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鹿児島・伊藤知事リコールの背景

2013年8月12日 10:05

鹿児島県庁 伊藤祐一郎鹿児島県知事に対するリコール(解職請求)の動きが顕在化した。県内の市民団体などが取り組むもので、実際にリコールのための署名集めが始まれば、県政史上初、国内でも前例のない事態となる。
 鹿児島―上海間の航空路線維持のため、公費による職員の上海研修を実施したり、人気の商業施設を壊して必要性が乏しい体育施設を整備するといった非常識な施策を次々と打ち出した独裁者に、県民の怒りが火を噴いた形だ。
 薩摩川内市の産業廃棄物最終処分場「エコパークかごしま」、鹿児島市松陽台の県営住宅増設など、平然と住民の声を踏みにじってきた伊藤知事。すべての暴挙の背景に、「利権」や特別な人脈が絡んでいることを、改めて整理しておきたい。

リコール成立の可能性
 地方自治法は、リコールについて次のように規定している。
《選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の3分の1(その総数が40万を超え80万以下の場合にあつてはその40万を超える数に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が80万を超える場合にあつてはその80万を超える数に8分の1を乗じて得た数と40万に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数))以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる 》。

 鹿児島県の有権者数は、およそ140万人。総数が80万を超える場合にあたるので、その(140万-80万)×8分の1=75,000。これに40万×6分の1≒67,000と40万×3分の1≒134,000を加えると、およそ276,000人が請求に必要な数となる。
 請求が有効となった場合、60日以内に住民投票が行われ、有効投票総数の過半数の賛成で、知事は失職する。通常ならかなり高いハードルだが、現在の鹿児島県内の県民感情を考えれば、不可能な数字ではない。

 今月初旬、鹿児島市立病院の院長人事をめぐる知事の関与について取材した際のこと。多くの市民に話を聞いたが、異口同音に知事への批判が飛び出した。
「伊藤さんはだめですよ。次の選挙で落とさな」(50代タクシー運転手)。
「税金で上海旅行やら、とんでもない知事でしょう。県外の人に恥ずかしい」(60代タクシー運転手)。
「伊藤独裁県政ですよ。県民の声など無視。リコールでもあれば、真っ先に手伝いに行く」(40代教員)。
「3期目でおかしくなったんでしょう。権力は長く続くと腐ると言うけど本当ですね。去年の選挙で落としておくんだった」(50代主婦)。

 これまでになかった反応ばかりで、「鹿児島は官尊民卑の土地柄。お上の方針には逆らえないという県民が多い」(県職員OB)という風潮に、変化の兆しが見えはじめていた。リコール成立は、決して夢物語ではなくなっている。
 そして、こうした県政の混乱を招いた背景にあるのが、「利権」と特定の人脈であることは疑う余地がない。

腐敗の背景Ⅰ―伊藤県政と「植村組」の蜜月
汚泥混じりの濁水を、通常の土に投棄 HUNTERが薩摩川内市で長期取材を続けている産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」の工事現場では、違法・脱法行為が横行してきた(写真は汚泥混じりの濁水を、通常の土に投棄する夜間工事の現状)。

 産廃であるはずの汚泥を不法に捨てるは、汚水は垂れ流すはのやりたい放題。あげく、湧水の多さを見誤るという設計ミスから、事業費が当初契約の77億7,000万円から96億4,920万円にまで膨れ上がっている。

 二束三文の土地を処分場用地として県に売ったのは、地場大手ゼネコン「植村組」の子会社だ。その上、建設工事まで植村組が参加した特定建設工事共同企業体(JV:「大成・植村・田島・クボタ」)が受注。傾きかけていた植村組を、伊藤県政が救済した形となっていた。

 植村組と行政の癒着を示す事例はまだある。これまで報じてきたように、鹿児島市立病院の院長人事には、所管違いの伊藤知事が関与していたことが明らかになっている(参照記事⇒「鹿児島市立病院人事 伊藤知事の関与濃厚に 」。
 その市立病院は現在、施設の老朽化、狭隘化に伴う移転新築工事の真っ最中。約170億円の事業費をかけ、平成24年度に着工、平成27年度開院の予定で工事が進む。

 同市上荒田の日本たばこ産業(JT)工場跡地に建設される新病院の敷地面積は44,631.81㎡。ここに地上8階、病床数約580床(延床面積にして51,896.24㎡)の最新医療施設が完成するのだが、工事現場を取材した記者を驚かせたのは、そこにあった看板だった(下の写真)。

