福岡市が中央区今泉で進める認可保育所「中央保育園」(運営:社会福祉法人福岡市保育協会)の移転計画が事実上破たんしていることが、30日までのHUNTERの取材で明らかとなった。
市が約9億円で購入した移転予定地に整備予定のふたつの保育園のうち、片方の建設が4月の開園に間に合わず、数ヶ月遅れる見込み。これにともなう工事用スペース確保のため、園庭が極端に狭められ、最大の問題点とされていた“緊急時避難”の集合場所や避難路確保が困難となることが確実な状況だ。
市は、公表していた「待機児童解消」の実現を装うため、現在の保育園舎を利用し、300とされる同園の新定員数を充足させる構え。場当たり的な計画で、園児はもちろん、保護者らの混乱が確実視されるが、市側は取材に対し頑として計画変更を認めようとせず、隠蔽姿勢を露わにしている。
(写真は、中央保育園移転予定地での工事の模様)
建物「仮使用」で見切り発車
市はこれまで、現在の中央保育園を移転させ、近隣の風俗街に新たに「中央保育園」と 「第2中央保育園」の2園を新設し、現行150名の定員を倍の300名にするとしていた。
ところが、在園児保護者に対する市側の説明不足に加え、不透明な移転計画の過程が判明。これが原因で移転反対運動が起き、市の判断で6月の着工を延期した。実質2ヶ月遅れで工事を開始したものの、結局、予定通りに開園できるのは前面道路に面した新「中央保育園」のみ。残る 「第2中央保育園」の開園は数ヵ月後になる可能性が高いという。取材に対し、複数の関係者がこの事実を認めている。
4月1日の開園に間に合うのは、午前2時までの夜間保育を実施する予定である定員165人の新「中央保育園」。定員135人の「第2中央保育園」の開園は、早くても6月頃になる見通しだという。
新しいふたつの保育園は、建物がつながっているため、建築基準法上あくまでも一つの保育園。このため、建築工事なかばで新「中央保育園」だけを使用する場合、同法上の「仮使用」ということになる。
同法では、建築物等を新築又は増築する場合、原則として、建物が完成し、行政機関から検査済証の交付を受けた後でなければ建築物等を使用できないと定めている。ただし、行政(本件では福岡市)が、安全や防火上および避難上支障がないと認めて承認したときは、仮に使用することができ、この使用制限を解除する一連の手続きを「仮使用承認制度」という。一定規模以上となる建物の仮使用を承認するにあたっては、消防の同意も必要だ。
新「中央保育園」の仮使用申請を行うためには、施主が市および消防側との事前協議をする必要が生じる。現在、中央保育園の運営母体である社会福祉法人福岡市保育協会と、福岡市、市消防局が、工事の遅延を見越して個別の相談を開始しており、今後正式な事前協議に向かうと見られている。計画変更によって、従来の市側説明に大きな狂いが生じる。
崩れた緊急時避難の前提
高島宗一郎市長は、定例会見などの中で、福岡市の待機児童数を「約700人」としてきた。中央保育園の定員を150名増やし倍の300名にすることは、待機児童解消の切り札。なんとしてもこれを実現するため、現在の中央保育園をそのまま数ヶ月間残し、新「中央保育園」との間で子ども達を振り分ける計画だとされる。キャパからして、現在の保育園で165名、 新「中央保育園」に135名を受け入れるものと考えられるが、待機児童解消のみを優先させることで、園児の安全確保が二の次になることが確実となる。
市は、最大の問題だった災害発生時の「避難」について、いったん300名の園児を園庭に集め、「消防」の到着を待って、誘導および避難を行うとしていた。しかし、新たに整備されるふたつの保育園のうち、開園が遅れる「第2中央保育園」は敷地の奥。工事期間中は、敷地の大部分を工事車両の通路と、工事資材置き場等に使用するため、園庭が極端に狭くなる。肝心の園庭の面積がなくなれば、緊急時避難の前提が崩れることになる。さらに、入り口部分の多くを工事車両の通行用に取られるため、道路側への園児の避難路も極端に狭いものとなってしまう。
下は、市への情報公開請求によって入手した図面をもとに、HUNTERが移転予定地内の位置的な関係を示したものだ。あくまでも関係者の話を総合した想定だが、本来の園庭が工事スペースにとられる様子は現実に近く、緊急時避難の安全性が担保されているとは言えない。
病院火災後―注目される消防の判断
緊急時の避難が難しい状態になったことで、消防局側は仮使用に慎重にならざるを得ない。福岡市では今月11日、博多区の安部整形外科で火災が発生、10人の犠牲者を出す惨事となったばかり。緊急時避難の重要性は、消防が一番よく分かっている。この点について、市消防局は、「(仮使用が現実となり)正式な避難計画が出されれば、きちんと指導していく」としている。
子ども置き去りの無責任体制
計画破たんの現実について、所管の市こどもみらい局に話を聞いたが、幹部職員はいずれも「4月1日の開園を目指すとしか言いようがない」の一点張り。事実関係について、真相を隠す姿勢を鮮明にしており、またしても在園児や保護者を置き去りに、勝手な計画を押し付ける構えだ。
問題はまだある。認可保育所であるためには、園庭もしくは屋上か近接の公園といった代替条件が必須のはず。園庭がないに等しい仮使用の新「中央保育園」が、果たして認可園として認められるのかどうか。さらには、工事が4月までに終わらず、年度をまたいだ場合、単年度ごとの扱いとなっている施設整備補助金の支出について、改めて議会の承認が必要となる。
こうした中、保護者らの声を無視し、市側と組んで保育園移転を強行した中央保育園の園長が、12月をメドに辞任することも明らかとなった。移転・開園を前に責任者が変わるのは異例。無責任体制が守っているのは、商業施設を作りたいばかりに保育園の移転を決めた「フィットネス市長」の面子だけということになる。