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佐賀県立高パソコン購入義務化 無視された生徒の「健康」
ブルーライト、VDT作業に対する議論怠る

2014年1月22日 07:50

 今年4月に入学するすべての県立高生徒に学習用パソコンの購入を義務付けた佐賀県が、方針決定までの過程で、パソコン使用による健康への影響を過小評価していたことが、県教委の話などから明らかとなった。
 テレビやゲーム、スマートフォン、そしてパソコンの画面が発する「ブルーライト」と呼ばれる光が健康に与える影響が広く知られるようになっている。しかし、佐賀県はパソコン購入義務化を審議する過程で、この問題についての議論を尽くしていなかった。生徒の健康を無視して、パソコン購入の義務化だけを急いだ形だ。
(写真は佐賀県庁)

「ブルーライト」
 近年、「ブルーライト」が人体に与える影響についての議論が活発になっている。ブルーライトとは、波長が380~495nm(ナノメートル)の青色光のこと(下参照。「ブルーライト研究会」HPより)。ヒトの目で見ることのできる光=可視光線の中でも、もっとも波長が短く、強いエネルギーを持っており、角膜や水晶体で吸収されずに網膜まで到達するという。パソコンやスマートフォンなどのLEDディスプレイやLED照明には、このブルーライトが多く含まれている。

ブルーライト

 昨年6月には、東京で「第1回国際ブルーライトシンポジウム」が開催され、世界各国の様々な分野の第一線の研究者が、ブルーライトの人体への影響を多角的に検討した。シンポジウムを主導したのは、慶應義塾大学の坪田一男医学部眼科教授らが設立した「ブルーライト研究会」。人々の健康と密接な関わりを持ちつつあるブルーライトの、人体への影響を医学的に検証することを目的とする学者らの集まりである。同研究会のホームページでは、ブルーライトが人体に与える影響について、「網膜への影響」、「眼の痛み」、「眼の疲れ」、「睡眠への影響」、「精神への影響」、「肥満への影響」、「癌への影響」に分けて詳しく説明している(⇒http://blue-light.biz/)。

 ブルーライトは、エネルギーが強いため、目の奥まで到達。長時間にわたってこれを浴びると、目の疲れや生体リズムに悪影響を及ぼし、場合によっては頭痛などの症状に発展するという。同研究会の事務局側に聞いたところ、ブルーライトに懸念が持たれる実態をよく知った上で、パソコンなどと上手に付き合っていくことが重要だと話している。

 ブルーライトの健康への影響については、すでに周知のこととなっており、複数のメガネメーカーが売り出したブルーライトをカットするメガネや、ディスプレイに貼る液晶保護フィルムなどの販売が好調だ。

厚労省は「VDT作業」のガイドライン策定
 平成14年、厚生労働省は「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定した。VDT作業とは、パソコン等のディスプレイやキーボードで構成された機器=VDT (Visual Display Terminals) を使用する作業のことを指す。ガイドラインは、急速なIT化で懸念される健康への悪影響を抑え、良好な職場環境や労働形態を求めるために策定されたものだ。VDT作業を長時間続けることにより、目をはじめ身体や心に支障をきたす事例が報告されるようになったのを受けてのことだった。
 ガイドラインは、照明及び採光、グレア(まぶしさ)、騒音、さらには換気や温度及び湿度の調整等について留意点をまとめ、作業時間、VDT機器の選択といった管理面にまで踏み込んだ内容となっている。
 ブルーライトに注目が集る背景には、職場のIT化と、それに伴って策定されたこのガイドラインの存在がある。

パソコン導入を義務化
タブレットPC こうした中、佐賀県は昨年、「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として実施するパソコンを利活用した授業を行うため、新年度に入学する全県立高校の新入生全員にパソコン購入を義務付けた。同県の「平成26年度佐賀県立高等学校入学者選抜実施要項」には、『学習者端末の購入について』として、次のように明記されている。
≪平成26年度からは、全県立高校で学習者用端末(情報端末にデジタル教材をインストールしたもの)を利活用した学習活動を導入するため、合格者は、各高等学校へ入学するに当たり、県教育委員会が指定した学習者用端末を購入する必要がある。詳細については、別途通知する≫
 12月の県議会におけて、県教育長は、パソコンが購入できないケースについて問われ、「校長の権限で入学を保留することがないともいえません」と答弁し、問題となったことは既報の通りだ(⇒「佐賀県立高 パソコン購入“義務化”に異議あり」)。

評価表の『議論の経過』見過ごされたブルーライト、VDT作業の健康への影響
 HUNTERは昨年、佐賀県教委に対し、パソコン購入義務化についての関連文書を情報公開請求したが、開示された文書の中に「先進的ICT利活用教育推進事業」の評価表が存在した。事業の問題点とそれに対する考え方を列記してあり、この評価を基に、パソコン購入義務化が進められた格好となっていた(右が評価表の『議論の経過』)。しかし、どこにもブルーライトやVDT作業における問題点は指摘されていない。公文書を見る限りでは、そうした点が見過ごされた形だ。

 情報開示にあたり、佐賀県教委側に、ブルーライトの健康への影響について討議しなかった理由を尋ねた。

 記者:ブルーライトについて知っているか?
 教委:聞いている。

 記者:ブルーライトが人体に与える悪影響について検討した形跡がない。なぜか?
 教委:文科省は、問題ないと言っている

 記者:文科省には、ブルーライトについての実態調査のデータなどない。所管は厚労省ではないか?
 教委:・・・・・・。

 記者:厚労省が平成14年に策定した「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を知っているか?
 教委:知らない。

 記者:ここにガイドラインの全文のコピーがある。提供するので、読んで勉強すべきだ。生徒の健康について何の議論もしないまま、パソコンを買わせることだけを急いだのか?
 教委:・・・・・・。

 これが実態である。パソコン購入を義務化するにあたって、生徒の健康は考慮されていなかったのである。12月県議会で県教育長は、パソコン導入について、こうも述べている。
『1人ひとりの個性や能力に応じた授業の実現。時間的、空間的制約を超えて、いつでもどこでも誰でも受けられる教育の実現。デジタル教材による、音声や映像を利活用した学習や、インターネットを利活用した調べ学習、これらのほか、あらかじめ電子辞書や電子参考書を、必要に応じて数多くインストールするようにしておりますので、これらの縦横な活用。それに、家庭での宿題や、自学自習環境の改善などにより、学力の向上に大きく寄与するものと考えております』。

 学校や家庭でのパソコン漬けを奨励した形だ。しかし、前述「ブルーライト研究会」のHPでは、長時間ブルーライトを浴びることや、就寝前にディスプレイに向かうことに懸念を示しており、厚労省のガイドラインでも1日の連続VDT作業時間が短くなるようにすることに加え、連続する作業が1時間を超えないよう配慮することを求めている。

 県教委の見解は、こうしたパソコンが抱える健康問題に対する警鐘をまったく無視したものであろう。昨年来、佐賀県は、ブルーライトやVDT作業についての対策について、何も公表していない。生徒の健康を置き去りに、パソコン納入業者だけが儲かるという格好だ。これが、まともな教育行政と言えるのだろうか。

 追記:本件に関する情報公開請求は、HUNTERが初めてだったという。在佐賀県の報道関係者は、県立高生徒へのパソコン購入義務化について、何も検証していないということだ。役所もメディアも無責任。そうした状況で、佐賀県公立高の新入生たちは、強制的にパソコンを購入させられることになる。



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