福岡市が誇る伝統行事「博多祇園山笠」の運営組織「東流」で発覚した不正経理。少なくとも20年以上、代表者らの裁量によって年間1,000万円前後の資金が簿外で処理されてきており、これまでの正確な収支を把握することは困難な状況と見られている。
不透明なカネの流れを指摘する声は数年前から上がっていたというが、大半の東流関係者にとっては寝耳に水。内部で報告されてきた決算額の2倍もの金額が動いていたことに、多くの人が衝撃を受けているという。
伝統行事を汚す形となったことへの責任は、もちろん東流の幹部にある。しかし、山笠に年間2,700万円の補助金を出してきた福岡市の杜撰なチェック体制が、不正を招いた一因であることも確かだ。(写真は福岡市役所)
決算チェック ― 毎年「事実と相違ありません」
下は、福岡市への情報公開請求で入手した年度ごとの「事業実績調査確認書」。祭り振興事業補助金を受けている「博多祇園山笠振興会」が提出した決算文書などを、市観光文化局観光振興課がチェックした時の記録だ。驚いたことに、毎年の決算チェックに関する文書はこの1枚だけで、これ以外には何も残されていなかった。市側の説明によれば、調査は「口頭」でのやり取りのみ。何をどう調査したかの過程については、一切残していないのだという。
不透明な調査過程が示す通り、出された結論も怪しいものだ。文書の保存期間である過去5年間分の調査結果は、いずれの年も同じで「事実と相違ありません」に○印。しかし、この調査結果自体が間違いだったことは、東流の不正会計が発覚したことで明らかだ。東流の不正を見抜けなかったところを見ると、本当に細かい調査を行ってきたとは思えない。税金支出に対する市側の甘い感覚が、一部の不心得者を助長させた可能性が高い。
調査マニュアル不存在
伝統行事への遠慮があったのか、肝心の市側のチェック体制がなっていないことも分かった。山笠補助金の受給窓口となっている博多祇園山笠振興会が、市に提出を義務付けられているのが「事業実施報告書」。これには、1年間の事業の流れや振興会の決算報告書に加え“山笠七流”をはじめとする17ある運営組織ごとの決算報告書も添付されている。伝統行事である山笠には、独特の風習や道具立てが必要であり、きちんと決算内容のチェックを行うなら、それなりのマニュアルが必要なはずだ。市の職員が数年で配置換えになる以上なおさらだろうが、福岡市への情報公開請求を通じて確認したところ、次のような結果となった。
監査や調査のためのマニュアルは不存在。福岡市は、提出された書類を職員の恣意的な調査に任せていたということになる。市側は、提出された決算報告書の内容と帳簿類を照らし合わせて確認してきたと説明しているが、対象は振興会の文書だけ。17の運営組織が提出した決算内容チェックは振興会任せで、市は細かい監査を行っていなかった。伝統行事を特別扱いした結果、不正の額が拡大したと言っても過言ではあるまい。
不正にも寛容な福岡市
東流の会計不正が発覚した後の市側の対応も、他の補助金支給団体へのそれとはまるで違っている。HUNTERの取材に対し、当初「ただちに監査を行う」としていた市観光振興課だったが、現段階で東流への直接的な調査や監査を行った形跡はない。「振興会の調査結果を待っている」(同課の説明)と、じつに悠長な構えで、当事者意識の欠如を疑いたくなる状況だ。念のため、今回の事態を受けて振興会や東流に対し、決算内容に関する“聞き取り”を行った時の記録開示を求めてみたが、こちらも結果は以下の通り。やりとりはすべて「口頭」のため、記録は一切残されていないのだという。
博多祇園山笠振興会は山笠の運営団体ごとに選ばれた人の集まり。いわば山笠の身内で固められており、厳しい監査や調査ができるとは思えない。補助金を出している以上、市が税金の使途状況をチェックするのは当然で、伝統行事といえども例外扱いはできないはず。しかし、実態は極めて杜撰。長年にわたって不正を放置した上、問題が起きたというのに調査記録も残していない。なれ合いの構図が存在するのは確かで、不信感は増すばかりだ。守らなければならないのは伝統であって、関係者の「立場」ではないはずだが……。