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「権力は有限、良識は永遠」
― 韓日親善協会中央会 金守漢会長インタビュー (下) ―

2014年2月21日 07:00

 親日家であり、日本国内の政財界にも太いパイプを持つ韓日親善協会中央会の金守漢(キム・スハン)会長。今月初旬、福岡市内でHUNTERの単独インタビューに応えた金会長は、安倍晋三首相の靖国参拝や右傾化に懸念を示す一方、平和を希求する日本人を信じたいとその思いを語った。
 日韓友好に尽力した功績で、日本から勲一等旭日大綬章を贈られた金会長にとって、両国間に緊張をもたらす日本政府の強硬姿勢は理解し難いものなのだろう。
 このあと、話はNHK会長の発言問題へと続き、「安重根」、さらには「竹島」(独島)に及ぶ。毅然とした態度で韓国側の主張を述べる金会長は、インタビューの最後に含蓄ある言葉を残す。
(写真はインタビューに答える金会長)

NHK会長発言について

 ―― 安部晋三氏、橋下徹氏という政治家に共通していると思いますが、彼らは一様に「従軍慰安婦について強制連行はなかった」としきりに発言しています。つい最近では、公共放送であるはずのNHKの籾井勝人会長が、「韓国が悪い」と公然と発言している。一部マスコミも迎合する傾向にあります。

 金 そもそも国営放送局として日本の放送を代表するNHK会長が、そういう発言をするというのは、常識外れもはなはだしいと怒りを感じざるを得ません。「ドイツやイギリスでも従軍慰安婦がいた。そこに日本も並んだからといって何が悪い」という言い訳は、これこそ恥を知らない失言だと思います。誰かが犯罪をしたからといって、君も同じ犯罪をするのか。それでいいのか。日本の良識的な対応をすべき人が、そういう発言をするというのは恥なのです。

 たしかにドイツもそういう激しいことをやったけれども、それはナチスがやったことです。具体的にそういう犯行を起こした人々がいて、当然彼らは処断されました。ただ、私はドイツ国民が全部そうだったわけではないと思いますし、一部の激しい人々が行なったことに対してドイツ全体がお詫びしています。

 日本が、「たとえ従軍慰安婦があったとしても、あちらでもこちらでも、戦時中はみんなやっていたことじゃないか」というのは、それこそ破廉恥な言い方です。あなたにNHKの会長の資格はないと言いたい。

韓国にとっての「安重根」

 ―― つい最近、安重根氏の記念館がハルビンに建設されました。一部の人は、これを理由にして韓国を批判しています。

 金 安重根さんは、韓国では第一人者の愛国者です。当時の韓国は、国家の主権が信託されたものであり、譲ったものでも何でもないというのは事実です。乙巳条約という名の下に、1905年に韓国の主権を信託したというのはみんな認めたわけです。それで朝鮮総督府がつくられ、36年間にわたる植民地支配したのも公然たることです。

 これをNHKの会長式に言えば、「日本だけがやったわけではない。イギリスも植民地を置いていた。みんな同じことだ」ということでしょう。日本がこれまでしてきた不法行為、反人道的行為も「他の国もやったからいいじゃないか、糾弾されるべきでない」となります。

 伊藤博文であれ、誰であれ、武力によってその国家の国民の意志に反して主権を収奪したことについては、お詫びすることが基本だと思います。1965年の韓日協定(日韓基本条約)の批准まで14年間かかりました。これも記録的ですよ。なかなか収まらなかった。

 36年間の植民地支配を正当化するために、「植民地支配が韓国を近代化して貢献した」という言い方は論理が立たないです。要約すれば、そういう問題があります。

 誰が何と言おうと、安重根さんが伊藤博文を射殺したのは事実です。そして射殺の動機は、いわゆる韓国の主権が彼によって侵害されたことに対する恨みというか、抵抗だったのです。韓国では、朝鮮民族を代表した怨念の発露だと整理されています。そこは理解してもらいたいですね。

 弱肉強食を正当化して話をすれば、大変な矛盾が生じます。「力は正義なり」という論理です。だから日本が今言っていることは、すべて「他がやったから日本もやった。何が悪い」ということ。これは本当におかしい。

 ―― 恨みの発露というのはわかりますが、決して韓国の方々が「暗殺」という行為を肯定されているわけではないですよね。

 金 あれは、一般的に言われているテロとは違います。当然、安重根さんは個人の栄達のためにやったわけではない。国のために殉じたということにふさわしい行為だとみんな見ています。韓国では「暗殺」とはみなされないのです。そこは理解してもらいたいですね。

「竹島」(独島)をめぐる議論

 ―― 日韓関係が悪化したのは、李明博前大統領が日本で言う「竹島」(独島)に上陸したことから始まったという議論があります。そもそも、上陸はどんな理由で行なわれたのでしょうか。未だに真意が読めません。

 金 たとえば、李明博前大統領は「韓国の大統領が自分の領地の視察に行くことが、なぜ悪い」と言っていました。一方、独島に対する論争が今も展開されており、日本は「自分の領土だ」と言っています。

 常識からすると、日本が「竹島」という名称を始めたのは、正式には1905年の乙巳条約後、太政官告示で島根県に編入したときです。「江戸時代からずっとあった」というのは作り話で、古代にさかのぼれば船が漂着したといったこともあったでしょうけど、正式に領土という概念のなかに当てはまるような主張の根拠にはならないのです。1905年に告示したこと自体が、それ以前までは言うまでもなく韓国の所有だったということの証明です。

