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30キロ圏外は「原発棄民」 原発事故避難計画の問題点(上)

2016年3月25日 10:15

玄海原発 放射線測定装置(モニタリングポスト)に焦点をあて、川内原発の避難計画に不備があることを報じた朝日新聞。これに対し、激しい言葉で朝日を非難し、報道への圧力を強めたのが原子力規制委員会。産経新聞は、騒ぎに乗じて卑劣な朝日叩きを行った。
 それぞれの主張は、立ち位置が住民側か権力側かの違いによるもの。避難計画の対象を原発から30キロ圏内に限定したことについては、いずれも変わりがない。
 こうした議論ばかりのせいで、30キロ圏以外の国民はすべて置き去りの、いわば「原発棄民」。原発に重大事故が起きれば、同じように避難が必要になるにもかかわらず、自治体の避難計画ではその存在自体が無視されている。
 まず、市域が玄海原発から40~60キロ圏にある福岡市の避難計画を検証した。(写真は玄海原発)

机上の空論
 福岡市は、平成26年4月に「福岡市原子力災害避難計画」(暫定版)を策定し、全文を市のホームページ上で公表している。結論から述べるが、避難計画とは名ばかり。実効性に欠ける机上の空論である上、大多数の福岡市民は防護措置の対象にもなっていない。以下、計画書の記述から呆れた内容を見てみたい。

 福岡市は、玄海原子力発電所からの距離が30㎞以遠であることから、国が定める「原子力災害が発生した場合における緊急防護措置を準備する区域(UPZ)」に含まれる区域とされていない (「計画策定の趣旨」より)
 福岡市は、玄海原子力発電所から30㎞以上の距離があることから、市内の空間放射線量率が500μSv/h(マイクロシーベルト)を超えるような高い空間放射線量率になり、緊急防護措置(OIL1)の区域指定を受ける事態に至る可能性は低いと考えられるが、万が一、国から緊急防護措置(OIL1)の区域指定を受ける事態に至った場合の避難については、次の一時移転における避難方法を準用する。(「急防護措置(OIL1)が発出された場合における避難等の方法」より)

20160325_h01-02.png ≪玄海原子力発電所からの距離が30㎞以遠≫、≪福岡市は、玄海原子力発電所から30㎞以上の距離≫――原発から30キロ以上離れていることを強調するのは、市が原発事故の恐ろしさから逃げている証し。本音は、避難計画など必要ないと思っているのだろう。

 ≪緊急防護措置(OIL1)の区域指定を受ける事態に至る可能性は低いと考えられる≫――市のトップはよほどの楽観論者らしく、市内での線量が即時避難の判断基準となる500マイクロシーベルトを超えることなど「ない」という姿勢だ。そのため、万が一の事態になっても、避難方法は≪一時移転における避難方法を準用する≫などという寝ぼけた策で終わりとなる。

 一時移転とは、線量が毎時20マイクロシーベルトとなり、1週間以内の避難が指示される場合のこと。高線量が記録され緊急非難が求められるケースと、低い線量のケースとでは住民の動きがまるで違うはずなのに、福岡市は、はなから混乱状況を計算外にしている。危機感ゼロ。福岡市民は、たまったものではない。

 まじめに事故対策を考えていないことは、次の一節を見ても明らかだ。

 原子力災害発生時には、避難所の開設数が相当数に上ることはもとより、長期間の開設を余儀なくされることが予想される。また、糸島市からの避難者受け入れについても考慮する必要がある。(「避難所運営等の配備態勢」より)
 避難して来るのが、市内の一部と糸島市の住民だけになるという想定。それ以外の福岡市民のことは、ここでも置き去りになっている。あり得ない想定は、まだ続く。次は避難方法についての記述。
① 避難所までは、原則、近隣で乗り合わせのうえ自家用車の使用を指示すること
② どうしても前①による避難ができない住民等に対しては、市が県と協力して準備するバス等で避難所までの輸送を行う。
③ 対策本部は、①、②の避難手段に加え、合理的な他の交通手段を活用できる場合は、状況に応じてその方法を指示する。

避難所(一時移転先)までの主要経路
 避難所までは、避難に伴う交通渋滞の緩和、住民等に対するスクリーニング及び除染を確実に実施するため、事前に経路を指定するものとする。(「一時移転の方法」より)

 福岡市民が、保有する自家用車を一斉に動かせばどうなるか、子どもでも分かる結果だ。かつてない渋滞で、道路上では極度の混乱が拡がるだろう。そうした中で、避難ルートを指定して通行を確保するなど夢物語にすぎない。さらに、≪市が県と協力して準備するバス≫が、本当に動かせると思っているのなら、これは相当におめでたい人間が作った計画だ。放射性物質が降りそそぐ中を、一体どこのバスが稼働できるというのだろうか。

 福岡市が避難計画の対象と見ているのは、原発から40キロ圏内にある市内西区の一部だけ。50キロまで延ばせば、早良区や城南区、中央区の一部も入るはずだが、市はこれを無視している。理由は簡単。計画対象地域を50キロ圏内までにすると、避難計画そのものが成り立たなくなるからだ。

避難所
 原則として、玄海原子力発電所から50 ㎞圏外に位置する市立の小中学校(別表2)を指定するものとし、可能な限り校区等のコミュニティを単位として収容できるように配慮するものとする。
 初めから、50キロ圏外は「安全」と決めつけた計画であることは確か。放射性物質の拡散は、風の向きやその強さによって大きく変わるということを黙殺した結果だ。これでは、大多数の市民はが「原発棄民」ということになる。しかも、40キロ圏内を対象とした避難計画でさえ、実効性はゼロ。福岡市長に、「市民を守る」という強い意志は感じられない。

 次稿では、市域の一部が川内原発の30キロ圏内に入る鹿児島市の「原子力災害対策避難計画」を再検証する。



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