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教育歪めた改革市政(上) ― 武雄・樋渡前市政とソフトバンク

2015年5月12日 09:20

武雄市役所 佐賀県武雄市が実施した「iPad」を使った教育事業をめぐり、総務省の交付金を使ったソフトバンクグループへの便宜供与疑惑が浮上した(参照記事⇒≪武雄市「iPad」教育事業に不正の疑い ― 経費見積りは「宝くじ」の会社≫)。
 武雄市が総務省に提出した事業費の積算用見積りを行った「ドリームネット企画」も、同社の見積り内容を転用した形で主要業務を受注した「汐留管理(現社名:エデュアス)も、孫正義氏率いるソフトバンクのグループ企業。設立からわずか1月半の「宝くじ販売会社」に、畑違いである教育事業の見積りを任せたところから「出来レース」が始まっていたと見るのが自然だ。
 樋渡啓祐前市長の主導で行われた教育事業は、ソフトバンク側に利益と実績を与えるためのものではなかったのか――教育現場を歪めた愚行の実態を、2回に分けて検証する。(写真は武雄市役所)

交付金事業の経過
 問題の交付金事業は、総務省が、ICTを利活用して地域振興を図ることを目的に実施した『地域雇用創造ICT絆プロジェクト』のなかの「教育情報化事業」。平成22年10月13日に申請受付が開始され、武雄市は同年11月4日付けで「iPad」を使った『武雄市学校教育ICT人財育成・活用事業』への交付金(9,924万4,000円)交付を総務省に申請。12月には満額交付が決まり、iPad196台を含む物品購入や、システム構築、副教材制作などの業務委託を行っていた。

 この過程で登場するのが、「ドリームネット企画」と「汐留管理(現社名:エデュアス)」というソフトバンクグループの2社。ドリーム社は交付金申請のための積算書用見積りを市側に提供し、この見積書を転用した可能性が高い汐留管理が、iPad教育事業の中核業務である「iPad及び電子黒板を利用した協働型ICT教育システム構築業務」を、契約金額7,173万1,800円で受注していた。

先行したiPad40台は交付金の「呼び水」
 ここに至る武雄市とソフトバンク側の動きに、総務省交付金事業の過程を加えて表にまとめると、次のような流れとなる。(ピンク色で示したのは総務省の交付金をめぐる動き、ブルーはソフトバンク側の動き、その他が武雄市の動き)

tソフトバンクと武雄市の動き まずは武雄市の動き。同市の担当者は、“当初40台のiPadを導入して教育現場での実証研究を行うはずだったが、総務省の交付金事業が実施されることを知り、交付金を使って事業の拡大を図った”という。だが、一連の流れを見ると、40台のiPad導入に別の意味があったことが歴然とする。

 たしかに、iPad40台の導入を決めたのは交付金事業の申請受付開始より前。しかし、年度途中の8月という中途半端な時期に方針を打ち出しておきながら、武雄市にはその理由を記した公文書が残されていない。担当職員に誰の発案だったのか聞いたところ、「それは市長の……」。市長とは樋渡氏のこと。唐突なiPad40台の導入は、前市長の指示によるものだった。

 前掲の表を見ると、10月以降、同じiPadを使った二つの事業が同時進行していたのが分かる。事業着手はiPad40台の方が先だが、総務省の交付金でiPad196台を買い増しした格好だ。樋渡氏は元総務官僚。古巣の新規事業について情報を得ることのできる立場にあったのは事実。新規の交付金事業が実施されることを知った樋渡氏が、ソフトバンクの教育分野での実績拡大に寄与できると踏んで、「呼び水」としてiPad40台を先行導入した――そうした見立ても可能となる。

 iPad40台の導入が、交付金の呼び水となったことを示す証拠もある。下は武雄市が総務省に提出した交付金交付申請書だ。

経過1.jpg

 「交付金事業の目的」には、こう書かれている。

 今年度から着手したiPad等利用によるICT教育プロジェクトを踏まえ、ICT支援員、デジタルコンテンツ作成支援員を育成・活用するとともに、児童一人ひとりの理解度に応じた授業を行えるICT環境を整備する。あわせて、他自治体でも活用可能な教材プラットホームを形成する。

 『今年度から着手したiPad等利用によるICT教育プロジェクト』とは、iPad40台を使った武雄市の単独事業のこと。実機の購入も済ませていないうちに、実績があるかのような表現となっている。唐突なiPad40台の購入が、総務省交付金の呼び水となっていたのは明らかだ。

 武雄市の狙いは「交付金」。その先に、ソフトバンクグループとの契約が待っていたということだろう。ドリームネット企画社を事業費積算に使ったことについて、「上から言われた」とする職員の話がある。これは、設立から間もないドリーム社を、交付金を得るための重要な積算見積りに引っ張り出したのが樋渡氏だったことを意味している。実績ゼロ、しかも宝くじ販売を目的とする会社に教育事業の経費見積りを依頼するなど、他の自治体ではあり得ない。樋渡氏が無理を通したのは、ソフトバンクグループに属していた「汐留管理」に、仕事を回すためだったのではないか――ソフトバンク側の動きをみれば、一層その疑いが強くなる。

つづく

*上掲の表の中で、武雄市が総務省に交付金の交付申請を行った日を「12月4日」と誤記しておりました、正しくは「11月4日」です。読者の方々にお詫びして、訂正いたします。(5月13日訂正)

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