 私はこれ(大統領の上陸)に対して、やりすぎだということは、韓国が実効支配しているわけですから、あえて言い訳する必要もないと思います。天皇に対する発言とか、国際的には過激というか過剰なことはありました。しかし、その動機はそういう意味で行ったのではないですから、それを盾にして、日本が反論を持ち出すというのは考えるべきです。常識で解決すべきだと思います。

金 独島について、もう少し話しておきます。すでに亡くなられた島根大学名誉教授の内藤正中さんは、独島研究の最高の権威者だと聞いています。内藤さんの記事をたびたび見ましたが、学者的良心からしても、物差しで測っても日本と独島というのは距離が離れており、韓国がいちばん近い。国際法上の説からしても「竹島」は当てはまらないという話です。

 1905年、韓国が日本に主権の信託をしたという、そこから考えなければならない。水掛け論ではいけません。それ以前からあったわけではなく、島根県に編入して日本の所有下に置き、「竹島」と名前をつけたのです。これは歴史上の事実でしょう。

 ―― よく日本では韓国国内で日本を敵視する教育が横行しているという批判がありますが、これは本当でしょうか。

 金 「反日教育を韓国が強いている」というのは言い過ぎです。あえて反日とか反米とかいうのではなく、韓国の主権を否定したり、挑発的な発言をしたりすることに対する、反抗であり抵抗であるわけです。私はそれを挑発的な行為ではなく、韓国の正論だと見ています。

 ―― 日本国内では、教科書に「竹島は日本固有の領土だ」と明記することになっています。

 金 たとえば最近の話で、2005年、島根県が「竹島の日」というのを制定しました。それ以前に私は、島根の県議会議員を相手に講演を2回ほど行っていました。そのときは、島根県は竹下登元首相の選挙区だったため、1人の野党もおらず、オール自民党でした。誰一人、私に反論する人はおりませんでした。ただ、県内をまわってみますと「竹島は日本の領土だ」という標記はありましたが……。

 韓国と島根はお互いに、役所の職員の交換教育をしたりしました。たいへん睦まじい間柄だったのです。にも関わらず、突然「竹島の日」を発議した。当時の予算を見ても、「竹島対策費」は100万円にも満たなかったですよ。まったく無関心だったわけです。

 県がしていた独島の行事を国がやるようになったこと自体が、中央主導でやっていなかければならないという背景があった証左だと思います。何というか、欲が異常に高まってきているような気がします。そう主張することで日本の国勢がもっと強くなり、世界の強大国の仲間入りをできるかのような仮想をしている。そこのところの意識を改めて下さい、と私は言いたい。日本は平和国家です。平和とは弱体化を意味するのではありません。

「権力は有限、良識は永遠」

金会長 ―― 安倍政権は集団的自衛権の行使を目指しています。日本国憲法はこれを否定しています。ところが、解釈を変えて行使容認に向けて動こうとしており、これを認めてしまえば、なし崩し的に憲法を変えることになります。次が軍備強化です。これについて韓国国内ではどう見ていますか。

 金 私には結果がどうなるかわかりませんが、そのためには、まず日本は96条を改正しなければならないと思います。その段階においても、私は議論の余地が無くなると考えていますが、一方で日本の良識がそのことに同意するとは考えていません。そこまではいかないでしょう。

 改憲に踏み込めば、世界が警戒し、日本は孤立するかもしれません。日本は自ら大変な失策を犯す結果になると思います。そこまでいくのであれば、「また戦争か」と日本国民は決起するでしょう。それを熱狂的に喜ぶ人は、数えるほどしかいないと見ています。

 ―― これからの日韓関係はどうあるべきでしょうか。

金 私は「権力は有限的だが、良識というものは永遠である」とそう言いたい。ですから、安倍政権だけを見れば大変憂慮もされますが、悠久の歴史や国民的良識からすれば、もしもの場合を仮定したとしても、最悪の事態まで行かないと信じています。

 ―― 金会長は、一貫して「日本人の良識を信じたい」という思いを持たれているのを強く感じ、感銘を受けました。

 金 私は韓国において30数年続いた軍事政権のなかで、一度も屈せずして民主解放のために戦いました。金泳三元大統領とともに、弾圧や耐え難い苦痛を克服しながら筋を通してまいりました。その結果、今日のように韓国が先進化、工業化されましたが、民主主義的にも大変力強い発展を遂げてきました。

 いかなる独裁も、官憲による統治も想像ができません。これを左翼的に見てもいけません。韓国の普遍的価値観が試練を通じて培養され、1つの秩序の礎になっております。私は、韓国国民にバランス感覚というのがあって、自らの調節ができているのだと思います。

 日本はもう、その段階を過ぎているでしょう。だから、安倍首相のような、いわば氷山の一角を見てびっくりするかもしれません。ただ、日本の常識、日本国民の品格、そして伝統から見ても、戦争で何百万人の犠牲者を出した日本人なら、絶対それに従うはずがないと、私は思います。

 ―― 現在の日本の自称・保守層は、そもそも「保守とは何か」を見誤っていると思います。日本人が誇るべきは「恥を知る」ということです。今の自民党政権は、「恥を知る」ことを忘れています。守るべきものを間違っているのです。

金 その通りだと思います。私はクリスチャンですから、聖書でもそういう話があります。人間というものは、ちょっと良好な段階に入ったからといって、うぬぼれたり、過剰な欲望をかいたりすれば、必ず神の罰が当たります。そういうことに常に心を留めて、オーバーした行動をとってはいけません。

 日本が間違った道を歩む可能性もあります。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という状態になることも無きにしもあらず。ただ、それは我々も望んではいません。「権力は有限、良識は永遠」なのです。

【聞き手:中願寺 純隆 文・構成:嵯峨 照雄】

◀ 韓日親善協会中央会 金守漢会長インタビュー(上)



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