“通告した質問の内容に即していない”“話が長い”などと言いがかりをつけ脱原発派議員の発言を封殺し、議会質問の一部を議事録から削除させていたことが分かった鹿児島市議会。顛末を報じた地元紙・南日本新聞の記事は、言論封殺を咎めるものではなく、責められた議員の名誉を貶めるものだった。取材過程を調べてみたところ、同紙記者の作為が疑われる状況。公平・公正を「逸脱」した、南日本新聞の記事とは……。
意図的に「逸脱」強調
取消しを余儀なくされた小川美沙子市議の発言内容は、原子力防災訓練の日程や見直しの方針などについて森博幸市長の見解をただすため、前提となる自身の経験や逸話を話したものだった。詳細を同市議に確認したところ、通告された質問と発言内容は乖離しておらず、「逸脱」と判断できるものではなかった(参照記事⇒「まるで北朝鮮 鹿児島市議会が脱原発派の発言を封殺」)。「前振りが長すぎる」という批判も、わずか4分の発言には当てはまらない。“言いがかり”で、議員の発言を封じることには賛否両論――。鹿児島市議会は、小川発言をどう取り扱うべきかについて、延々6時間も協議を行っていた。日程が終了したのは午後10時前。このため市職員が残業したのは確かだが、責任は、針小棒大に騒いで小川市議をいたぶった側にある。ところが……。
下は、南日本新聞13日朝刊の紙面。市議会の問題を報じる記事に、≪議員の発言「通告逸脱」≫と見出しを打っている。新聞は見出しにすべてを集約するもの。この記事を書いた記者と記事の掲載を許した同紙が、小川市議の発言を、通告した質問の内容から「逸脱」したと捉えているのは確かだろう。
記事では、経緯を短く紹介。騒ぎの結果、職員145人が残業し、管理職を除く職員の時間外手当や電気代として「約70万円」が発生したと結んでいる。記事本文中には見出しと同じ「逸脱」という言葉が2回。小川市議の発言が、質問通告から逸脱したものだったと決めつけた形だ。
揺らぐ「逸脱」の根拠
既報の通り、小川発言は通告された原発関連から逸脱したものではなく、質問の前提をつまびらかにしただけのもの。南日本の記者は質疑の模様を確認していたはずだが、なぜここまで「逸脱」にこだわるのか分からない。そもそも「逸脱」と書いた根拠はあるのか――。13日、議会事務局に聞いたところ「逸脱というのはどうも……」と困惑した様子。的を射た言葉ではないのでは、と水を向けると「そうですねぇ」。残業で発生した「70万円」についても、議会事務局は心当たりがないという。
14日、南日本新聞の報道部に、「70万円」の出所と「逸脱」が誰の主張なのかについて確認を求めた。折り返しの回答によれば、70万円は総務課への確認。「逸脱」という言葉は、議会事務局の次長に聞いたものだという。自信満々のご返事だったが、数時間後「先ほどの回答は誤り。『逸脱』は、議会事務局の議事課長によるもの」と訂正してきた。何時間もかけて、随分いい加減な話である。案の定、南日本の回答が、かなり怪しいものであることが明らかになる。
まず、「逸脱」を指摘したとされる議事課長は、「私は逸脱なんて言葉は使っていません。南日本の記者と歩きながら話したのは確かです。しかし、ちょっと違うかなという個人的な感想を述べたかもしれませんが、そこもハッキリとは覚えてないほど。職員の立場で、議員さんの発言を『逸脱』などと言えるはずがありませんから」――。南日本の記者は、意図的に「逸脱」と打ったということだ。“作為”をもって書かれた記事であることは、「70万円」という数字を引っ張り出した記者の動きで明確になる。
新聞記者の“作為”浮彫り
残業代など「70万円」の算出を行ったのは、市総務部の課長。確認したところ、議会日程の終了後に、南日本の記者から待機職員の数や残業代について聞かれ、大まかな数字を出したという。問題の記事の最後段にある残業代の記述は、南日本の記者が独自に見立て、市側に数字の提供を求めたものだった。問題意識を持つのは結構だが、記事の流れは、こうなっている。
小川市議を悪者に仕立てる意図がミエミエ。記事作成までの動きから言って、記者に作為があったのは明らかだ。しかも、論拠が極めて曖昧というのだから、呆れるしかない。
そもそも、市職員の残業は、この日に限っての話ではあるまい。役所の残業は日常茶飯。様々な事業に、残業はつきものだ。すべての残業の是非を検討した上で、議会当日の残業をあげつらうのならまだ解かる。しかし、南日本新聞が鹿児島市役所の残業実態を精査して、問題提起したケースなど皆無。小川市議に批判的な市議らの尻馬に乗って、発言撤回を余儀なくされた同市議を、無駄な税金支出の張本人に仕立てたというわけだ。これは、報道の名を借りた誹謗・中傷である。
残業代試算のためにさらなる残業
間抜けなのは、南日本の記者が、自身の行動と記事の趣旨が一致していないことに気付いていないところだ。前述した残業代などの推計を出したのは、総務部の課長。経緯の確認に対し、課長は同紙記者から残業代などの推計を求められたのが、議会日程の終了後だったことを認めている。つまり総務部の職員が、混乱議会で残業した後、新聞記者の問い合わせに応じて更なる残業をしたということになる。職員の残業を問題視した記者が、さらなる残業を強いた格好。滑稽と言うしかない。
南日本の問題の記事が、一歩間違えると「捏造」になりかねない作為的な手法で描かれたのは確か。悪質な世論誘導記事と言っても過言ではあるまい。ちなみに、「逸脱」とは本筋からそれること。小川市議の発言は、通告の前提を述べているのであって、本筋からそれているのではない。報道とは何かを問う前に、南日本の記者には、日本語の勉強が必要とみえる。