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産経新聞 「新国立」内幕報道のうさん臭さ

2015年10月23日 09:10

産経新聞 「1か月前から見直しを検討してきた」として新国立競技場建設計画の見直しを発表した今年7月の安倍首相発言に、何の根拠もなかったことが関係各省への情報公開請求で明らかとなった(参照記事⇒「安倍首相「新国立」見直し“1月前から検討” 各省が否定」。
 “作り話”で国民を欺いた形だが、この時の首相の決断を、もっともらしく見せかけて援護した報道があった。政権の犬「産経新聞」が、問題の首相会見の翌日から2回にわたって配信した記事である。

首相発言、補強した産経の記事
 安倍首相が新国立競技場建設計画の見直しを発表したのは7月17日。この時首相は、「国民の声に耳を傾け、1か月ほど前から現在の計画を見直すことができないか検討してまいりました。本日、オリンピック・パラリンピックまでに工事を完了できるとの確信が得られましたので、決断を致しました」と明言していた。

 首相会見は、安保法案を審議していた衆院特別委での強行採決直後。支持率低下に歯止めをかけるため、人気取りに走ったとしか思えない唐突さだった。見直し表明を当然と受け止める一方、うさん臭さを感じていた国民は少なくなかったはずだ。

 そうしたなか、援護射撃を放ったのが政権の犬「産経新聞」。会見翌日の18日、≪見直し決断の内幕(上)≫との見出しで、見直し発表までの経緯を詳報した。副題は≪森氏を説得したA4文書 首相「私は現行計画見直す」≫--書き出しはこうだ。

 「2019年ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会には間に合いませんが、お許しいただきたい」

 安倍晋三首相は17日午後、首相官邸5階の執務室で、2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相にこう頭を下げた。

 それでも不満そうな表情の森氏に首相が示したのが、建設計画を見直した場合の工期などを示した1枚の紙だった。

 「ギリギリ間に合うと、希望的なことを言ってできないとかえってまずいでしょう」

 森氏は、内容に確かめると小さな声で応じた。

 「それじゃ、やむをえませんね」

 首相が示したA4の文書は、国土交通省などが作成したものだった。もう一度、コンペをやり直して半年以内に設計を決定し、20年春に完成させ、五輪には間に合わせるという計画見通しが示されていた。

 まるで立ち会っていたかのような描写。首相と森元首相の息づかいまで聞こえてくるような記事だ。内幕解説はさらに続く。

 首相が工期などの計画見直しを文部科学省に指示したのは6月2日頃だった。総工費や工期など現状計画の変更が可能かどうか検討するよう伝えた。

 「計画の見直しを再検討してみてほしい」

 これに対し、文科省の回答はかたくなだった。

 「できません」

…(中略)…

 また、安保関連法案の審議を通じ、内閣支持率はじりじり下がっていた。さらに五輪にも建設が間に合わないかもしれないとの情報に、首相が下村氏を呼んでただしたが、下村氏は「努力する」と繰り返すのみ。しびれを切らした首相はついに文科省だけでなく、国交省にもこう指示した

 「では、私は現行計画を『見直す』。それを前提に検討してほしい」

 文科省が、首相の見直し指示を事実上拒絶したこと、『しびれを切らした』首相が、国交省に検討を指示したとある。

 19日、同紙≪見直し決断の内幕(下)≫の副題は、≪違約金「最大100億円」の試算 悩み抜いた首相≫。下がその冒頭部分である。

 安倍晋三首相が新国立競技場の計画見直しで、国土交通省や文部科学省に念入りに検討させたのは、2020年東京五輪・パラリンピックまでに建設が間に合うのかという工期と、現行計画より総工費を抑えられる見通しが立つのか-というコストの問題だった。

 一連の記事は、見直し検討の指示が早くから出されていたこと、さらには実務を行ったのが主として国交省だったことを明かしている。よほど政権中枢に食い込まなければ書けない記事で、首相が会見で言った「国民の声に耳を傾け、1か月ほど前から現在の計画を見直すことができないか検討してまいりました。本日、オリンピック・パラリンピックまでに工事を完了できるとの確信が得られましたので、決断を致しました」を証明した格好となっていた。だが、現実は違っている。

関係各省、そろって見直し検討を否定
 計画見直に関与する可能性があったのは内閣官房、文部科学省、国土交通省。しかし、各省に「新国立競技場の建設計画見直しを発表した安倍首相が、『1か月前から見直しを検討してきた』と述べた根拠を示す文書」を情報公開請求したところ、いずれも「不存在」。関係各省が、そろって“見直し検討作業を行っていない”という結果となっているのだ。

 産経の情報源が政権中枢であることは疑う余地がないが、記事を書いた記者が、国交省や文科省に裏取りする時間はなかったはず。聞いた話をそのまま文字にしたということだろう。こうなると“政権の広報紙”。報道の名を借りて裏付けのない権力側の話を垂れ流し、国民を欺いたと言われてもおかしくはあるまい。誤報か陰謀か――説明責任は産経にある。



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