運営資金の不正経理に加え、東日本大震災の義援金にまで疑義が生じた「博多祇園山笠」七流のひとつ『東流』。不正経理は少なくとも20年以上続いていたとみられ、簿外処理されたカネは、年間1,000万円を超えていた可能性がある。
簿外金として扱われた収入のうち、相手先が分かっているのが地場企業4社からの協賛金700万円。これを『飾り山』の製作費に充てたとする東流の幹部たちだが、「総額830万円くらい」(流の代表及び会計の証言)とする根拠が、証明不能の状態だったことが分かってきた。
さらに、HUNTERが取材を加速させた1月、製作費の一部となる支払いに関する領収書を、再発行させていたことも明らかとなった。(写真は東流の『飾り山』。博多祇園山笠振興会のHPより)
説明つかぬ「飾り山」制作費
山笠には、博多の町を走る『舁き山』と、所定の場所に固定された『飾り山』がある。東流は、二つの山のうち『飾り山』に関する収支のすべてを、代表者に一任する形で簿外処理していた。(下は東流の『飾り山』。H25~27年。博多祇園山笠振興会のHPより)
『飾り山』制作を支えているのがJR九州、新出光、福岡地所、ふくやの4社が出す協賛金700万円。同流の代表と会計担当者の話によれば、『飾り山』には毎年総額830万円ほどかかっており、協賛金の700万円に加え、代表の手元に管理されている裏金で、残りの約130万円を賄ってきたのだという。
『飾り山』に対しては市の補助金90万円が支給されているが、東流はこれを『舁き山』の補助金225万円が入る正規の会計に計上しており、事実上市の補助が無駄になっている形だ。
問題は、『飾り山』制作費の内訳。代表の説明では、まず人形師への支払いが388万8,000円。これは、「表標題」「見返り標題」と呼ばれる飾り山前後の人形飾りの代金だ。そして、残りの約440万円が「山小屋」と称される建屋の建設費なのだという。ただし、前掲の写真でもわかるように、建屋といっても簡便な造り。木材で組んだ骨組みと、丈夫な布で出来たテントのようなものだ。じつは、この山小屋の建設費、誰に聞いても詳細の説明が返ってこない。
もともと、建設費の一部に裏金を充てているのだから、帳簿も領主書も残っていない。代表は「わからん」「探せばある」といった無責任な姿勢で、人形代の他は、何にいくら支払っているのか説明できない状況。会計担当者も同様で、人形代の領収書が、つい最近になって手元に届いたというだけで、他の支出については「代表を信じるしかない」とさじを投げた格好だ。流の幹部一同、飾り山建設費の説明がつかないという異常な事態である。
関係者の話を総合すると、飾り山制作にかかるのは人形関係費の他、山小屋建設・解体費、電気工事費、木材代、布代など。前述したように、このうちハッキリしているのは領収書がある人形関係費388万8,000円だけ。取材を進めてみると、山小屋建設を請負っているのが、東流の関係者が経営する工務店と、代表が役員を務めるとび・土工工事会社であることが分かった。
工務店が東流から請負っているのは、飾り山の土台部分。工事費は50万円だといい、同流で役職に就く工務店の社長もこれを認めている。ここまでで、830万円のうち人形関係と山小屋の土台計438万8,000円の支出先が判明したことになり、残りは約390万円の行方だ。代表者をはじめとする流の幹部は、問題のとび・土工工事会社が仕事をしていると主張するが、じつは公的に証明できていないのが現状だ。
代表が役員のとび・土工工事会社 東流の工事経歴なし
建設業者は、県に工事経歴を提出するよう義務付けられており、HUNTERは代表が役員を務めるとび・土工工事会社の過去3年分の請負状況を確認している。不可解なことに、毎年、約190万円で固定された他の流の飾り山・山小屋仮設工事は記載されているが、肝心の東流から山小屋仮設工事を請負った記録はない。山笠関係では、前出の工務店から毎年定額の493万円5,000円を下請けしているのだが、工務店側の説明によれば、これは他の3流から依頼された飾り山の仕事。東流の山小屋工事費は入っていないという。東流の飾り山建設費約390万円については、不透明というしかない。そもそも、390万円が妥当な額なのかどうかさえ分からず、謎は大きくなるばかり。これで、代表が役員を務めるとび・土工工事会社からの領主書が出てくるようなら、真偽のほどを疑ってかかる必要がありそうだ。
取材察知し領収書再発行
領主書といえば、飾り山の製作費にからんで、人形関係費の領収書が「再発行」されていることも明らかとなった。再発行は今年1月の20日前後。東流の総務が人形制作者に依頼し、過去5年分の領収書が再発行されていた。総務に確認したところ、再発行を指示したのは流の会計担当者。会計が「最近になって手元に来た」としていたのが、この領収書である。HUNTERが取材対象を広げ、東流関係者に接触を始めたのが1月中旬。あわてた東流関係者が、証拠書類の確保に奔走した証である。
飾り山の製作費に関しては、人形関係を除いて領収書もなければ公的な工事記録もなし。手拭やハッピの収益、祝儀などを貯め込んで作った裏金の使途と合わせ、闇が拡がる事態となっている。