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集団的自衛権 「読売」世論調査への疑念

2014年5月21日 09:00

読売新聞 集団的自衛権の行使容認に向け、前のめりとなる安倍政権。今月15日には、「安全保障の法的基盤の再構築に関する有識者会議」(安保法制懇)の報告書提出を受け、首相自ら官記者会見を行ったが、国民の受け止め方は冷ややか。連立を組む公明党の支持母体である創価学会も、異例の声明を出して、集団的自衛権の行使容認にともなう憲法解釈の変更に、公然と反対する姿勢を示している。
 そうした中、マスコミ各社の世論調査が出揃った。朝日、毎日、読売の3紙と共同通信の調査結果を見比べたところ、行使容認に賛成か反対かの答えに大きな違いが――。とくに読売の調査結果は、政権擁護にはうってつけとなる内容。同紙得意の世論操作を疑ってみる必要がありそうだ。

突出する読売の数字
 各紙の世論調査のうち、集団的自衛権行使容認の賛否に関する設問と、回答結果をまとめた。

【朝日新聞】
Q:集団的自衛権についてうかがいます。集団的自衛権とは、アメリカのような同盟国が攻撃された時に、日本が攻撃されていなくても、日本への攻撃とみなして、一緒に戦う権利のことです。これまで政府は憲法上、集団的自衛権を使うことはできないと解釈してきました。憲法の解釈を変えて、集団的自衛権を使えるようにすることに、賛成ですか。反対ですか。

・賛成 27 
・反対 56

【毎日新聞】
Q:同盟関係にある米国などが武力攻撃を受けた時、日本に対する攻撃とみなして一緒に戦う権利を「集団的自衛権」といいいます。今は憲法上行使できないとされていますが、安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認に向けた検討を指示しました。あなたは集団的自衛権の行使に賛成ですか、反対ですか。

・反対 54
・賛成 39

【共同通信】
Q:日本と密接な関係にある国が武力行使を受けたとき、日本が攻撃されたとみなして一緒に反撃する権利を「集団的自衛権」と言います。これまで政府は「憲法解釈上、行使できない」としてきましたが、安倍晋三首相は行使を容認する方向を示して検討するよう政府、与党に指示しました。あなたは、首相の考えに賛成ですか、反対ですか。

・反対 51.3
・賛成 34.5
・分からない・無回答 14.2

【読売新聞】
Q:日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本への攻撃とみなして反撃する権利を「集団的自衛権」と言います。政府はこれまで、憲法上、この権利を使うことはできないとしていました。この集団的自衛権について、次の3つの中から、あなたの考えに最も近いものを、1つ選んで下さい。

1.全面的に使えるようにすべきだ 8
2.必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ 63
3.使えるようにする必要はない 25
4.その他 0
5.答えない 4

 朝日、毎日、共同の調査結果によれば、集団的自衛権の行使容認に反対する人の割合が賛成を上回っている。朝日は29ポイント、毎日は15ポイント、共同の調査では16.8ポイント――それぞれ反対が多いという結果。これに対し、読売新聞の調査結果では、“限定的な行使”を容認すべきとの回答が63ポイントにも上っている。“全面的に使えるようにすべき”だと答えた人の8ポイントを加えると、賛成派が71ポイントとなり、反対の25ポイントを大きく上回る。メディアによって、まるで逆の結果だ。

読売調査―「解釈改憲」は素通り
 読売の場合、「限定容認論」を選択肢の中に入れているため、「限定的ならいいか」という軽い民意を救い上げた形。しかし、他のメディアはこの設問の前後に、解釈改憲の是非を問うており、集団的自衛権の行為容認が事実上憲法改正につながることを明示している。読売の世論調査は、解釈改憲について触れておらず、この違いが数字になって表れたと見るべきだろう。

