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福岡市・ネット閲覧制限の問題点
「市政記者クラブ」は特別扱い

2013年10月 4日 09:40

福岡市・ネット閲覧制限 目障りなネットメディアは税金を使って排除―今年8月から福岡市が実施している庁内パソコンの閲覧制限強化は、事実上の検閲だった。狙いはHUNTER。高島宗一郎市長の市政運営にことごとく異を唱えてきたことへの稚拙な報復と見られる(参照記事⇒「福岡市、職員ネット閲覧で事実上の検閲」。
 「情報統制」、「迷惑」、市職員から批判の声が上がる中、福岡市に対し情報公開請求して入手した閲覧制限に関する文書から、いくつかの問題点が露わになった。

恣意的運用も可能
 開示された文書によると、市は今年8月、平成12年に独自に定めた「インターネット利用基準」を改定し、新たに次の条文を加えていた(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。

鹿児島 807.jpg

 この条文によると、総務企画局長に利用制限の対象を決める権限を付与、局長が「業務に関係なし」、「制限の必要あり」などと判断した場合は、インターネット利用を制限できるとしている。つまり、総務企画局長の裁量次第で、閲覧の是非が決まる。
 例えば、職員がHUNTERをはじめ市上層部が問題視するサイトの記事を読んだとする。すると閲覧記録を局長が確認し、場合によっては職務専念義務違反に問うというわけだ。
 市職員から「最終的な制限対象決定の権限を総務企画局長ひとりに与えるいうのはいかがなものか。局長がダメというならアウトというのでは、恣意的な運用も可能になってしまう」という指摘が出ているのには頷ける。

 高島市長が、幹部職員に対し「HUNTERを見るな。職務と関係ない」と指図していたことは、多くの職員及びOBが証言している。総務企画局長にも同様の指示が出ていると考えるべきだろう。となれば、市長の意に沿わぬサイトの閲覧は、すべて処分の対象となる可能性がある。“情報統制”、“検閲”、今回の閲覧制限強化に対するいずれの批判も的外れではあるまい。

施策との整合性に疑問
 市は今回、これまで制限がかかかっていなかった23項目(カテゴリー)に、新たに閲覧制限を加えている。ソーシャルブックマーク、SNS、ブログ、金融・投資情報と多岐にわたるが、理解できないのは芸能、スポーツ、映画・演劇、グルメ、TV・ラジオといったものまで制限対象に加えたことだ。

 福岡市は、ソフトバンクホークスのファーム(2.・3軍)本拠地誘致に名乗りを上げ、二次選考に進んでいる。スポーツニュースが見づらいという状況は、おかしくはないか。
 さらに、芸能関係のサイト閲覧制限にしても、ついこの間までの施策と整合性がとれない。元AKB48の篠田麻里子さんを仮想行政区「カワイイ区」の区長に祭り上げていたのはどこのどなただったか。篠田さん起用は、彼女の芸能分野における情報発信力に期待してのことだったはずだ。
 疑問はまだある。新任のカワイイ区長は、ブログや動画サイトに日本の文化を投稿して人気を集めているという、カナダ人女性のミカエラ・ブレスウェートさん。しかし、SNSやブログを閲覧制限の対象にしてしまえば、彼女の情報発信内容のチェックに支障を来しはしないか。この点について市側に見解を求めたが、いまだに回答はない。ちぐはぐな対応は、付け焼刃で制限強化を図った証左でもあろう。

露骨な市政記者クラブ囲い込み
 最大の問題は、閲覧制限の対象に「ニュース」を加えたことだ。しかもネットメディアを狙い撃ちした可能性が高い。庁内で通知された「インターネット利用における閲覧方法の変更について」のなかに、具体的な変更内容が明示されていた。そこには、こう記されている。

*ニュースサイト閲覧時は「確認画面」が表示されますが、市政記者クラブ所属の新聞社・通信社、iJAMP、及び47行政ジャーナルについては、確認画面を表示することなく閲覧可能です
(下参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部。「iJAMP」は時事通信が、「47行政ジャーナル」は共同通信が運営する行政機関向けの有料サイト)

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 市は、市政記者クラブ加盟の記者たちの会社が発信する情報だけを特別扱いし、制限対象から除外。記者クラブに加盟していない他のメディア―例えばHUNTERや「NET‐IB」(データ・マックス社が運営)といったネットメディアを締め出す作戦に出たのである。露骨な記者クラブ囲い込みだ。

 なぜ記者クラブを特別扱いするのか市の担当者に聞いてみたが、納得できる説明は返ってこなかった。今回の閲覧制限を察知していた記者クラブ所属の記者たちが、問題提起しなかったはずである。市政記者クラブの記者たちは、「言論の自由を守る」などといった高邁な理想など持ち合わせていないのだろう(この点については、次稿で詳しく述べたい)。

 幸い(不幸中の幸いと言うべきだが)、当サイトへのアクセス数は、9月から増加傾向にある。市の職員が話してくれたように、「見るなと言われれば見たくなる」という心理がはたらいているのだろう。昼休み時間と、夕方にアクセス数が伸びるといった現象も顕著で、市職員が「職務専念義務違反」を犯していないことは確かなようだ。ことは市長の思惑とは別の方向に動いたということになる。「残念でした」と申し上げておきたい。

ゲシュタポ
 だが、今回の市側の対応は、同様の閲覧制限を行っている他の自治体と比べても異常だ。処分をチラつかせて、職員がネット上の様々な情報に接する機会を奪うことなど許されていいはずがない。特にネットメディアやブログにまで閲覧制限の対象を拡げたことは容認できない。結果的に、言論の自由を否定することにつながるからだ。ある市職員OBの話を紹介しておきたい。
福岡市役所の中ににゲシュタポ(*)が存在している。監視はネット上のことだけではない。職員が報道関係者とどのような話をしたか、誰がどこの記者と接触したかまでチェックされている。特にHUNTERについては過敏になっている。在職中、その雰囲気が嫌でたまらなかった。福岡市役所は死んでいる
 高島市長は報道機関の出身だが、記者クラブはコントロールできると豪語していると聞いている。驕りとしか言いようがないが、記者クラブの連中もそのことを知っていて黙っている。ジャーナリストが聞いて呆れる。自分たちの情報発信が邪魔されると騒ぐくせに、今回の閲覧制限については何も書かない。これで報道と胸を張って言えるのか」。(*「ゲシュタポ」⇒悪名高きナチス・ドイツの秘密警察)
 これまた的外れの批判ではないと思うが・・・・。 

<市政取材班>



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