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佐賀県立高パソコン問題 業者選定に重大問題

2014年1月10日 09:05

 佐賀県が、「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として新年度に入学する全県立高校の新入生全員にパソコン購入を義務付けた問題に絡み、購入を指定されたパソコンが、業者との癒着が疑われてもおかしくない過程をたどって選定されていたことが明らかとなった。
 不透明な業者選定は、強制的にパソコンの購入を余儀なくされた保護者に対する背信行為。この事業では、パソコン導入が成績に与える影響を検証するデータが得られていなかったことも判明しており(昨日既報)、拙速に事業の推進を決めた佐賀県の責任が問われる事態だ。

仕様書

パソコン価格決定の経緯 
 新年度にあたり、県立高校の新入生が購入させられるパソコンは、教材ソフト込みで8万4,000円(パソコン本体は7万4,000円)。HUNTERは、この価格が決定するまでの過程を示す文書を県教委に情報公開請求していた。

 今月7日までに開示された文書をもとに、県教委側に価格決定の経緯を確認した。
 まず、当初言われていた「8万円」の根拠となったのは、平成24年度に実施された県立高校5校における実証研究での端末購入価格。3校にiPad 、2校にウィンドウズを導入し、どちらの使い勝手がよいかを検証していたが、この時の、ウィンドウズの価格が、参考になったという。

 2校は、それぞれ入札を実施してパソコンの納入業者を決定していたが、その結果は次の通りだった。
・A校 学習用端末260台 1,992万9,000円(4者による入札)⇒1台あたり7万6,650円
・B校 学習用端末302台 2,289万円(3者による入札)⇒1台あたり約7万5,800円
 県教委は、この時の購入価格を参考に、1台「8万円」という予算を計上していた。

驚きの「一者応札」
 次いで昨年12月、実証研究の結果、導入を決めたウィンドウズの端末1,856台を、県内の高校に導入する。その内訳は次の通りだ。

・指導者用パソコン1,230台=賃貸借(リース) 県内32校に配備
・生徒用パソコン620台=購入 県内3校に配備

 この時の業者選定は入札。その結果、リース契約となる指導者用(教員用)パソコンは、1台あたりの価格が約9万5,000円、「購入」された生徒用パソコンは、1台あたり7万5,400円となっていた。問題は、この入札が「一者応札」だったことだ。下がその入札結果表である。

入札結果表

 消費税を入れて約1億7,600万円(落札価格1億6,738万円)に及ぶパソコン納入契約を落札したのは、前年度の実証研究の際、県内の高校に260台のパソコンを納入した佐賀市内に本社を置く業者だった。「一者応札」について、佐賀県教委側は「パソコンのスペックが高すぎたため、他の業者が応札に消極的になったのではないか」と話している。しかし、HUNTERの取材に応えた県外の業者からは、「あり得ない。億単位の取り引きなら、喜んで応札する。佐賀県が示した仕様書を見る限り、入札を見送るほどの条件はない」といった声も。「一者応札」になった背景に不透明感が漂う状況だ。

便宜供与の疑いも―県と業者間で「協定書」
 パソコン納入をめぐっては、「疑惑」を想起させる文書が存在する。前述の「一者応札」が行われた折の「仕様書」には、次のように明記してある。

≪平成27年度以降も、毎年4月に新入生が新たに学習用PCを購入する予定であるが、新たに購入するにあたって、特に支障がない場合は、数年間、今回の納入業者と販売に係る協定を結ぶこととする≫(下がその仕様書。赤い囲みはHUNTER編集部)

学習用PC購入契約に係る仕様書

 驚いたことに、実証研究用パソコンの契約を受注した業者に、今後数年間、無条件で新入生にパソコンを売る仕事を保証する内容となっていた。競争の原則を役所が放棄した形で、業者への便宜供与ととられかねない格好だ。

 昨年12月に実施された入札は、単に実証研究用パソコンの納入業者を決めるというだけではなく、その後数年間の「利権」を独占する業者を選定するためのものだったことになる。県教委は、この仕様書の記述に基き、昨年12月27日に業者と「佐賀県学習用PC販売に係る協定書」を締結していた(注:協定書の内容とその問題点については、改めて報じる予定)。

 実証研究用パソコン1,856台を受注したのは、佐賀市に本社を置く電子教育機器卸、販売の「学映システム」。「一者応札」によって2億円近い売上げを得た同社は、毎年県立高校に入学してくる生徒に対しパソコンを売る権利をも獲得したというわけだ。佐賀県立高校の新入生の定員は6,800名。単純計算だと8万4,000円×6,800名、毎年5億7,120万円の売上げが同社に転がり込むことになる。ここ数年の同社の年間売上げは、約15億円から19億円台で推移しており、高校生へのパソコン販売だけで、現状の3分の1の売上げを確保することとなる。

 「一者応札」、「利権を保証する協定書」―不透明というより、疑惑と呼ぶべき事態だろう。佐賀県議会は、パソコンに関する契約の過程を精査し、詳しい検証を行うべきではないのだろうか。



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