原発事故の避難対象を、緊急防護措置区域(UPZ)の30キロ圏に限定し、議論を矮小化させる国や地方自治体。そのせいで、市域が玄海原発(佐賀県玄海町)から60キロ圏内にすっぽり含まれる福岡市の場合でさえ危機感に乏しく、ほとんどの市民は、見捨てられた格好。市が40キロ圏を対象として策定した避難計画も、実行性は無きに等しいものだった。(参照記事⇒「30キロ圏外は「原発棄民」 原発事故避難計画の問題点(上) 」)。
それでは、市域の一部が川内原発(鹿児島県薩摩川内市)から30キロ圏内に入る鹿児島島市は、どのような対応をしているのか――。同市の避難計画を見直したところ、こちらも大半の市民が「原発棄民」の扱いとなっている。(写真は川内原発)
実効性に乏しい避難計画
鹿児島市が策定した「鹿児島市原子力災害対策避難計画」は、市内全域を対象としたものではない。対象になっているのは川内原発から概ね30キロ圏内にあたる「郡山地区」の一部だけ。しかも、郡山地区限定の避難計画でさえ、実効性に疑問符が付く状況だ。
川内原発で重大事故が起きた場合、郡山地区住民の緊急輸送に出動するバスは市交通局所属の2台。だが、肝心のバスの運転手が、事故当日に確保できるかどうか分からないというのが実情なのである。
鹿児島市交通局は、一部の運行業務を民間のバス事業者に委託しており、その区間の運転手が、原発の過酷事故で出動することはない。鹿児島県が民間のバス事業者と結んだ「バス協定」は、運転手が浴びると予想される放射線量が「1ミリシーベルト以下」の場合にしか出動要請ができないという内容になっているからだ。鹿児島市は、「公務員」の身分を持った運転手を出動させるとしているが、公務員運転手の数は153人。そのうち59人は嘱託(非正規)で、正規の公務員は92人しかいない。
92人もいれば十分と思えるが、正規の乗務員に話を聞いてみたところ、「初めて聞いた」「聞いたことがない」「ひょっとしたらとは思っていたが、(交通局から)正式な話はない」「何も聞かされていない」といった反応ばかり。現場の市バス乗務員たちの大半は、災害避難についての詳細を聞かされていなかった。鹿児島市が避難計画を策定したのは平成25年11月。以来、今日に至るまで、市が市バスの乗務員に具体的な避難業務について説明したことはないのだという。これほど市民をバカにした計画はあるまい。
人口60万、避難対象は879人
最大の問題は、大多数の鹿児島市民が、「原発棄民」にされていることだろう。下は、同市の避難計画に示された30キロ圏を示す図。対象は30キロを示す同心円の内側、画面で分かる通り左上のごくわずかな面積である。
鹿児島市の面積は約547㎢。原発30キロ圏内となる郡山地区は、その3%にも満たない面積だ。市の避難計画対象地域内は487世帯、879人(H27年4月1日現在。鹿児島市調べ)なのだという。一方、市全体の人口は約60万7,000人(H26年3月末現在)。鹿児島市の避難計画は、人口全体の0.1%の住民しか対象にしておらず、60万人以上の市民は、見捨てられた状況となっている。30キロという区切り自体がナンセンスであることは福島第一の事故が実証済みのはずだが、“市民は勝手に避難しろ”というのが鹿児島市の姿勢なのである。福岡も鹿児島も、30キロ圏以外の住民は「原発棄民」。それでも原発再稼働を認めるというのだろうか……。
ちなみに、鹿児島県が川内原発の事故を想定して実施した「避難訓練」に、鹿児島市郡山地区の住民が何人くらい参加したのか聞いてみた。鹿児島市の回答は「(879人中)40人」。大多数の住民が、そっぽを向いた形となっていた。