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佐賀・高校生パソコン購入義務化 「成績向上」に裏付けなし
億単位実証研究 目的は教員の習熟度アップと端末選定

2014年1月 9日 07:46

 佐賀県が、「先進的ICT利活用教育推進事業」の一環として新年度に入学する全県立高校の新入生全員にパソコン購入を義務付けた問題で、県が平成22年度から行っていたICT利活用の実証研究において、パソコン導入が成績に与える影響を検証するデータが得られていなかったことが明らかとなった。
 実証研究では、端末の使い勝手や教員の習熟度が調べられたにすぎず、県教育委員会は、パソコンを利用した学習が成績向上に資するかどうかの判断材料となるデータをとっていなかった。県教委側もデータがないことを認めている。
 生徒の成績向上を最大の目的としているはずのパソコンの購入義務化に、数字上の裏付けがなかったことになる。
(写真が、導入されるタブレット型パソコン「ARROWS Tab Q584/H」)

実証研究に億単位の公費
 佐賀県は、「先進的ICT利活用教育推進事業」を推進する目的で、平成22年度から県内の中学校などにおいて、約1億5,000万円をかけて授業へのパソコン導入を図るための実証研究を行っていた。実証が行われたのは、中・高一貫校、中学2校、養護学校の5校。平成24年度には、別に県立高校5校を選び、3校にiPad 、2校にウィンドウズを導入し、新たな実証研究を実施していた。

新規事業 評価表 平成22年度から実施されている5校での実証においては、成果目標として「授業中にICTを活用して指導する能力、児童・生徒のICT活用を指導する能力、校務にICTを活用する能力で、『わりとできる』『ややできる』と回答した教員の割合が、全国上位5位以内の水準となること」を掲げていたことが、県教委への情報公開請求で入手した「新規事業 評価表」(右の文書参照。赤い囲みはHUNTER編集部)から分かった。実証研究は、教員のICT活用の習熟度を図るためのものだったことになる。

 また、平成24年度の高校5校による実証研究は、単にiPadかウィンドウズかを決めるためのものとなっており、ウィンドウズを導入した2校だけで、パソコン562台に約4,200万円の予算を使っていた。県教委によれば、iPad導入でも同程度の予算を使ったとしている。

 この間、iPadやウィンドウズを利用した学習によって、成績が向上したかどうかを示すデータはとられておらず、県教委の説明によると、主としてiPadがいいかウィンドウズがいいかの判断を下すための検証が行われていた。

「学力向上」―裏付けデータなし
 これまで県教委は、新入生へのパソコン購入義務化を、「教育の質の向上と児童生徒の学力向上につながる有効な手段」と主張してきており、昨年12月の佐賀県議会でこの問題について答弁した県教育長も、ICT利活用の効果として、「学力向上」を真っ先にあげていた。

 億単位の公費を投入した実証研究で、成績アップにつながるか否かを判断するためのデータをとっていなかったことは、従来の県教委の主張に裏付けがなかったことを意味している。県教委側に対し、生徒にパソコンを購入させて成績向上の効果が得られなかった時は誰が責任をとるのか聞いてみたが、なんの答えも返ってこなかった。

 億単位の公費を投入した実証研究は、端末選定の判断材料と、学校側による生徒管理上の実用性を試したもの。見方を変えれば、生徒へのパソコン購入の義務化自体が、生徒管理を主たる目的にしているとも言えよう。パソコンはソフト代込みで1台8万4,000円。そのうち5万円を保護者が負担し、残りを税金で賄うことになっている。この負担が、本当に子ども達のためになるとは思えない。生徒管理や教員のためのパソコン導入なら、高校生がパソコンを強制的に買わされる必要などあるまい。

*パソコン購入義務化をめぐっては、価格決定の過程に大きな疑問が生じており、次稿で詳細を報じる予定だ。



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