福岡市博多区の大型開発に介入したことが露見し、謹慎処分となった高島宗一郎福岡市長の政務秘書。公共事業や市の人事にまで口を出すことに関係者の反発が強まっていたらしく、謹慎処分になっていることを報じて以来、政務秘書の行状について告発するメールが急増している。
問題の政務秘書は公務員ではなく「私設」。一民間人が市政を歪める形になっているため、市長本人の監督責任を問う声も上がり始めた。
(参照記事⇒「市長政務秘書“謹慎”でざわつく福岡市」)
■目に余る政務秘書の危ない動き
高島市長の政務秘書は、北九州市を地盤とする自民党衆議院議員の元秘書。高島氏が初当選した平22年の市長選で選対のメンバーとなり、選挙後、政務秘書として活動するようになった。7年間、高島氏を支えてきた実績がある。
政務秘書が最初の“事件”を引き起こしたのは、市長選翌年の平成23年。高島市長の支援団体が開いた「政経セミナー"福岡市の新ビジョンを語る"」の準備段階で、副市長や局長といった市幹部を通じて10,000円のパーティー券を売りさばいたことが発覚。公務員の政治的中立を規定した地方公務員法や、公務員がその地位を利用して政治活動に関する寄附や政治資金パーティーの販売に関与することを禁じた政治資金規正法にも抵触することから、市議会で追及される事態となった。
発端は、「市長の私設秘書からパーティー券を押し付けられて困っている」「役所を利用したカネ集めは非常識」などとする市内部から上がった悲鳴。福岡市では平成9年、いわゆる「自民党パーティー券事件」が起きており、「市の歴史を無視した暴挙」として厳しい批判が出るのは当然だった。
(「自民党パーティー券事件」:自民党福岡市議団の創立40周年記念パーティーを巡って、市議らが市交通局幹部にパーティー券販売の斡旋を依頼。交通局幹部が地下鉄工事を受注した建設会社にパー券を割り当てていたことが表面化し同幹部が自殺した)
懲りない政務秘書が次に物議をかもしたのは平成26年。パーティー券での失敗にまったく懲りていなかったらしく、かつて市政を揺るがした「ケヤキ・庭石事件」の舞台となった第3セクター「博多港開発」の常務(当時)に、パーティー券の取りまとめを依頼。これを受けた常務が、港湾関係の企業・団体で組織される一般社団法人の上層部にパー券販売への協力を求めていたことが、HUNTERの報道で明らかになっている。
政務秘書への批判が高まりだしたのはこの頃から。公共事業に口出し、役所の人事に介入して仲のいい役人を重要ポストに押し込むなど、身の丈を超えた動きをするようになったという。市内部からは、「市長の秘書が公共事業の業者選定などに口を出してくる」という黒い噂が聞こえてくるようになっていた。役人を動かした見返りを特定業者に求めたり、あるいは実際に見返りもらっていれば、刑事事件になりかねない話。危ない話が増える一方、“夜の活躍”も取り沙汰されるようになっていく。
■中洲の夜 クラブで豪遊
夜の活躍ぶりは、具体的だ。政務秘書がよく遊んでいるのは、九州一の歓楽街中洲の高級クラブM。座っただけで数万円と言われる同店を、たびたび訪れる姿が確認されている。入店時も退店時も別々にするなど警戒していたようだが、同伴は決まって特定の建設業者だった。
クラブ遊びがお気に入りのようで、若い経営者などを引き連れ、派手に飲み回ることも――。ある会社経営者は匿名を条件にこう話す。
「私ら若手経営者が飲みに連れて行ってもらったのは2度、3度ではないですよ。豪遊ですね。もちろん、支払いは〇〇秘書。何十万円だか、キャッシュで払っているのを見た仲間もいます。一体、どこからあんなカネが出てくるのか、みんな不思議がっていますがね……」
数年前には、国家戦略特区に絡んで安倍晋三首相が開いたベンチャー企業経営者との意見交換会に参加した飲食店経営者の系列店で、大騒ぎする政務秘書の姿も確認されていた。
■“市長の責任”問う声も
前出の会社経営者が話すように、疑問に見られているのは遊興資金の出所だ。推測の域を出ないが、政務秘書は私設であるため、給料は高島氏の資金管理団体「アジアリーダー都市研究会」からの支給。実績に伴う支給額ではあろうが、何人も連れてクラブで遊ぶほどの高給取りとは思えない。「公共事業で口利きし、業者から見返りをもらっているのではないか」(市OB)との疑いが出て当然だろう。
下はアジアリーダー都市研究会の政治資金収支報告書から年ごとの収入と人件費支出を抜き出し、まとめた表だ。(*設立初年の正式名称は「高島宗一郎後援会」)
選挙の年を別にして、収入は着実に増える傾向となっている。それに伴い人経費も上昇。団体設立当初800万円台だったものが、何人分かは不明ながら1,500万円台にまでなっている。政務秘書の給料もそれなりに上がっていると思われるが、家庭持ちの政務秘書が、何度もクラブで遊ぶほどではあるまい。飲み歩くカネの出所は藪の中ということになる。
金銭授受がなくとも、市長の私設秘書が市の人事や公共事業に口出しするのは間違い。市政の歪みが同秘書の謹慎という形で顕在化した現状には、市役所周辺からも市長自身の監督責任を問う声が上がる。ある幹部OBは、次のように話している。
「私設秘書が市政に介入するなど言語道断。彼が、中洲で飲み歩いているという話もよく聞く。業者からの接待なら、事件化してもおかしくない。職務権限がないからといって、好き勝手できる訳ではないだろう。政治資金について市長は、すべてを政務秘書に任せているという。秘書の後ろにいるのは北九州の県会議員だ。福岡市政は、北九州人脈に牛耳られているといってもおかしくない。歪んでいるのは確か。それを許している市長に、一番の責任がある。官邸や北九州の方を向いた福岡市など、見たくもない」