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僭越ながら:論

原発再稼働 財界提言のお粗末さ

2014年4月17日 09:50

 カネをとるか命をとるか――二者択一を迫られたら、あなたはどちらを選びますか?

一刻も早い再稼動を 原発の是非をめぐる議論を突き詰めれば、最終的に、この質問にたどり着くことになる。筆者の答えはもちろん後者。原発の事故で放射性物質を浴びてしまえば、カネなど何の意味も持たなくなる。分かりきった話のはずだが、この国の財界人たちには通用しないらしく、「原発再稼働」の大合唱が始まっている。 
 15日、九州経済連合会(九経連)と関西経済連合会(関経連)が、原発再稼働を求め「原子力発電所の一刻も早い再稼働を求める」と題する提言を公表した。噴飯もののその内容とは……。

ずれた財界の主張 
 九経連と関経連が共同で出した提言の副題は「地域経済の弱体化と国富の流出を解消するために」。なんとも仰々しい表現だが、冒頭から国民目線とはかけ離れた記述が続く。 

 曰く――《現政権による経済政策「アベノミクス」の効果等により、デフレからの脱却が視野に入り、実体経済は好調に転じている。今後、経済成長による日本経済再生を確かなものにしていく上で、アキレス腱となっているのは電力供給に関する問題である。このまま現状を放置すれば、企業活動を大きく阻害することにもなりかねない。

 もしこのまま原子力発電所の再稼働が遅れれば、中小企業や製造業を中心に、地域経済を支えてきた産業は景気回復どころか、取り返しのつかないダメージを受けることになる。“失われた20 年”の再来ともなりかねない。 原子力発電所の再稼働にあたっては、安全が確認されることが第一であることは言うまでもない。他方、長期に渡る原子力発電所の稼働停止が地域経済の体力を奪い続けていること、さらには日本全体の国富を流出させ続けていることも絶対に看過してはならない。 経済の好循環による持続的な経済成長を確実に実現させていくためにも、政府は、いま一度電力供給に関する不安が地域経済に与えている影響を十分に認識し、この状況の解消に向けた下記の対策を直ちに講じるべきである 》

 アベノミクスは効果を上げているが、その足を引っ張っていのが原発再稼働の遅れで、このままでは地域経済を支えてきた産業は、景気回復どころか、取り返しのつかないダメージを受けるのだという。結論から先に述べるが、この主張は単なるこじつけ。牽強付会の説と切って捨てても構うまい。完全にずれている。

破たん必至のアベノミクス
 アベノミクスは、大胆な金融政策、機動的な財政出動、そして成長戦略という「3本の矢」を以てデフレを脱却し、経済を立て直すという触れ込みで進められてきた経済政策だが、原発再稼働を前提とするものではなかったはずだ。方針決定時には、原子力規制委員会による安全審査の目途さえたっておらず、「原発抜き」で組み立てられた政策と言っても間違いではない。原発が動かないからアベノミクスが功を奏しないというなら、政権が政策の組み立て方を間違ったことになる。そのそも、原発が動こうと動くまいと、アベノミクスが国民生活を豊かにすることはない。

 アベノミクス1本目の射手は日銀。資金供給量を2年間で2倍に拡大するという「異次元の金融緩和」は、即ち銀行が保有する国債を日銀が買い取るということ。印刷されるお札が2倍に増やされるわけではなく、市中金融機関の国債が「現金」に変るだけのことだ。日銀が国債を買えば買うだけ、国民の借金が増えるという手法であり、これ以上「異次元」が続けば、将来的に国家財政の破たんを招くことになる。日銀による金融緩和は、すでに限界というべきだろう。

 2本目は自民党の十八番(おはこ)である、公共事業のばらまき。国土強靭化を旗印に、10年間で200兆円もの税金を投入するというが、“過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し”とはよく言ったもので、建設資材の高騰や人手不足で入札が不成立になるケースが続出するなど、おかしな格好になっている。消費増税によって国に入るカネと国債が原資だけに、こちらも後世にマイナスしか残さない。