鹿児島市立病院本棟新築本体

 78億5,000万円とされる新病院建設工事を請負ったのは、「竹中工務店・植村組・南生建設」のJV。驚いたことに、ここでも植村組だったのである。

 匿名を条件に、県議会関係者が次のように語る。
「県内の大型公共事業は、植村組のためにあるようなものだ。近年、植村組は借金まみれで銀行管理状態だった。着工寸前だった川内原発3号機の増設は、大成・植村が受注する予定だったが、福島第一(原発)の事故で、計画が頓挫した。起死回生がなくなった。そのため植村の救済策として、川内(薩摩川内)の処分場やらなにやらと、次々に植村組に仕事を取らせている。市民病院も植村組。きな臭いと言うしかない」。

腐敗の背景Ⅱ―伊藤県政とメディポリス
メディポリスがん粒子線治療研究センター 鹿児島県指宿市にある「メディポリスがん粒子線治療研究センター」。陽子線を使ったがんの治療施設を運営しているのは、「メディポリス医学研究財団」だ。同センターの事業には、予定分を含めて公費約60億円が投じられている。
 しかし、運営計画に狂いが生じたため、財団の財務状況が悪化。巨額の借入金を抱えた同財団が、患者確保のため考え出したのが、中国富裕層の引き込みだった。

 財団は今月2日、上海の医療機関内にメディポリスがんセンターの相談窓口を開設することを公表したが、中国の患者でも呼びこまない限り、メディポリスの財務状況は改善しないところまできているのである。そのためどうしても必要となるのが、鹿児島―上海間の航空路線だったというわけだ。
 公費による上海研修は、税金投入の失敗を、さらなる税金投入で糊塗するための策ということになる。県民が怒るのは無理もない。

 ちなみに財団の理事長である永田良一氏は、伊藤知事側に対し、計200万円の政治資金を提供していた人物である。

腐敗の背景Ⅲ―「最福寺」人脈 
 鹿児島市立病院の院長人事に伊藤知事が関与していたことは間違いのない事実だが、歪められた人事の裏に、市内谷山における別の新病院建設計画がある。更迭された前院長も、自筆の文章でこの件に触れているが、その事業主体は「徳洲会」とされる。

 徳洲会関係者にあたったところ、「鹿児島市内の新病院については、肯定も否定もできない。可能となれば、ドクターヘリは是非うち(徳洲会)に、ということになるんだろう。市立病院とうちがドクターヘリを奪い合っているという噂があるが、何とも言えない」。

 鹿児島県において、医師会との関係は最悪といわれる徳洲会。医師会の推薦を受けて当選を重ねてきた伊藤知事と徳洲会に特別な関係があるとは思えないが、接点は意外なところにあった。

 今年、朝鮮総連中央本部(東京都千代田区)の競売をめぐり、全国の注目を集めた宗教法人が鹿児島市内にある。池口恵観氏が代表を務める宗教法人「最福寺」である。最福寺は、いったん5億円を納付し、朝鮮総連の土地、建物を45億1,900万円で落札したが、残金の手当てがつかず、購入を断念していた。

 最福寺を訪ねてみると、石塔の下に寄附者のものと思われる「篤信者ご芳名」が刻まれていた。
 写真の通り、その先頭には「徳田虎雄」、次に「徳田秀子」。虎雄氏は一代で徳洲会グループを築いた立志伝中の人物、秀子氏はその夫人である。

「篤信者ご芳名」

 伊藤知事と池口恵観氏との関係は、県庁内部でも知られている。ある県庁職員の話。「知事はよく最福寺に行っていましたね。県庁内では有名な話ですよ。最福寺は、野球選手や歌手など、有名人が通うことで知られています。知事もその一人。最福寺の池口さんが、鹿児島県のフィクサーだという人間もいるくらいですから。徳洲会と伊藤知事をつないだのは、池口さんじゃないんですかね」。

 そして最福寺ともっとも親密なのが、前述したメディポリス医学研究財団の理事長、永田良一氏である。永田氏は、池口氏を師と仰いでおり、その関係で高野山大学に多額の寄附をしたり、ともに同大の講師を務めるなどの活動を行なってきた。池口氏が、発足時からつい最近までメディポリス医療研究財団の理事を務めていたことも確認されている(現在は事理を退任)。

 メディポリス医療研究財団の理事には、鹿児島大学の医学部長も名を連ねている。鹿児島市立病院の新院長は同大学医学部の教授だ。知事が院長人事に介入したのは、経営難に陥っているメディポリスに、市立病院から患者を回させるという狙いがあるとの見方もあるほどだ。

 永田メディポリス、徳洲会、そして伊藤知事―。最福寺の池口恵観氏を軸に、複雑な人的関係が存在するのは確かだ。

 県政トップの座に君臨し、県民無視の行政運営を続けてきた伊藤祐一郎氏。独裁知事に対するリコールのための署名集めは、9月に始まる。



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