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「脱原子力政策大綱」が示す日本復興の道

2014年4月28日 08:00

 これこそ、今の日本に求められていたものではないか――『原発ゼロ社会への道―市民がつくる脱原子力政策大綱』(以下、『大綱』)である。
 大綱は、昨年発足した原子力市民委員会が各界の専門家を動員して1年がかりでまとめた政策提言だ。これを一読すれば安倍内閣のエネルギー基本計画も、関西と九州財界による原発再稼動提言も、邪心に満ちた原子力マフィアの願望を文書化したに過ぎないことが理解されるだろう。

 周知のように「日本を取り戻す」と叫んで政権に返り咲いた安倍首相は、何かといえば「取り戻す」と口にするものの、何を誰から取り戻そうというのか。いかようにも解釈できる都合のいいフレーズだが、安倍内閣発足時に危惧した通り、最悪の形で取り戻したのが4月11日に閣議決定した「エネルギー基本計画」(エネ計画)。再稼動はもとより、原発輸出を進め、新増設すら容認しそうなそれは、核燃サイクルという破綻した古色蒼然たる夢を維持しようというものだ。これがまかり通るなら、日本は1970年代後半からの政・財・官・学、メディア挙げての原子力大推進時代に戻ってしまう。

 そんなエネ計画を「バランスの取れたエネルギー供給体制構築に向け、意義ある内容になっている」と持ち上げ、臆面もなく「一日も早い再稼動の実現を要望する」と本音をむき出しているのが関西経済連合会(関経連)会長の森詳介関西電力会長だ。関経連と九州経済連合会(九経連)は4月15日、両団体連名で『原子力発電所の一刻も早い再稼働を求めるー地域経済の弱体化と国富の流出を解消するためにー』と題する意見書を政府や国会、原子力規制委員会などへ提出した。詳細は4月17日にHUNTERが「原発再稼働 財界提言のお粗末さ」で酷評した通りである。森会長発言は、それに先立つエネ計画閣議決定を受けてのものだった。

 森会長のエネ計画礼讃コメントの前段には、「当会がこれまで強く主張してきた『S(安全性)+3E(安定供給・環境保全・経済性)の同時達成』の観点を踏まえ」とあるが、フクシマによって同時達成されたのが原発の危険性、供給不安定性、環境破壊、非経済性だった。それがまるで念頭にない森発言は論外だが、安倍内閣のエネ計画そのものが、いかに現実認識を欠く空疎な作文でしかなく、日本が目指すべきは原発ゼロ社会であり、それが可能であることを立証したのが冒頭の脱原子力政策大綱だ。

 大綱をまとめた原子力市民委員会は昨年4月、日本の反・脱原発運動の草分けとして理論的支柱を果してきた故・高木仁三郎博士を記念する高木仁三郎市民科学基金(東京・新宿区)を事務局として発足。舩橋晴俊法政大学教授を座長とする大学教授、弁護士、原発技術者ら11人の委員と経済学者や環境問題専門家、市民団体代表ら18人のアドバイザーで組織。そして福島原発事故部会、核廃棄物部会、原発ゼロ行程部会、原子力規制部会の4専門部会で現状分析から今後の課題とその解決策まで多様な視点から原発ゼロ社会実現に向けた処方箋づくりに挑んだ。昨秋の中間報告をはさみ、専門家による議論に加えて全国1,000人の市民との意見交換も踏まえて集大成。政府のエネ計閣議決定に合わせた4月12日の記者発表を経て政府、国会、関係機関、全国自治体に送付された。

 A4版約240ページに及ぶそれは、序章「なぜ原発ゼロ社会を目指すべきなのか」、第1章「福島原発事故の被害の全貌と人間の復興」、第2章「福島第一原発事故炉の実態と『後始末』をめぐる問題」、第3章「放射性廃棄物の処理・処分」、第4章「原発再稼働を容認できない技術的根拠」、第5章「原発ゼロ社会への行程」、終章「『原子力複合体』主導政策決定システムの欠陥と民主的政策の実現への道」とあるように、原発、原子力の問題すべてが網羅され、個人、団体を問わず格好の指針となるだろう。

 原子力市民委員会は「脱原発基本法」を制定し、大綱を「脱原子力基本計画」とすることを想定しているが、それには全国の住民それぞれが地元議会へ働きかけて大綱を自治体議会の意見書として採択させ、政府や国会へ送るのが早道だ。大綱の拡散とともにそんな動きも広がるのを期待したい。

<恩田勝亘>

恩田勝亘:プロフィール
昭和18年生まれ。『週刊現代』記者を経て平成19年からフリー。政治・経済から社会問題まで幅広い分野で活躍する一方、脱原発の立場からチェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなど原発にからむ数多くの問題点を報じてきた。

著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)、『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)など。

新著「福島原子力帝国―原子力マフィアは二度嗤う」(七つ森書館)は、全国の書店で販売中。



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