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稲田朋美政調会長の自民支部に公選法違反の疑い

2016年6月13日 08:15

寄附の記載 自民党の稲田朋美政務調査会長が代表を務める政党支部が、平成26年の総選挙直前、選挙区内の県議会議員に現金10万円を寄附していたことが分かった。
 公職選挙法は、政治家が所属する団体が選挙区内で当該政治家の名前を表記したり当該政治家が類推されるなどの方法で寄附することを禁じており、稲田氏側の現金供与はこの規定に抵触する可能性がある。

衆院解散の5日後、地元県議に10万円
 違法性が疑われる寄附を行っていたのは、稲田氏が支部長を務める「自由民主党福井県第一選挙区支部」。同支部が福井県選管に提出した平成26年分の政治資金収支報告書によれば、同支部は平成26年11月26日、福井県坂井市選出の小寺惣吉県会議員に対し10万円を寄附していた。(下が政治資金収支報告書の該当ページ。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

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 この年の総選挙は12月2日に公示、12月14日投開票という日程で実施されており、衆議院の解散は11月21日だった。県議への寄附はその5日後となる26日。選挙の買収資金と見られてもおかしくない格好だ。公職選挙法は、公職の候補者等の関係会社等の寄附の禁止について、≪第199条の三≫で次のように規定している。

 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)がその役職員又は構成員である会社その他の法人又は団体は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、これらの者の氏名を表示し又はこれらの者の氏名が類推されるような方法で寄附をしてはならない。ただし、政党その他の政治団体又はその支部に対し寄附をする場合は、この限りでない。

 今回のケースを条文にあてはめれば、稲田朋美=「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)」。自由民主党福井県第一選挙区支部が『公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)がその役職員又は構成員である会社その他の法人又は団体』にあたる。同支部の代表が稲田氏であることは選挙区内周知の事実であり、福井1区内の坂井市選出である県議は、そのことを承知していたと見るのが普通。支部名での寄附だったとしても、県議が稲田氏を≪類推≫するのは当然の状況だった。

違法性を否定する稲田氏側だが…… 
 寄附の趣旨と公選法上の疑義について自由民主党福井県第一選挙区支部に取材したところ、同支部の会計責任者は「小寺氏は現職の県議会議員で、その政治活動に対する政党からの寄附。公選法199条は、公職の候補への寄附を認めており、小寺氏は現職であり公職にある者であることから、寄附に違法性はない」として疑惑を真っ向から否定。問題はないと主張する。初めて聞く解釈だが、念のため199条のどの部分を根拠に違法性はないというのか再確認したところ、「199条の四」という答えが返ってきた。該当条文は、≪公職の候補者等の氏名等を冠した団体の寄附の禁止≫を規定したものだ(下参照)。

 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)の氏名が表示され又はその氏名が類推されるような名称が表示されている会社その他の法人又は団体は、当該選挙に関し、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)に対し寄附をする場合は、この限りでない

 福井県第一選挙区支部の会計責任者が言うには、小寺県議はこの条文の後半に出てくる≪当該公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)≫、一般的な寄附は違法だが、公職にある県議への寄附は合法だと断言する。たしかに、この条文を読むとそうととれないこともない。だが、会計責任者の条文解釈は明らかに間違いだ。

 じつは、会計責任者がいう条文後半の≪当該公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)≫とは、条文冒頭の≪公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)≫を指す言葉。今回のケースでは「稲田朋美」であって、他の政治家は該当しない。従って、稲田氏以外の個人に対する寄附は認められないのだ。

 そもそも、公選法第199条の四は、公職の候補者等の氏名等を冠した団体がやってはいけないことを示した規定であって、後半は例外。例外とはこの場合、稲田氏本人への寄附であり、他の政治家への寄附を認めたものではない。福井県第一選挙区支部の会計責任者は、誤った法解釈をしたか、あるいは回答に窮するあまり都合の良さそうな条文をみつけて強弁したかのどちらかということになる。“事実上の買収ではなかったのか”――そうした疑念も否定できない。

 稲田氏側の解釈が容認されるなら、選挙区内の議員という議員に対し公然と買収資金を渡すことが可能。いくら“ザル法”とはいえ、公選法が買収を認める規定を設けるはずがない。ちなみに、同法は199条三の規定に違反した場合について、「五十万円以下の罰金」という罰則規定を設けている。

 稲田氏が代表を務める自由民主党福井県第一選挙区支部を巡っては、平成20年以降に政治団体として設立された45にも上る後援会組織に対し、平成24年と26年の総選挙の直前にそれぞれ15万円~10万円の寄附を行っていたことが分かっている。
(参照記事⇒「稲田朋美自民党政調会長 衆院解散直後に支援45団体へ寄附」)



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