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僭越ながら:論

「報道の自由」と言うけれど

2016年5月13日 09:45

 「犬が人を噛んでもニュースにはならないが、人が犬を噛んだらニュースになる」――報道の在り方を示した英国人の言葉だというが、センセーショナルな話題ばかりを提供するのが報道の使命とは思えず、筆者はこの考えに不同意だ。報ずべきことは、山ほどある。
 しかし、この言葉通りの姿勢で下劣な報道を続けているメディアがあることは確か。さらに言うなら、犬が人を噛もうがその逆であろうが、我関せずとばかりに権力側の公表事項を垂れ流す御用メディアも存在している。
 先月、日本国内における「表現の自由」の状況を調査した国連の特別報告者が、権力側の圧力で委縮する報道機関の現状に警鐘を鳴らした。的を射た指摘ではあったが、こうした事態を招いた責任の一端は大手メディアにもある。とりわけ、彼らが支配する記者クラブこそ、この国のジャーナリズムを歪めた元凶ではないのか?

報道を歪めた「記者クラブ」
 報道に求められる最大の使命は、権力の監視。「報道の自由」とは、そのために認められた最後の砦であり、多くのジャーナリストが、それこそ命がけで守ってきたものだ。安倍政権の圧力で「報道の自由」が脅かされているのは確かだが、新聞やニュース番組の編集権が奪われているわけではなく、戦う意思さえあれば、権力批判は自由にできる。圧力に屈する報道機関の弱さにこそ、問題があると見るべきだ。

 そもそも、権力側と慣れ合い、自主規制や自粛といった形で成すべき仕事をしてこなかったのは国内の大手メディア。そこに所属する記者たちで構成される「記者クラブ」こそ、A級戦犯だろう。

 記者クラブは日本特有のシステムであり、先進国で一部メディアだけに情報を独占させるケースは稀。持ちつ持たれつの関係が、肝心の読者・視聴者を蚊帳の外の存在にしている。代表例が、首相官邸の記者クラブ。かつては、「神の国発言」で窮地に立った森喜朗元首相に、会見を切り抜けるための指南書を書いたバカな記者(NHK所属というのが定説)もいたほどだ。大物政治家に食い込むためには、「知っているけど書かない」が最善策。そうした政治記者の間違ったエリート意識が、この国の政治不信を助長した一因であることは疑う余地がない。

権力の犬
 地方自治体の記者クラブは、よりタチが悪いと言わざるを得ない。自治体の情報を他のメディアより早く報じるのがスクープだと信じ込む輩が増えたせいで、いまや首長や行政とつるむ記者ばかり。敵対者と見なされればリーク情報をもらえなくなるため、多くの記者が権力側に尻尾を振るようになった。こうなると「権力の犬」である。

 福岡市役所や鹿児島県庁の記者クラブの不作為については、何度も指摘してきた。ここ数年、市長や県知事への批判は影を潜めており、クラブ所属の記者が独自に調査報道を行ったという形跡もない。たまに出る行政批判は、社会部や遊軍によるもの。市民に届けられるのは、「福岡市は~」「鹿児島県は~」といった書き出しで始まる記事ばかりだ。主語は権力側。読者ではなく、権力側の視点に立った記事なのである。

 腰砕けの報道姿勢が、市民に間違った選択を行わせる場合もある。数年前、一期目途中の福岡市長が、警察の力を使ってHUNTERを抹殺しようと画策したことがあった。複数の元市幹部がこの事実を証言し、裏付けを取った新聞があったが、結局は記事化を断念。報道を力でねじ伏せようとした市長の行状を報じることはなかった。調子に乗った市長は、報道規制を強化。市政に批判的な報道があるたび、当該メディアの記者を幹部らが個別に呼んで恫喝するようになったという。

 東京都知事が出張問題で批判を浴びているが、負けず劣らずだったのが福岡市長。常時ファーストクラスという公費出張において、自腹で東京泊を延長。芸能人との夜を満喫するなどやりたい放題だった。しかし、一連の出張問題を報じたのはHUNTERだけ。議会でも問題になったが、記者クラブ加盟社は一切報道していない。報道を歪めた福岡市長は、その後の市長選で再選を果たしている。現在、新聞の市政批判は形だけ。記事中で遠回しの皮肉を書くが、見出しはいつも市政礼賛である。

 鹿児島県庁の記者クラブはさらに酷く、県側の主張が最優先。県内最大の部数を誇る南日本新聞に至っては、読者ではなく知事の立場を擁護する始末だ(参照記事⇒≪「報道の自由」をはき違える南日本新聞≫。よくよく見れば、新聞の紙面は広報記事のオンパレード。当然、事件・事故が起きなければ、役所の悪行は表に出ない。報道の堕落は、福岡、鹿児島の記者クラブだけではあるまい。

深刻な記者の能力低下
 記者の能力低下も深刻だ。ある全国紙の幹部社員はこう嘆く。「ネットでネタを探す記者がいる。自分の足、人的ネットワークではなく、インターネットで記事のネタを探す。それで格好がついて、『新聞記者』を気取っていられるのが現状だ。権力を監視する能力も、志もない記者が増える一方。新聞の部数減は、まさにこれが大きな原因であることに気付いてもいない。能力がないから、権力側からの貰いネタを有難がって、取り込まれた末にちょうちん記事を連発。呆れた読者が購読を止めることで、部数減に陥るという負の連鎖が止まらない。地方の記者クラブで悪い癖がついた記者が、東京でジャーナリストに変身するとは思えない」

 「報道の自由」は民主主義国家の絶対条件。守らなければならないのは当然だ。しかし、一方で「報じない自由」というぬるま湯に浸っている記者たちの、なんと多いことか……。記者クラブ解体こそ、この国のメディアを再生させる最善の策だと断言しておきたい。

 ロッキードにリクルート、戦後を揺るがした大型事件は、新聞のスクープから始まった。いま、永田町の政治家がもっとも恐れているのは週刊誌。決して新聞ではない。ただし、週刊誌が狙うのは知名度のある人物ばかり。センセーショナルな話題しか掲載せず、地方都市のネタには振り向きもしないのが現状だ。地方を拠点にするネットメディアの存在意義は、まさにそこにこそある。HUNTERは、地方の権力に噛みつく犬でありたい。



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