福岡市の伝統行事「博多祇園山笠」をめぐって、運営組織のひとつである「東流(ひがしながれ)」に、正規の会計収支と同規模の現金を簿外で処理するという不正が見つかった(5日既報)。簿外金は、年間で1,000万円を超えていた可能性もある。
杜撰な会計処理の発覚を受けて、山笠への補助金を支給している福岡市も監査に入る構えだが、東流絡みのカネについてはもう一つ、大きな疑念が生じている。
問題があったと見られているのは、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に対する「義援金」の扱いである。
震災義援金300万円
下は、東日本大震災が発生から1カ月後、4月10日の西日本新聞朝刊(都市圏版)の記事だ。博多祇園山笠振興会が義援金の呼びかけを決めたこと、さらに、これに先立って流のうちの千代流と東流が義援金を市に贈ったことが報じられている。
東流の義援金は300万円。19町が参加する大きな組織とはいえ、かなりの額で、当時他の山笠関係者からも驚きの声が上がっていたという。たしかに、一団体としては高額の義援金だ。さらに、流の関係者の中からは「400万以上集まったらしい」「いや、500万と聞いている」などと確証のない話も――。調べていくと、不明朗な実態が浮かび上がってきた。
義援金は、流の代表の呼びかけで各町ごとに集められたというのだが、数千円単位の端数があったものが少なくなく、“ピッタリ300万円”となる可能性は低い。東流が出した複数の領収書も確認したが、確かに千円単位の端数があるものばかり。300万円ちょうどになるのは、よほどの偶然がない限り難しい。
誰も知らない本当の募金額
取材を進めるなか、流の関係者の中で、義援金についての詳しい報告を聞いた者がいないという実態が明らかになった。驚いたことに、流の会計担当者でさえ、「領収書を切った記憶はあるが、義援金は執行部の扱いで、会計としては全体を把握していない。いくら集まったかは、執行部に聞いてもらうしかない」……。総務経験者をはじめ、他の流の役職者も「(詳細は)わからない」と口を揃える。取材した関係者すべてが、最後は「代表に聞いてもらうしかない」という状況なのだ。
東流代表との一問一答
一連の不正会計について取材していた記者は、周辺取材から得た情報と合わせ、ある確信をもって東流の代表者に話を聞いた。初めは電話、次に代表宅でのやり取りである。
【2月3日 電話取材でのやり取り】記者:東日本大震災の義援金について尋ねるが、集めた金額を記憶しているか?
―― 300万くらい。記者:代表は、東流の皆さんの前で、個人的に100万円を寄付されたと聞いているが、事実か?
―― そう。記者:それを入れて300万か?
―― そう、そう。記者:すると、集まった義援金は200万ということか?
―― そりゃ、それ以上集まるくさ。個人の、山笠に参加しとる人の分と自分が出したのと(合わせると)、500万近くあるやろが。記者:500万前後集まった?残りは?
―― そりゃね、会計さんが握っとるカネがあるくさ。記者:握る?会計が?
―― うん。記者:義援金の正確な金額は、誰が把握しているのか?
―― そりゃ、会計さんに聞いたら分かる。記者:会計担当者は、執行部がやっていたことだから、詳細については分からないと言っているが?
―― 100万円は私が出したとばってん、あとの200万は会計さんが知ってるはずじゃが……。記者:本当に100万円自腹を切ったのか?
―― ああ。記者:事実は違うんじゃないか?
―― どうして!記者:代表が出された100万円は、ポケットマネーではないという証言がある。
―― いや、それは、流れの積み立てとったカネがあったけん、100万出したよ。記者:それは山笠で積み立てたカネ、つまり東流のカネではないのか?
―― まぁ、そげんなるね……。記者:どうやって捻出したのか?
―― それは、あの~~、山笠の台やらなにやら、よその流に貸した礼金やらもろてから、そげなのを積み立てたカネがあるけん……。記者:東流には、正規の積立金が1,000万円ある。代表が言っている積み立て金は、別のものということになる。いずれにせよ、義援金の100万は、代表個人のカネではなかったということで間違いないか?
―― ああ、俺の個人のカネじゃなか。記者:その100万円は、どうやって作ったのか?
―― そりゃ、私が個人的に預かって、ためとった。記者:他にプールしている分は?
―― ないよ。記者:いや、あると聞いている。
―― 多少はあるよね。記者:どのくらいか?
―― 分からん。記者:あるのは間違いないか?
―― あるには、あるよね。
代表の100万円 プール金を流用
開いた口が塞がらない。東流関係者の前で、代表者がポケットマネーだと称して出した義援金が、じつは同流のカネを流用したものだったと言うのである。別の使い方をしていれば、横領を疑われてもおかしくない行為。義援金になったから多少の救いはあるのだろうが、割り切れないも思いを抱く流の関係者は少なくあるまい。最大の問題は、義援金全体の額が、判然としないことだ。
代表者はこの時、集まった金額について、500万という数字を出している。市に贈ったのが300万円であることは、記者が福岡市側に確認しており、間違いはない。しかし、義援金の正確な額について、はっきりした話ができないばかりか、会計担当者が残りの義援金を「握っている」――つまり、保有しているという。事実なら大問題。多くの善意を裏切ることにもなる。翌日朝、代表宅を訪ねた記者は、再度、義援金について確認した。
【2月4日 代表宅でのやり取り】記者:東日本大震災の義援金について、確認する。はじめ、500万円という話だったが?
―― そげんは、集まっとらん。記者:1日で額が変わるのか?では、どのくらい集まったのか?
―― 300万くらい。記者:300万のうち100万を代表個人が出した格好にした?
―― うんうん。記者:その100万は、東流のカネを手元にプールして、自分のポケットマネーだと称して出した。間違いないか?
―― うーん、個人的なカネも少しは入っとったと思うがね。記者:100万の原資は、手拭等々の販売収益や祝儀をためたカネで間違いないか?
―― ……そう。
問われる自浄能力
義援金は、流の関係者の善意の証(あかし)だ。当然、1円たりともごまかしがあってはならないはず。だが取材の結果、集まった義援金の額を、代表者も会計も記録していないというのだから呆れるしかない。一体いくら集めたのか――。代表者に2回、会計担当には3回も確認したが、要領を得ない。平成23年に東流の「総務」に就いていた人物にも確認したが。「福岡市に義援金を持って行くというので、代表に同行したが、義援金300万円が袋に入れてあったことしか覚えていない」と話しており、真相は藪の中。その他の役職者にも聞いてみたが、いずれも「分からない」という回答だった。
義援金の記録を残さなかった時点で、すでにグレー。集まった義援金が、200万円以上であったとすれば、幾人かの善意が違う目的で費消された可能性さえ生じる。東流として、義援金の流れを精査するのは当然だろう。この点については、同流の今後の説明に注目したい。
もう一点、東流の会計について述べておきたい。先週報じた通り、同流の不正会計の柱は二つ。まず、『飾り山』に関する700万円があり、もうひとつが手拭やハッピ、扇子といった物品の販売益に祝儀を加えたプール金だ。前述したように、東流の代表者は、その他に「山笠の台やらなにやら、よその流に貸した礼金」があったことも明かしており、正規の会計とは別にしてきたカネの額は、膨らむ一方。だが、プール金の使途については帳簿や領主書が残っていないといい、実態解明を阻む要因となりそうだ。
山笠には市民の税金が補助金として支出されており、「分かりません」では済まない問題。監査にあたる市側にしても、“税金分はきちんと処理されていた”などという、こどもだましの結論でお茶を濁すことは許されまい。