ガス溶接作業者の国家資格試験で答案用紙を改ざんするという重大な違反行為が発覚しながら、その事実を隠蔽していたことが明らかとなった「公益社団法人 鹿児島県労働基準協会」(諏訪健筰会長)。同協会の吉本耕作専務理事は当初、HUNTERの取材に対し「誰に聞いた!証拠はあるのか!」と居丈高に言い放ち、その後の取材要請には一切応じようとしていない。
誰が情報源なのか答える報道機関などあるはずがないが、専務理事に「記事で明らかにする」と記者がお約束した“証拠”は、確かにある。
■改ざんの手口
まず、鹿児島県労働基準協会加世田支部の職員が行った答案用紙改ざんの手口。下が、実際に改ざんされた答案用紙10枚の内の1枚だ。マークシート方式だったことから、間違った回答を消して、正解を塗りつぶすという単純なものだった。
■発端となった「メモ」
次が、答案用紙改ざんが見つかる発端となった「メモ」。採点のために加世田支部から鹿児島市内の協会本部に答案用紙が送られた際、同封されていたとされ、本来なら「不合格」だった10人の、改ざん前の得点が記されている。本部の職員は、このメモを見て改ざんに気付いたという。答案用紙の得点と違う数字が記されていれば、怪しまれるのは当然。しかし、事の顛末を記した複数の文書には、なぜこのメモが同封されたかについては一切触れられていない。
■不正の実態
下は、不正に関係した職員に対し懲戒処分を決めた時の決裁文書の一部。加世田支部の職員が、答案用紙を改ざんした10名の受講者の改ざん前と改ざん後の点数、改ざん箇所が明記してある。受講番号1番の点数と、前掲の「メモ」にある丸印の数字が一致しているのが分かる。
筆記試験は100点満点。合格するためには「知識1」「知識2」「法令」の分野でそれぞれ4割の正解、全体では60点以上が必要だった。答案用紙が改ざんされた10人の受講者の点数は、すべてそれ以下で、酷いケースは20点しかとれていなかった。この場合、答案用紙の改ざんによって40点以上も下駄を履かせたことになる。
不可解なのは、低レベルの20点、24点という点数の受講者を一人ずつ合格させておきながら、別の24点の受講者の答案用紙の改ざんが不十分で、56点にしかなっておらず、不合格にしたこと。ある協会関係者は、「改ざんによる加点段階でミスを犯したとは思えない。別の理由があったと思う。受講した27名全員が合格すると不審に思われると考え、意図的に不合格にしたのではないか」と話している。
■改ざんは1校に集中
ガス溶接作業者の国家資格講習を受講しているのは、加世田市内で2つの高校だけ。別の協会関係者によれば、特定の1校だけが毎回合格率が飛び抜けて高く、そこに疑念を抱く職員は少なくなかったという。「加世田支部の不正は以前からあった。改ざんを行った職員は実行犯で、指示していたのは上司」との証言もある。協会の一部業務を所管する鹿児島労働局はHUNTERの取材に対し、「今回の件だけでなく、全体について調査する」としている。
■隠蔽体質が招いた協会の私物化
不正について事実関係を糺したHUNTERの記者に、「誰に聞いた!証拠はあるのか!」と開き直った同協会の吉本耕作専務理事は、事案発覚当時「事務局長」。改ざん事件の処理に関与した一人だ。報道を受けて「水際で(不正合格を)止めた」などと自慢げに話したという協会側だが、世間体を考えて、隠蔽したに過ぎない。最終的に「隠蔽」の判断を行ったのは同協会の諏訪健筰会長だったとの証言もある。
国家資格試験の不正を隠蔽した結果、協会の体質は変容。会長と一部の幹部が協会の運営を歪め、「私物化」が顕著になったという。動産購入にあたって最優先される会長の意思、横行するパワハラ――。労働行政の一端を担う公的団体のなかで何が起きているのか、次稿で明らかにする。