 限定的であるにせよ、集団的自衛権の行使を容認することが解釈改憲につながることは事実。読売は、その点に触れず、「必要最小限」などと表現することで問題を矮小化し、行使容認に賛成する声を誘導したとしか思えない。調査結果を報じた記事を読めば、「やっぱりか」という感じだ。

 まず見出し。〔集団的自衛権、行使容認71%〕。新聞は見出し勝負だが、そこには「必要最小限」や「限定」の文字はない。まるで国民の7割が行使容認自体に賛成しているかのような打ち出し方だ。記事も胡散臭い。

≪政府が目指す集団的自衛権の行使に関して、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」とした「限定容認論」を支持する人は63%に上ることが、読売新聞社の全国世論調査で分かった。

 「全面的に使えるようにすべきだ」と答えた8%と合わせて計71%が行使を容認する考えを示した。行使容認論の国民への広がりが鮮明となり、近く本格化する集団的自衛権を巡る与党協議にも影響を与えそうだ。

 支持政党別にみると、限定容認論への支持は、自民支持層で7割を超えた。公明党は集団的自衛権の行使容認に慎重だが、限定容認論を選んだ同党支持層は7割近くに上り、党と支持者の間で考え方に隔たりがあった。民主支持層と無党派層でも、限定容認論はいずれも6割近くに上った。≫

 ≪行使容認論の国民への広がりが鮮明≫と書いたところは、まさに安倍の御用新聞。解釈改憲を素通りして、正確な民意を探ることなどできないはずだが、そんなことはお構いなし。数字がすべてと言わんばかりに、集団的自衛権の行使容認を後押ししている。だが、前提を欠く調査とそれに続く記事は、明らかに世論誘導を狙ったもの。この新聞は、よほど日本を戦争に引きずり込みたいのだろう。

 ちなみに、記事中の≪与党協議にも影響を与えそうだ≫、≪公明党は集団的自衛権の行使容認に慎重だが、限定容認論を選んだ同党支持層は7割近くに上り、党と支持者の間で考え方に隔たりがあった≫という一節は、慎重姿勢を崩さぬ公明党へのプレッシャー。しかし、公明党支持者の動向に触れたことは逆効果だったらしく、後日、同党の支持母体である創価学会が、異例の声明を発表し、解釈改憲への反対姿勢を明確にしている。“過ぎたるは猶及ばざるが如し”ということのようだ。

政権の御用新聞 そろって「7割」の不可解
 集団的自衛権の行使容認と、それに伴う解釈改憲をめぐっては、読売、産経が「賛成」、朝日、毎日、地方紙連合が「反対」の立場をとっている。世論が割れるのは、影響力のあるメディアがそれぞれ違う立場でモノをいっているからに他ならない。読売や産経の読者は、安倍政権に好意的な報道を信じ、「世の中はこんなものか」と流される。一方、朝日、毎日、地方紙連合軍の読者は、集団的自衛権の行使と解釈改憲を、“戦争への道”と感じ取る。ネット社会とはいえ、身近なメディアの影響を受けるのは確か、このため政策課題ごとに世論が割れるのである。昨年の特定秘密保護法以来、この傾向が定着している。

 不可解なのは、右寄りである読売と産経の調査結果がほぼ同じ結果となっていることだ。産経とFNNの合同調査では、集団的自衛権を「全面的に使えるようにすべきだ」が10.5ポイント、「必要最小限度で使えるようにすべきだ」が59.4ポイント。「使えるようにすべきではない」が28.1ポイント。行使容認を是とするのは約7割で、読売の数字とほぼ一致しているのだ。

 安倍擁護の極右メディアであっても、世論調査の対象は様々なはず。回答者が、自社の読者とは限らない。しかし、読売や産経の世論調査結果は、集団的自衛権行使の容認を是とする回答が圧倒的に多い。“限定容認ならどうか”という聞き方が巧みだったにせよ、肌感覚からすれば両紙の数字はにわかには信じがたい。調査の信ぴょう性について疑念を抱いたのは、筆者だけだろうか……。



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