福岡市が進める認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転をめぐり、市と運営法人及びその上部団体である「一般社団法人福岡市保育協会」が、共謀して移転事業破たんの事実を隠蔽。マスコミや保護者の問い合わせに対し「契約工期にて完成を目指す」と話すよう、会議出席者間で申し合わせていたことが、HUNTERが入手した中央保育園新築工事の関係者会議議事録によって分かった(22日既報)。在園児保護者だけでなく、市民をも騙す極めて悪質なやり方だ。
しかし、問題はこれだけにとどまらなかった。入手した別の文書から、移転計画で最も重要視されてきた災害時の「避難計画」が、数ヶ月間、まったく成り立たない状態となることが明らかとなった。市はこれを承知で、事実関係を隠す姿勢を崩していない。
業者提出文書―「6月1日開園」明記
HUNTERが会議の議事録とは別に入手したのは、新園舎の建設を請負った地場ゼネコン「北洋建設」(中央区白金)の現場責任者が作成した文書。A4版2枚に記された「中央保育園新築工事 工期変更に伴う要望・検討事項」である。10月3日付けの同文書は、工事の関係者会議に提出されたものと見られる。下がそのコピーだ。(赤いアンダーラインと書き込みは、HUNTER編集部)
文書の記述によれば、計画通り4月1日に開園を予定しているB園は開園の3日前、A園に至っては開園前日の引き渡しで、いずれも、通常なら考えられない苦しい日程。文書の工程通りに運んだとしても、緊急時に備えた避難訓練のまねごとさえできないまま、園児を迎え入れるということになる。無責任というしかないが、これも新年度までの「待機児童解消」を打ち出した、高島宗一郎市長の面子を優先した結果だ。
もともと無理な「避難計画」
中央保育園の移転がもたらす問題の中で、もっとも重要視されるのは、災害発生時にこども達の安全確保ができないという点だ。
新園舎の前面道路は、幅が5.5メートルしかない。国体道路に向かっての一方通行路で、終日混雑。右の写真のように、いつも車が列を成している状況だ。この道を定員いっぱいの乳幼児300人と100人近くの保育士らがどうやって避難するのかについて、市も運営法人も十分な対策を打ち出しきれていない。そもそも、前面道路しか逃げ口がないという場所に、保育園を移転させるという、福岡市の計画自体に無理があるのだ。
市は「歩道」を作ると言っているが、道幅が広がるわけではなく、車道との間に段差もつけられない。道路の主役は依然として「クルマ」。一歩間違えば大惨事だろう。近年、集団通学中のこども達にクルマが突っ込む事故が続いているが、保育園予定地周辺はそうした事故が起きた場所以上に危険性が高い。
窮した市が考え出したのは、「消防」にこども達の安全確保を丸投げすることだった。災害発生と同時に、こども達を「園庭」に集め、そこで待機。消防到着を待って、誘導に従うというもの。この間、約5分程度なのだという。今年7月に開かれた保護者向け説明会では、わざわざ市消防局を呼んで、緊急時避難に対する消防の対応について説明させている(もっとも、肝心の保護者は誰一人説明会に出席しておらず、話を聞いたのはマスコミ関係者だけだったが)。
だが、消防がこども達の安全を「絶対守れる」というわけではない。HUNTERの取材に応えた市消防局は、出動から新中央保育園到着までの時間を「これまでの実績」に基く数字だとしており、災害の種類や度合いによってはこれが延びることや、事故多発の場合に、保育園だけを特別扱いできないことを明言している。こどもの安全など、はなから担保されていないということだ。
新園舎「仮使用」の問題点
新しいふたつの保育園は、建物がつながっているため、建築基準法上あくまでも一つの保育園。このため、建築工事なかばでB園だけを使用する場合、同法上の「仮使用」ということになる。
「仮使用」にあたっては、行政(本件では福岡市)が、安全や防火上および避難上支障がないと認めて承認することに加え、消防の同意が必要だ。中央保育園の新園舎仮使用申請に対し、市は高島市長の顔色をうかがい、目をつぶって承認するだろうが、消防局はそうはいかない。
福岡市では今年10月、博多区の安部整形外科で火災が発生、10人の犠牲者を出す惨事となったばかり。緊急時避難の重要性は、消防が一番よく分かっている。この点について、市消防局は、「(仮使用が現実となり)正式な避難計画が出されれば、きちんと指導していく」と話しているが、まともな避難計画が策定できない以上、消防として「同意」を与えることは不可能だろう。
「園庭は使用できません」
現状考えうる最低限の避難計画にあって、要となるのが「園庭」の存在。300人のこどもと100人前後の大人を集める「園庭」は、もともとそれほどの面積があるわけではない。それが工事の遅れで、使用不能となれば、「仮使用」期間中、B園ですごすこども達の避難計画そのものが成立しなくなる。こどもの安全を考えれば、十分な避難計画がないまま、保育園を開園するのは不可能なはずだ。10月31日の記事でもそのことには触れた。
それでは、新園舎を「仮使用」状態で開園することによってどのような状態になるか―前掲の文書2ページの3行目には、こう書かれている。
下は、市への情報公開請求によって入手した図面をもとに、HUNTERが移転予定地内の「仮使用」状態での位置的な関係を示したものだ。関係者の話を総合した想定だったが、北洋建設の作成した文書によって、ほぼ間違いないものであることが証明された。本来の園庭が工事スペースにとられる様子と、緊急時避難の安全性が担保されていないことが理解できるだろう。
工期、さらに延期の可能性示唆
北洋建設の文書には、さらに憂慮すべき記述がある。
姑息なアリバイ作り
来年4月1日の開園という計画が狂ったことは、長く隠せる話ではない。11月は保育園の入園募集が開始される時期であり、在園児はもとより、来年度に入園するこどもの保護者に、どの園舎に通うことになるか、説明しておく必要があるからだ。このため、中央保育園は、先週はじめに右の文書を関係者に配布していた。
文書の右下、黄色い枠の中に、こう書かれている。
《新中央保育園は、4月開園をめざし、建設を進めています。建設の進捗状況によっては、新中央保育園すべてが完成するまで、現保育園施設と新保育園施設の一部を使用して、保育を行うこともありますので、ご了承下さい。》(赤い矢印はHUNTER編集部)
移転計画が狂ったことを、はじめて認めた形ではあるが、これによって生じる問題については何一つ触れられていない。あとになって問題がこじれないための、市と保育園の、いわばアリバイ作りの一環に過ぎない。不測の事態が起きても、これを読んだ上で保育サービスを受けた保護者には、「了承」したはずだと主張するつもりなのだ。姑息な保育行政の犠牲になるのは「こども」。こんなことが許されていいはずがない。
HUNTERが入手した一連の文書を突きつけられても、市は事実関係を認めず「4月1日の開園を目指す」と繰り返すばかり。関係者会議議事録についても、財政局はあっさり保有を認めているのに、所管の保育課は「捜している」などとして、存在すら認めようとしていない。
なお、北洋建設側が作成した前掲の文書には、地域住民に「やらない」と約束した日曜・祭日、夜間の工事を余儀なくされることや、追加工事費の発生についての記述もある(赤いアンダーライン部分参照)。