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「讀賣」読者よ 騙されることなかれ

2014年6月 3日 07:25

 集団的自衛権の行使容認とそれに伴う解釈改憲へと突き進む安倍晋三政権。先月15日には、「安全保障の法的基盤の再構築に関する有識者会議」(安保法制懇)の報告書提出を受け、首相自ら官記者会見を行ったが、そこで使われたのが2枚のパネル。米国の艦船が邦人を輸送中に他国から攻撃を受けた場合と、駆け付け警護についての説明用だった。
 このうち、米国の艦船が攻撃されるという想定画は、まさに噴飯もの。こうした事態が起きる可能性自体が皆無に等しいのだ。多くのメディアや識者がその点について厳しい指摘をする中、読売新聞が2日、首相会見の内容に世論の同意が集まっているかのような報道を行った。この国を戦争へと導く、世論操作の実態について検証する。

米艦防護―ありえない想定
 先月15日の会見、安倍首相は、下のパネルを示しながら、次のように話している。
《今や海外に住む日本人は150万人、さらに年間1,800万人の日本人が海外に出かけていく時代です。その場所で突然紛争が起こることも考えられます。そこから逃げようとする日本人を、同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送しているとき、日本近海で攻撃があるかもしれない。このような場合でも日本自身が攻撃を受けていなければ、日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない、これが憲法の現在の解釈です。》

邦人輸送中の米輸送艦の防護

 紛争地域から邦人を輸送する米国艦船が攻撃を受けたら、反撃する必要があると主張する首相だが、実際にこうした事態が生まれる可能性は皆無に近い。民間人を乗船させた米国の艦船が、護衛もつけずに戦闘地域から離脱を図ったりするはずがないからだ。万が一、攻撃を受けたとしても、まず米国の戦闘艦もしくは航空機が相手を叩き潰すだろうし、そうなると自衛隊の出る幕はない。自衛隊の艦船が米艦と並んで航行するくらいなら、初めから自衛隊の艦船に邦人を乗せるのが筋だろう。

 さらに言うなら、日本が紛争当事国でない限り、邦人救出の邪魔はいかなる国であろうと許されないし、そうした状況では航空機を使うのが普通で、これまでも実例がある。人数が多く、輸送を艦船に頼らねばならないケースなど、どう考えてもあり得ない。

 そもそも、パネルに書かれた「攻撃国」とは北朝鮮なのか、中国なのか――?その場合の「被攻撃国」とはどこになるのか――?これほど事を急がねばならないのなら、きちんと想定される紛争の姿を説明すべきだろうが、首相からは具体的な危機についての解説はなかった。画像をみると、北朝鮮が韓国を攻撃した場合と、中国が、現在紛争中のベトナムなどを攻撃した場合のどちらかしか思い浮かばないが、その場合、日本は紛争当事国ではない。韓国やベトナムにいる邦人に危険が迫るようなら、国際法に従って堂々と救い出すことができる。自衛隊はそのために存在しているのであって、米国に頼るようでは、それこそ無責任な政府ということになる。

 お粗末なのは、集団的自衛権の行使をこうしたケースに限定するとしていた首相が、その後の国会論戦で、邦人が乗っていない他国の船でも助けると言い出したこと。自衛権行使の範囲が早くも拡大された形で、情に訴えたのが見せかけの手法だったことを露呈してしまった。パネルで描いた想定は、すでに崩れているのである。

 政治に求められるのは、他国との武力衝突を外交によって回避する努力であり、あるいはまた他国の争いに巻き込まれないようにする知恵を出すことだ。安倍首相は、本来政治が果たすべきその役割を放棄して、前線司令官のやるようなことに精を出しているに過ぎない。安倍首相が自慢げに持ち出した上のパネルは、単なるマンガ――あり得ない事態をさも現実のように見せかけ、国民を扇動するための陳腐な道具だった。

歪曲、捏造による世論操作
米韓防護「賛成」75% あり得ない想定を、もっともらしく見せかけ、世論誘導に血道を上げる報道機関もある。いまや極右の御用機関と化した読売新聞だ。2日の同紙朝刊トップ、世論調査の結果を伝える記事の大見出しは〔米韓防護「賛成」75%〕。“紛争中の外国から避難する日本人を輸送しているアメリカ軍の艦船を、自衛隊が守れるようにすることについては、賛成ですか、反対ですか”という質問に対し、75%が賛成と答え、反対は14%だったのだという。

 首相が示した集団的自衛権の行使にあたる事例として、他にグアムやハワイに向かう弾道ミサイルを撃ち落とすケースや、海上交通路周辺での紛争中に、他国と協力して機雷の掃海を行うケースを並べて賛否を聞いているが、前提となる事実に疑問の声が上がっていることには、一切触れていない。前述したように、パネルにあった米艦防護のケースは常識的にあり得ないし、弾道ミサイルを撃ち落とす話に至っては、日本にその兵器も技術もないことを無視して賛否を問うている。聞かれた方は、実際にあり得るケースと信じて答えたまで。前提に疑問符がついていれば、別の答えを選ぶだろう。

 仮に読売新聞が、首相の示した米艦防護のケースに疑問があると断った上で賛否を問うていたなら、結果はまるで違う形になっていたはずだ。しょせん世論調査の結果とは、設問の在り方次第でどうにでも操作が可能なものなのである。読売は、この手法を悪用して、度々無理な世論操作を行っている(参照記事⇒<集団的自衛権 「読売」世論調査への疑念>)。重ねて述べるが、読売のやっていることは、歪曲、捏造による世論操作なのだ。

まるで戦前・戦中の紙面
 2日の読売の記事は、『国民に個別事例への理解が広がっている』と断定。たかが一紙の世論調査結果が、『与党協議の行方にも影響』するとまで書いている。3面には、調査結果の検証を大々的に展開。あたかも、国民の大多数が憲法解釈変更による集団的自衛権の行使を理解しているかのような印象を与える紙面となっている(下は同紙2日朝刊3面)。何様のつもりか知らないが、たかだか千人程度の調査結果、しかも意図的に導き出された数字を使っての露骨な世論操作だ。これが報道機関とは聞いて呆れる。

読売新聞2日朝刊3面

 読売の紙面を見ていて思い出すのは、戦前・戦中を通じ、大本営発表を垂れ流し、軍部とともに国民を欺いたのが他ならぬ新聞だったということ。その結果どうなったかについては、言うまでもあるまい。読売新聞は権力の犬だ。ここが流す情報を信じていれば、間違いなく“いつか来た道”をたどることになる。それでもあなたは、権力側の御用新聞を信用しますか?



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