今年7月、「新国立競技場」建設計画の見直しを発表した時の安倍首相発言が、何の根拠もない“作り話”だった可能性が高くなった。
見直し会見の中で首相は、「1か月前から見直しを検討してきた」と明言していたが、関係各省への情報公開請求から、計画見直しの検討文書が存在していないことが判明。発言根拠が、どこにもない状況だ。首相発言の根拠を「不存在」とした関係省庁のいずれもが、新国立の見直し作業自体を否定している。
安保法の国会審議が続く中、支持率低下に歯止めをかけたかった首相が、その場しのぎの発言を方針決定の補強材料にしたとみられる。
計画見直し「1か月前から」明言
首相が、新国立競技場建設計画の見直しを発表したのは7月17日。この時、次のように語っていた。
東京オリンピック・パラリンピックの会場となる新国立競技場の現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで新しい計画を作りなおす。そう決断致しました。
オリンピック・パラリンピックは、国民みんなの祭典です。何よりも優先されるべきは、国民の皆さん、アスリートの皆さんから祝福されるものとすることです。
国民の声に耳を傾け、1か月ほど前から現在の計画を見直すことができないか検討してまいりました。本日、オリンピック・パラリンピックまでに工事を完了できるとの確信が得られましたので、決断を致しました。
『1か月前から検討』し、『オリンピック・パラリンピックまでに工事を完了できるとの確信が得られた』――首相はそう明言している。支持率低下が顕著になり始めた時期での見直し発表。発言内容に疑問を感じたHUNTERの記者が、会見から5日後の7月22日、関係各省に情報公開請求を行っていた。
内閣官房、文科省は見直し作業を否定
当初の請求先は、文部科学省と内閣府(内閣官房)。新国立の所管は文科省だったが、建設計画の見直し作業は内閣官房が行うことになっていたからだ。開示を求めたのは「新国立競技場の建設計画見直しを発表した安倍首相が、『1か月前から見直しを検討してきた』と述べた根拠を示す文書」だった。
これに対し、内閣官房は「公文書不開示」。情報公開の担当窓口によれば、内閣官房も内閣府も、首相会見以前に新国立の見直し作業を行っておらず、該当する文書は残されていないという結果だった。
一方、文科省は≪業務多忙により、開示請求があった日から30日以内に開示決定等を行うことが困難≫として開示決定期限を延長。2カ月経って出てきた回答は、内閣官房と同じ「公文書不開示」。首相が会見で話した時期には新国立の見直し検討など行っておらず、従って対象文書が存在しないというものだった。
この段階で、首相発言の根拠はなし。新国立建設計画の見直しができそうな役所で、残るのは「国土交通省」。首相が同省に見直しを指示したとの一部報道もあったため、10月初旬に同省へも情報公開請求を行っていた。
国交省も見直し否定
同省の対応は早く、数日後には「確認しましたが、見直し作業など行っておらず、請求された文書は省内に存在しません」(情報公開担当)。見直し作業の実施について再確認したが、「やっていない」という回答に変わりはなかった。下が21日、国交省から届いた「不開示決定通知」である。
見直しは誰が?
首相の「1か月ほど前から現在の計画を見直すことができないか検討してまいりました」とする発言の根拠について、関係各省がそろって“不存在”の回答。「オリンピック・パラリンピックまでに工事を完了できるとの確信」も、どうやって得られたのか分からない状況だ。
新国立の建設計画見直しは、国民の厳しい批判を受けてのもの。見直しを発表した首相会見は、衆院特別委員会で安保法の強硬採決(7月15日)が行われた2日後だった。支持率低下に歯止めをかけるため人気取りに走り、ありもしない「検討」で国民を欺いた格好だ。見直し作業は、どこの誰が担当したのか?まさかゼネコンではあるまいが……。