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武雄市「iPad」教育事業に不正の疑い ― 経費見積りは「宝くじ」の会社

2015年5月11日 07:55

武雄市役所 佐賀県武雄市が樋渡啓祐前市長時代に実施した「iPad」を使った教育事業に、業者選定をめぐる不正の疑いが浮上した。
 同市は平成22年、ICTを利活用して地域振興を図ることを目的とした総務省の事業で「iPad」絡みの交付金を申請。満額の9,924万4,000円を交付されたが、この際に事業費の積算用見積りを行った会社の登記を確認したところ、教育とは何の関係もない事業目的で設立された会社だったことが判明。さらに、問題の会社が見積りを行ったのが、法人設立から2カ月も経っていない時期だったことも明らかとなった。武雄市は、何の実績もない会社に目的外の業務を行わせ、交付金を得ていたことになる。
 この交付金事業をめぐっては、積算用見積りを行った会社のグループ企業が7,000万円以上の「iPad」関連業務を受注していたことも分かっており、出来レースが疑われる状況。樋渡前市政と特定企業グループによって、交付金事業が歪められた形だ。
(写真は武雄市役所)

総務省交付金事業で約1億円
 問題の交付金事業は、総務省が≪地域に根ざした雇用創造を推進するため、公共サービス分野(教育、福祉、介護等)及び地場産業分野(観光、地域特産品等)においてICTの利活用により、地域課題の解決の実現とともに地域雇用の創出、地域人材の有効活用を図る≫(総務省HPより)目的で、平成22年10月13日に申請受付を開始した『地域雇用創造ICT絆プロジェクト』。「教育情報化事業」と「教育情報化事業以外の公共サービス分野事業及び地場産業分野事業」の2分野で、地方自治体の交付金申請を受け付けていた。

 武雄市は、平成22年11月4日付けで『武雄市学校教育ICT人財育成・活用事業』への交付金(9,924万4,000円)交付を総務省に申請。同年12月20日に、教育情報化事業に交付申請を出した30件中、武雄市の事業など24件に満額交付が認められ、同市は「iPad及び電子黒板を利用した協働型ICT教育システム構築業務」(契約金額:7,173万1,800円)、「iPad用無線設備工事」(契約金額:633万1,500円)、「副教材コンテンツ制作・開発」(契約金額:1,050万円)など3件の業務を発注している。

事業費の大半、「ドリームネット企画」の数字で積算
 交付金申請で義務付けられていたのが、事業内容に合致した「支出経費の内訳」。この経費積算には見積書が必要となる。武雄市の依頼で積算用見積りを行っていたのは、東京都港区に本社があった「ドリームネット企画株式会社」。同社は、武雄市が交付金の申請にあたって総務省に提出した事業費積算の参考資料として、次の3件の見積りを行っていた。

 ①「ラーニングマネジメントシステムおよびインタラクティブホワイトボード連携システム構築」(市発注「iPad及び電子黒板を利用した協働型ICT教育システム構築業務」に該当)
 ②「副教材コンテンツ開発」(市発注「副教材コンテンツ制作・開発」に該当)
 ③「WI-FIアクセスポイント工事およびIWB設置作業」(市発注「「iPad用無線設備工事」に該当) 

 「副教材コンテンツ開発」と「WI-FIアクセスポイント工事およびIWB設置作業」の見積書はドリーム社を含む2社が、「ラーニングマネジメントシステムおよびインタラクティブホワイトボード連携システム構築」については、ドリーム社だけが見積書を提出。3件の見積りすべてに、ドリーム社が関わっていた。下は、武雄市への情報公開請求で入手した同社の見積書である。

見積書1 見積書2 見積書3

 武雄市は、総務省が定めた様式に従って交付金を申請。「支出経費の内訳」を作成するために必要な見積書をドリームネット企画などから提出させ、経費の積算に利用した後、添付資料として同省に提出していた。総務省に提出された「支出経費の内訳」を確認してみると、全27項目のうち市の独自積算を除く20項目でドリーム社の数字が使われおり、事業の中核となるプログラム開発やPC購入にかかる費用の見積りは、ほとんど同社の提供した数字に基づいたものだった。下がその内訳。赤い△で示したのがドリーム社の数字を参考にした項目である。

支出経費の内訳

 交付金の対象となった『武雄市学校教育ICT人財育成・活用事業』の中核業務は、前述した「iPad及び電子黒板を利用した協働型ICT教育システム構築業務」。同業務を7,173万1,800円で受注した「汐留管理株式会社(現社名・エデュアス)」の役員が、ドリーム社の役員を兼任していたことが分かっており、「出来レース」の疑いが持たれる状況となっていた。

 「ドリームネット企画」について市側に聞いたところ、担当者は、積算用見積りの提出を受けた時だけの付き合いだったことを認めたうえで、「(同社への見積り依頼は)上からの指示。同社のことは分からない」という。代表取締役をはじめ複数の役員がドリーム社の役員を兼任していたエデュアスにも確認を求めたが、「役割を終えた会社なので、こちらでは詳細がつかめていない」(エデュオス側の説明)などと、あやふやな回答に終始。関係者が揃って口を閉ざすという不可解な現状だ。

ドリーム社 ―― じつは「宝くじ」インターネット販売の会社
 「ドリームネット企画」とはどのような会社なのか ―― 改めて所管の法務局で登記を確認したところ、出てきたのが下の「閉鎖事項全部証明書」。同社は、平成24年に「汐留DNET管理株式会社」(注:エデュアスの前身「汐留管理」とは別法人)と名称を変更した後、今年4月に「ソフトバンク株式会社」に吸収合併される形で解散していた。

 下がその証明書だが、注目すべきは同社の目的欄である。(赤い矢印と囲みはHUNTER編集部)

ドリームネット企画(閉鎖事項全部証明書)

 会社設立以来、同社の目的欄は変更されておらず、今年4月の解散まで次のようになっている。 

1 宝くじのインターネット販売に関する調査
2 宝くじのインターネット販売に関するサービス設計及びシステム設計
3 宝くじのインターネット販売に関する事業性分析
4 その他前各号に付帯関連する一切の業務

 ドリーム社は、宝くじのインターネット販売に参入しようとしていたソフトバンクのグループ企業。教育事業には何の関係もなく、武雄市に提出した『武雄市学校教育ICT人財育成・活用事業』の見積書提出は、目的外の業務だった。

 さらに、閉鎖事項全部証明書に記載された会社設立の年月日は「平成22年8月27日」。ドリーム社が武雄市に、前出②の「副教材コンテンツ開発」と③「WI-FIアクセスポイント工事およびIWB設置作業の見積書を提出したのは同年11月1日。市から見積り提出を求められたのは、10月中旬から下旬だったと見られることから、同社は設立から2カ月も経たぬうちに、インターネットを使った教育関連業務の経費を算出していたことになる。

仕組まれた事業?
 通常、行政機関が積算用見積りを依頼するのは、十分な実績を有しているか、当該業務に精通していることが明らかとなっている企業・団体。設立から1か月半で実績はゼロ、しかも宝くじの販売を目的とするドリーム社に、教育事業の積算で手伝いを求めるなど、他の自治体ではあり得ないことだ。その後の展開を考えると、武雄市側とソフトバンク側が意を通じ、事業費算定の段階から「出来レース」を仕組んだという見立ても可能となる。

 教育分野への参入を加速してきたソフトバンクの孫正義社長と、樋渡前市長は旧知の仲。交付金事業の正当性が問われる事態であることは言うまでもない。

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