小説の出来栄えと著者の人格は必ずしも一致しないようで、ベストセラー作家・百田尚樹氏の暴走が止まらない。
安倍晋三首相に近い自民党の若手議員らが党本部で開いた勉強会「文化芸術懇話会」で、「沖縄の二つの新聞はつぶさなあかん」などと発言。真意を問われ「冗談だった」と説明していた百田氏が、今月7日、都内で行われた集会に参加し今度は「改めて沖縄の二つの新聞はクズやなぁと思いました」――。
どうやらお騒がせ作家、自らの発言を炎上させ、注目を集めるのがお好きらしい。
暴言再び
7日、右寄りの論客を集めて開かれたのは「琉球新報、沖縄タイムスを正す県民・国民の会」の集会。自民党勉強会での百田発言を、改めて考えるという趣旨で開催されたのだという。この集会で百田氏は、運営委員が沖縄の地元紙について「日本新聞協会の新聞倫理綱領に違反している」と述べたことを受けて、「改めて沖縄の二つの新聞はクズやなぁと思いました」と発言。問題の勉強会で暴言を吐いた直後、いったんは「冗談だ」として批判を回避しておきながら、応援団に囲まれて再び沖縄メディアへの攻撃に転じた形だ。
百田氏はさらに、「一民間人が、どこで何を言おうと言論弾圧でもなんでもない。僕がね、例えば『沖縄の新聞、潰れろ』『朝日新聞潰れろ』『毎日新聞潰れろ』あるいは、『安倍政権潰れろ』『民主党、潰れろ』『社民党死ね』といったところで、これは、私の自由なんですよ。人権を侵害するということとは別の問題。憲法21条でも言論の自由が認められている」と持論を展開。言い訳しながら他を誹謗するという、『永遠の0』『海賊とよばれた男』といった著作の主人公とは真逆の見苦しさである。
百田氏が「一民間人」?
そもそも、百田氏が「一民間人」と言えるのか?言論の自由は誰にでもある。だが、与党議員の勉強会に講師として招かれた以上、百田氏の発言が国政に影響を及ぼすのは十分に予想されること。そもそも、参考にするつもりがなければ、講師として招かれることはあるまい。影響力のある人物だからこそ、その発言が物議を醸すのだ。下は、安倍首相が百田氏をNHKの経営委委員に就任させた時の「任命理由」。どう書いてあるか――。
百田氏が、著作を通じて多くの読者に影響力を持っていることを政府が認めており、最近まで彼がNHKの経営委員を務めていたことも事実。氏の発言は「一民間人」のそれとは違うのである。
主張はほとんど「フィクション」
「一民間人」の発言であっても、嘘や間違いを公表すれば、相応の責任が生じるのは当然だ。百田氏に厳しい批判が寄せられるのは、氏の主張の大半が「フィクション」だからである。
自民党の勉強会で百田氏は、世界一危険とされる米軍普天間飛行場の周辺状況について次のように語っている。
――もともと田んぼの中にあり、周りは何もなかった。基地の周りに行けば商売になると、みんな何十年もかかって基地の周りに住んで、40年経って街の真ん中に基地がある。そこを選んだのは誰やねん。地主は大金持ちで六本木ヒルズに住んでいる。
沖縄戦当時、米軍が飛行場用地を勝手に接収したことや、強制的に土地を割り振られ、基地周辺で暮らすことを余儀なくされた住民側の事情を知らない発言だ。
無知とは怖いもの。沖縄で、米兵による性的被害が多発してきたことについてはこう言っている。
―― 沖縄の全米兵が起こすレイプより、沖縄人のレイプの方がはるかに率が高い。
米兵の分だけ被害が増えることに気付いていないだけでなく、日本人の犯罪がきちんと裁かれる一方、米兵は基地に守られ、多くの沖縄県民が歯噛みしてきたという歴史もまったく理解できていない。作家とは思えぬ“でっち上げ”を持ち出し、沖縄を貶める行為が許されるはずがなかろう。
呆れるのは、勉強会の後、沖縄タイムズの取材に対する百田氏のコメント。
―― 沖縄の新聞をしっかりと読んだことはないが、ネットで読むと、私と歴史認識が違う。全体の記事の印象から私が嫌いな新聞だ。
沖縄の実情も知らず、地元の新聞もまともに読んだことがない人間が、公の場で沖縄批判――。「クズ」はどちらか?