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子ども置き去り 学校側は責任逃れ
鹿児島市内の小学校 児童のホーム転落事故を事実上の隠蔽(下)

2015年12月 8日 09:40

JR薩摩松元駅のホーム 鹿児島市立松元小学校からの下校途中に起きた低学年児童のホーム転落事故。学校側は、在校生と保護者への周知を行わず、さらには教育委員会への事故報告も怠っていた(7日配信)。
 HUNTERの取材に対応の誤りを認めた校長だったが、事故発生から2か月間の過程を検証すると、責任逃れに終始した学校側の姿勢が浮かび上がる。
(右は、児童の転落事故が起きたJR薩摩松元駅のホーム。無人駅だが、朝夕は通学してくる子どもたちの声が響く。)

事故隠し
 児童の転落事故が起きたのは10月中旬。松元小には、3キロ以上離れた松陽台町などJR鹿児島本線上伊集院駅周辺に居住する家庭の児童が200人以上通学しており、事故は学校近くの無人駅「薩摩松元駅」のホームで起きた。それから1か月以上、事故関係者以外には、詳細はおろか事故が起きたことさえ知らされていなかった。

 事故の顛末などを記した「登下校時におけるJR利用について」と題するプリントが配布されたのが11月26日。通学にJR鹿児島線を利用している児童が集まる地域の保護者組織「あいご会」が作成したもので、配布対象は同地域のみ。他の地域の児童と保護者は、現在も転落事故の詳細を知らされぬままとなっている。

 学校側はこの間、事実上の沈黙。前述のプリントが配布される前に、あいご会側から内容についての相談を受けたとしているが、学校側が全校児童に注意喚起したり、保護者らに転落事故を周知した事実はない。市教委にも事故報告を提出しておらず、明らかな事故隠し。学校側には、在校児童や保護者らと情報を共有し、危険防止に努める考えがなかったということだ。

責任回避?姑息な徒歩通学奨励 
 それどころか、転落事故のことを伏せたまま、責任回避を図っていた疑いさえある。下は、松元小が作成し、在校児童の家庭を中心に配布されている学校だより「くすのき」(12月号)の一部。記載された次の一文に、学校側の姑息さが表れている。

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 ≪「歩いて登下校」に取り組んでみませんか≫とある。列車通学時のマナーの徹底や、ホームでの注意喚起はなし。体力づくりにかこつけて、列車通学を減らそうという魂胆がミエミエだ。徒歩通学を呼びかける前に、駅での転落事故を周知するのが筋だが、「くすのき」には児童のホーム転落事故のことは何一つ書かれていない。列車通学を減らせば、事故の確率も下がると考えていたのだろうが、唐突な「歩いて登下校」推奨はどうみても不自然。体よく問題から逃げようとした格好だ。

 そもそも、安易に「歩いて登下校」を勧めるのは無理がある。全校児童400人あまりの同校で、松陽台地区から通学しているのは200人以上。学校長によれば、徒歩通学は「20~30人」で、大半の児童は列車通学だという。松陽台から松元小までは、大人の足でも約40分。小学校低学年なら、優に1時間かかる。徒歩通学が理想であるのは分かるが、幼い児童たちに往復2時間の難行を強いるのは、無茶というものだ。しかも、通学路は多くの車が走る「県道」。ガードレールもなく、危険であることは瞭然の道なのである。

低学年の徒歩通学―「無理でしょうね」
 驚いたのは校長の姿勢。同校への取材で、小学校低学年の児童に徒歩通学が可能か聞いてみたが、あっさり「無理でしょうね」――。無理を承知で、「歩いて登下校」を奨励することにはかなり矛盾がある。無責任と言っても過言ではあるまい。

 前述した「あいご会」のプリントには、「本来、学校側は徒歩での登下校を推奨しています」という記述がある。学校側はこのプリントの配布前に内容の相談を受け、事実関係が曖昧な部分に修正を加えたとしている。ならば、「学校側は徒歩での登下校を推奨」を削らなかったのはなぜか?松陽台で複数の保護者から話を聞いたが、これまで、学校側から徒歩通学を勧められた記憶はないという人ばかり。責任逃れにつながるこの一文を、あえて残したとしか思えない。その上で、「歩いて登下校」の推奨――。子どもたちの安全を守ろうという強い意志は、まったく感じられない。

 子どもの安全は、保護者、地域、学校が一体となってはじめて守れるもの。そのためには、学校や登下校時に起きたことを隠さず共有することが肝要だ。ホーム転落事故を巡る松元小の杜撰な対応は、学校への信頼を失いかねず、「反省している」「うかつだった」(同校校長のコメント)では済むまい。ただ、学校側だけを責めるわけにいかない背景があるのは確か。こうした事態を招いた原因は、鹿児島県の住宅政策の歪みにあるからだ。次稿で、その点を明らかにする。



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