 肝心の3本目の矢はどうか。デフレに止めを刺すはずの「成長戦略」だったが、繰り出されるのは力のないものばかり。失速して的まで届かぬ有様で、その度に株価が急落するといった状況だ。しかし、安倍晋三という政治家はよほど世間が見えていないないらしく、今月12日に主催した「桜を見る会」では、調子に乗って次の一句を披露した――『給料の 上がりし春は 八重桜』。中小企業の給与が上向いたという話など聞いたことはない。安倍首相が見ているのは、国民の数パーセントに満たない大企業の社員だけなのだ。この調子では実効性を伴う成長戦略は出てきそうにない。

 そこで「原発」ということになるのだろうが、福島第一原発の事故原因さえ定かではない中、崩れた「神話」が頼りというのではあまりにお粗末だ。原発が動いても、アベノミクスがこの国の経済を発展させることはない。第一、原発が稼働していた時期に、すでに日本経済は落ち込んでいたではないか。

財界何様!原発再稼働で国に圧力
 九経連と関経連の提言を支えているのは、原発さえ動けば、地域経済が良くなるという論法だ。つまり、命よりカネ。この連中はカネの亡者ということになる。そのことは、提言の中にある記述が証明している。

《政府および原子力規制委員会においては、まず、安全が確認された原子力発電所の早期再稼動に向け、以下の点について可及的速やかに取り組むよう求める 》

《安全審査の最大限の効率化を図ること》

《国会(特に原子力問題調査特別委員会)は、原子力規制委員会による安全審査が、安全性の確保を第一としながらも、可能な限り迅速かつ効率的で責任のある意思決定の下で進められるよう、審査プロセスや審査体制への監視・監督責任をこれまで以
上に確実に果たしてもらいたい》

《国会(特に原子力問題調査特別委員会)においては、原子力規制委員会が、さらに迅速かつ効率的な安全審査が進められるよう、規制のあり方の見直しも視野に入れ、下記の視点も加味した監視・監督を行なうこと》

《原子力規制委員会においては、国際アドバイザーの助言も踏まえ、これまでの再稼働審査のプロセスの検証を行ない、審査の効率化に向けた改善を行なうこと》

 要は、“原子力規制委員会による安全審査が遅い!途中を端折ってさっさと再稼働を容認させろ”と国や国会に迫っているのである。何様のつもりか知らないが、審査方法の見直しにまで踏み切んだのは、原発を未来永劫動かし続けたいという思惑からだろう。呆れてものが言えない。

小学生以下
 驚くべきは次の記述だ。
《「エネルギー基本計画」において「重要なベースロード電源」として位置づけられた原子力発電の活用を含め、エネルギーのベストミックスを早期に構築する必要があるが、安全審査の長期化により原子力発電所の再稼働の見通しが立っておらず、議論が進められるような状況にない》

 原発が動かないから、エネルギーベストミックスの議論がはじめられないと断定している。本気で言っているのなら、小学生以下のレベルとしか言いようがない。福島第一の事故以降、エネルギーについての議論が進められてきたのは周知の事実だ。しかも国内にある54基の原発はすべて停止している。原発再稼働にかかわりなく、議論は可能だろう。エネルギーのベストミックスについての議論が停滞するのは、原子力ムラが抵抗しているからで、原発停止が原因ではない。こじつけも、ここまでくれば滑稽である。

経済団体は電力会社と一体
 ところで、提言を出した二つの経済団体に、果たして提言当事者としての資格があるのか疑問だ。九経連の前会長は松尾新吾元九電会長。団体の事務局は九電グループの本拠地「電気ビル」の中にある。福島第一原発の事故までは、九電主導で動いてきた団体であり、いまもその影響力が残っていると見るのが自然だ。関経連にいたっては、トップである会長が原発の当事者企業「関西電力」の会長である。背景を知れば「なんだ、そんなことか」。「提言」自体、胡散臭いものであることが、より鮮明となる。

 安倍政権が、こうした愚かな提言を原発再稼働のエンジンに利用するなら、この国の原子力政策は、再び「安全神話」の世界に逆戻りすることになる。本当にそれでいいのか?「カネより命のほうがが大事」――そう思っている国民が多いことを祈りたいが……。



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