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原発=郷土発展の起爆剤 県民も驚く南日本新聞の見出し

2014年7月31日 08:40

南日本新聞 見出し 新聞の「見出し」とは、記事の内容を端的に表現したものだが、時にはその新聞社の方向性、姿勢といったものを如実に示す場合がある。特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認にともなう解釈改憲をめぐっては、読売や産経が政府を援護する記事ばかり書き連ねた。当然、見出しは戦前を彷彿とさせるようなもの。両紙が、中立・公平を装った「権力の犬」であることは疑う余地がない。
 一方、宿命とでもいうべきか、地元自治体や有力企業ににおもねる地方紙も少なくない。つい最近、全国で停止中の原発のうち、最初の再稼働が確実となった九州電力川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)をめぐる特集記事を、鹿児島の地元紙・南日本新聞が連載した。その意図は……?

読者も呆れる原発特集
 先月30日、南日本新聞の朝刊1面トップに、一昔前の原子力ムラ広報とみまごうような見出しが躍った。〔郷土発展の起爆剤〕―元市長「私が火付け役」。新聞業界では、特集ごとのタイトルロゴを「ワッペン」というが、紙面に記されたワッペンには、「川内原発運転開始30年」として、『光と影』のタイトルが打たれている。7月4日で営業運転開始から30年を迎える「川内原発」に関する特集記事の第1回目だった。(下が同日の南日本新聞朝刊の紙面)

南日本新聞

 記事は、昭和39年(1964年)に、当時の川内市議会が原発誘致を決めたところから書き出し、原発誘致の先頭に立った元商工会議所会頭の回顧談を紹介、さらには川内原発建設決定までの経緯を、周辺事情を交えて振り返るという構成。反対運動のことにも触れてはいるが、原発が『郷土発展の起爆剤』として期待されていたことを前面に打ち出した形だ。見出し勝負の新聞にあっては、原発肯定の姿勢と見るべきだろう。

 この日を含め、10回にわたって連載された特集記事の見出しを拾ってみた。

南日本新聞 記事見出し①〔誘致運動〕 郷土発展の起爆剤
[建設特需] 雇用や飲食活気づく
[電源交付金] 箱もの建設、つけ重く
[漁業補償] 苦しい経営 渡りに船
[久見崎の今] 感謝と不安、住民複雑
[薩摩川内誕生] 立地自治体に求心力
[打ち出の小づち] 九電寄付金、頼みの綱
[最後のとりで] 地元対策に手尽くす
[3・11後] 九電苦境、地方も一体
[全国の先例] 廃炉見据える転換期

 細かな記事の内容まで紹介するつもりはないが、述べてきた通り、新聞は「見出し勝負」。初めに目に飛び込んだ文字が、記事の方向性を決定づける。案の定というべきか、特集記事のなかで原発のマイナス面に触れてはいるものの、結論は「原発が動かなければ地域社会が大きなダメージを受けますよ」ということ。中立・公平を装ってはいるが、目前の再稼働を後押ししようという意図が透けて見える。

 同紙の特集記事を毎回読んだという鹿児島市の男性(40代 公務員)はこう話す。
「最初の記事を見たときは、さすがに呆れました。見出しだけだと、まるで『原発礼賛』。昔の紙面の復刻版でも出したのかと思ってしまいました。毎回読んでみましたが、原発のもたらした経済効果を書き連ねただけ。再稼働できなければ、これまでの苦労や、プラス面のすべてが吹っ飛ぶぞと、暗に知らしめるのが目的だったとしか思えません。巧妙な世論操作の一環でしょうね」

 鹿児島県は先月来、原発事故時の避難計画について、関係自治体での住民説明会を行ってきた。その最中の特集記事である。営業運転開始から30年目の節目であったとはいえ、「原発礼賛」と誤解されるような紙面作りでは、原発を問うたことにはなるまい。何度も述べるが新聞は「見出し勝負」のはず。連載開始のしょっぱなが、〔郷土発展の起爆剤〕の大見出しでは、お里が知れようというものだ。

 昨年5月、「南日本新聞への警鐘」という記事を配信した。この時、問題視した同紙の記事の見出しは、「川内原発再稼働賛成39%」。脇には「前年比4.8ポイント増」とあった。原発再稼働に賛同する意見が増えていることを、印象付ける狙いだったとみられる。南日本新聞は、「原子力ムラの番犬」としての役割を、忠実に果たしているようだ。



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