日本で初めて五つ子の誕生を実現させたことで知られる鹿児島市立病院。この病院で事実上の院長更迭が行なわれ、伊藤祐一郎鹿児島県知事の関与が取り沙汰される事態となった。
独裁知事の越権行為は事実か否か――確認取材を重ねていたHUNTERの取材班が、当事者である上津原甲一前院長自身が執筆した文書を入手した。
そこに書かれていたのは、院長を交代させるよう、知事が森博幸鹿児島市長に指示を出した背景。これによって知事が所管外の市立病院の人事に介入した疑いが濃厚となった。
もの言わぬ当事者
先月30日、HUNTER取材班が最初に訪ねたのは、上津原甲一前院長。院長交代が告げられた7月中旬の前院長と市長の会談で何が話し合われたのか、確認するためだった。
たまたま市立病院の院長室で、引退にともなう部屋の片付けを行っていた上津原前院長は、取材の趣旨を聞いて「申し訳ないが、引越しの途中。お話しすることはできません」。市立病院トップとして、軽々に人事の話をすることはできないのだろう。
次いで取材班は、鹿児島市役所の秘書課を通じ、森市長に院長人事への知事の関与があったのかどうかを問い合わせた。数時間後、市長は秘書課を通じて「そうした事実はない」と回答。知事を守る姿勢を鮮明にした。
前院長の一文を入手
口を閉ざす当事者ふたり。やむなく病院関係者への取材を続けていた取材班は、この日病院内で配布されたと見られる一枚の文書を入手した。
鹿児島市立病院労働組合が発行した機関紙「情報」の第35号。「組合員の皆さまへ」のあとに前院長「上津原甲一」の名前があった。(下が「情報 第35号」)
複数の病院関係者によれば、機関紙「情報」に寄せられた一文は、間違いなく上津原前院長が寄稿したもの。加筆、修正などは一切行われておらず、前院長が書いた文章をそのまま掲載したという。組合関係者もこの事実を認めている。
知事関与が前提の内容
文中、前院長は組合員による院長留任署名に感謝を表したあと、院長交代劇の背景について述べている。要約すると次のような内容だ。
すべては、伊藤知事が院長人事に介入したことを前提にしており、森鹿児島市長が言ったとされる「伊藤知事の指示」が事実であることを認める内容となっていた。
森市長が、人事の話で知事の名をかたったとは考えられない。また、2期8年にわたって市立病院を率いてきた前院長が、作り話で知事や市長の足を引っ張る必然性もない。市立病院の院長交代劇に、独裁者といわれる伊藤祐一郎知事の関与があったと見るほうが自然だ。
事情を知った県民の間からは、「これ以上伊藤知事の横暴を許してはならない」との声が上がりはじめている。
なお、前院長が記した一文の内容については、取材結果を加味して次週の配信記事で詳しく解説する予定だ。