今月10日の鹿児島県知事選挙で落選した伊藤祐一郎知事が整備を強行した産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」を巡り、重大な疑惑が浮上した。
県は平成19年、処分場整備地を薩摩川内市川永野の採石場跡地に内定したが、それまでの過程で、後の処分場建設工事に重大な影響をもたらした地下水の存在について「湧水はない」とした虚偽の記載をした内部文書を作成。問題のない土地であるかのように偽装して、無理やり計画を進めていたことが明らかとなった。
疑惑の用地選定
鹿児島県は平成18年5月から処分場候補地の調査を開始。19年までに県内29カ所の中から薩摩川内市、いちき串木野市、蒲生町、肝付町にある4か所の土地に絞り込み、最終的に薩摩川内市川永野の採石場跡地を整備候補地に選んでいた。地質調査などを経て、平成20年夏に同地を整備地として正式決定。23年に採石場を保有していた地場大手ゼネコン植村組のグループ企業「ガイアテック」と契約を結び、事実上5億円で土地を取得した形となっている。下に、処分場用地選定までの動きをまとめた。
手順を踏んだかのように見える用地選定だが、実態はデタラメ。29カ所の候補地の内、実質的な調査の対象となったのは川永野の採石場跡地だけで、他の候補地については満足な調査が行われていなかったことが明らかになっている。
整備地決定までの過程は不透明。残されていた県の候補地調査結果表は、意図的にガイアテックの土地に「○」印を多く付けるなど不自然な点ばかり。対象地ごとの詳しい検討結果は残されておらず、形だけの候補地調査だったことも分かっている。
エコパークかごしまの整備地は、「徐福伝説」で全国に知られた霊峰・冠嶽(かんむりだけ)の中腹。冠嶽全体は薩摩川内市やいちき串木野市の貴重な水源地で、近隣には集落もあるという立地だった。普通なら産廃処分場には最も不適な場所だが、実質調査は同地だけという疑惑まみれの整備地選定。「はじめに土地ありき」が疑われる事業過程だった。エコパークかごしまは昨年1月に開業。HUNTERは、用地選定について再度の検証が必要と考え、鹿児島県へ改めて関連文書の情報公開請求を行っていた。見慣れた調査結果表などの文書にまじって開示されたのが、下の1枚だ。
A3のカラー資料。大きく「薩摩川内市採石場(植村組グループ)」と記されている。県に確認を求めたところ、情報収集段階で植村組側から提供された資料などを基に、県が作成した文書であることが分かった。地図上で示した採石場跡地の現況などをまとめたものだ。問題は、右下の囲みの中の地形・地質について説明。「地下水位より低いが、湧水がない」と明記されている。
結論から述べるが、「湧水がない」との記述は真っ赤な嘘。虚偽文書だったと言っても過言ではない。前述した通り、処分場整備地を含む冠嶽一帯は古くからの水源地。湧水はないどころか、至る所で地下水が湧き出る場所なのだ。そのためエコパークかごしまの建設工事は、噴き出す湧水や雨水に苦しめられ、工期を1年以上延長。追加工事費18億7,920万円が発生し、当初の契約金額77億7,000万円が96億4,920万円にまで膨らんでいた。湧水の存在を隠したことで、県民の税金が無駄に費消された格好だ。
重要な情報を隠してまで薩摩川内市川永野の土地に処分場を造った鹿児島県――。裏に、伊藤県政と植村組をはじめとする建設業界との癒着があったことは言うまでもない。採石場跡地は植村組グループの土地。エコパークかごしまの建設工事は、その植村組が参加した「大成・植村・田島・ク ボタJV」が落札していたのである。工事には地元県議のファミリー企業も下請けに入っており、利権創出の一環として処分場整備が進められたことは疑う余地がない。
豊富な湧水は、工事を難しくするだけでなく、管理型処分場の安全性にも重大な影響を及ぼす。湧水によって施設の損壊が起きれば、汚染水が流れ出すのは必定。地下水を汚すだけでなく、エコパークかごしまの敷地内に走る阿茂瀬川にも垂れ流され、県内一の河川で水道水にも利用されている「川内川」に流れ込む。鹿児島県は、造ってはならないところに産廃施設を整備したのだ。候補地選定段階の資料に「湧水がない」と嘘の記述をしたのは、マイナス材料を隠して計画を進めるためだったと見られる。
問題の記述について県側は、「当時の職員に確認したところ、『湧水がないわけではなかった』と言っている」と子どもじみた言い訳。湧水の存在を知りながら、あえて「湧水がない」と記入したことを証明した形となった。
エコパークかごしまを巡っては平成25年、建設に反対していた地元住民らで組織された市民団体が鹿児島地裁に建設差止めを求める訴訟を提起、現在も法廷での戦いが継続されている。