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山笠「東流」の不正経理 問われる振興会と福岡市の責任

2016年2月12日 09:10

 3.jpg福岡を代表する伝統行事「博多祇園山笠」の運営組織のひとつ『東流』で発覚した不正経理問題。じつは、流の関係者の間では、早くから「カネの動きがおかしい」「収入は、公表されている額よりはるかに多いはず」といった疑問の声が上がっていたという。
 こうした事態を招いた原因は、流の運営権限を代表ら数人に集中させるという東流特有のやり方にあると見られる。他の流では、「代表」という役職自体珍しく、毎年選ばれる「総務」が運営の一切を取り仕切るのが普通。しかし、東流では総務にそこまでの権限はなく、会計を含めた流の運営方針が、事実上代表周辺の意思で決まる仕組みとなっていた。
 では、不正を放置したのが東流だけの責任かというと、そうともいえない。山笠の関係者で構成される「博多祇園山笠振興会」や同会を通じて山笠各流に補助金を出している福岡市も、東流が提出した決算報告の整合性のなさに気付いていた可能性があるからだ。
(写真は、東流の『飾り山』。博多祇園山笠振興会HPより)

決算内容を比べてみれば……
 現在、山笠に参加している組織は17。博多の町を走る『舁き山』と、所定の場所に固定された『飾り山』に分けられる。舁き山は東流のほか千代流、恵比須流・土居流・大黒流 ・中洲流・西流の、いわゆる「七流(しちながれ)」のみ。上川端通・新天町・渡辺通1丁目・福岡ドーム・ソラリア・博多駅商店連合会・キャナルシティ・川端中央街・博多リバレイン・天神1丁目は飾り山だけで、七流のうち東、千代、中洲の三つの流が飾り山と舁き山の両方を運営している。

 山笠に対しては、観光客などの誘致促進を図る目的で、年間2,700万円の「祭り振興補助金」が、博多祇園山笠振興会に支給されており、そこから各流の『舁き山』に225万円、『飾り山』に90万円が配分されている。東流の場合は、『舁き山』と『飾り山』の両方があるため、計315万円の補助金収入だ。

 舁き山や飾り山の運営母体は、それぞれが寄付や協賛金を集めており、これに補助金を加えたものが年間の予算。組織によって差があり、数百万円台から2,000万円台までとまちまちだ。ただし、「飾り山」に関しては、いずれの山もかなりの費用を要していることが分かる。

 下は、飾り山のみを運営している新天町とソラリアの平成26年分の決算報告書。飾り山関連経費として、それぞれ約1,400万円、2,200万円が支出されている。

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2-飾り山.jpg

 次は、舁き山と飾り山の両方を持つ千代流の決算報告。それぞれの山ごとに決算報告書を作成しているが、舁き山も飾り山も予算は1,000万円超。飾り山だけで、1,120万円あまりを費消している。

3―飾り山.jpg 4―飾り山.jpg

 飾り山は、「表標題」「見返り標題」と呼ばれる前・後の人形飾りが豪華なため、まず人形師への支払いがかさむ。さらに、「山小屋」と称される建屋の建設、照明用の電気工事などが加わるため、どうしても一定の額が必要になるのだという。飾り山を運営している大半の組織が、制作費に1,000万円以上の資金をつぎ込んでいる状況だ。

不正経理、見過ごした振興会と福岡市
 一方、飾り山関連経費や物品販売の収益、さらには祝儀などを帳簿外で処理していたことが明らかとなった東流の収支決算がこれだ。

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 他の流の決算と比較すれば一目瞭然。東流の収入・支出は、舁き山と飾り山の両方をやっているにもかかわらず、極端に少ない。すべての決算書があれば、この違いは、子どもでも分かるはずだ。そして、すべての決算報告書を見ることができたのは、博多祇園山笠振興会と福岡市だけ。つまり、各組織の決算内容を監査する立場の振興会や福岡市は、当然、この不自然な東流の収支に気付いていなければならなかった。不正を見抜けなかったとすれば、その目は“節穴”。分かっていて見逃してきたのなら、同罪ということになる。

 振興会は、山笠の各組織の人間で構成されており、歴代会長は七流の中からの選出。東流のナンバー2は元振興会会長でもある。どう甘く見ても、「知らなかった」という言い訳には説得力がない。もちろん、最終的なチェックを行ってきた福岡市にも責任の一端はあるだろう。事実、山笠関係者からは「振興会も福岡市もグル。どんぶり勘定を黙認してきたのではないか」といった声も上がっている。

 山笠が、各流の自主財源だけで運営されているのなら、会計処理の勝手気ままも許されよう。しかし、伝統行事である山笠には補助金2,700万円が支給されており、それこそ山笠が福岡市の宝である証左。不正に対する毅然とした態度が求められるのは当然だろう。もし、東流が後出しの領収書などを提出してお茶を濁し、振興会や市がこれを容認して幕引きを急ぐようなら、東流の構成員だけでなく、市民をも裏切る二重の背信行為となる。膿を出し切ることが、伝統行事の健全な発展につながるということを、関係者は自覚すべきであろう。

 
 

 



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