財務省は完全に腐っていると言うしかない。

 隠蔽、改ざん、虚偽答弁ときて、今度は開き直って被害者迫害。霞が関の犯罪行為のすべてが、森友や加計といった総理と総理夫人による友人への便宜供与に端を発している。国の行政のトップは安倍晋三首相だが、この人の内閣にいまだ2割から3割の支持があることが不思議でならない。



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