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鹿児島県100億円産廃処分場 「杉林」でっち上げ補償費 
地場ゼネコン側への利益供与濃厚に

2016年12月22日 09:20

1-エコパーク.png 鹿児島県庁には魔法使いがいるのだろう。100億円をかけて建設された産業廃棄物処分場「エコパークかごしま」(薩摩川内市。事業主体:県環境整備公社)の土地取得に絡み、県が存在しない杉林に補償金をつけ、地場ゼネコン植村組側に利益供与していたことが明らかとなった。
 採石場跡地の土地取得費は5億円。土地代はわずか3,900万円で、4億6,100万円は砕石プラントなどへの補償という、いびつな契約となっていた。このうち杉林の補償額が264万990円。HUNTERが調査したところ、対象となる杉林が存在していないことが判明しており、県の担当課も説明がつかない状況だ。意図的に補償額を膨らませた疑いがあり、5億円全体の信憑性が揺らぐ事態となっている。(写真がエコパークかごしま。公社HPより)

補償の「杉林」― なかった!
 鹿児島県は平成22年、薩摩川内市川永野に処分場の土地248728.84㎡を確保するため、同地に砕石プラント併設の砕石場を保有していた植村組の関連会社「ガイアテック」と賃貸借契約を締結した。賃料は5億円で、平成25年度に3億400万円を一括して支払い、翌年度から平成39年までの14年間にわたり年間1,400万円づつを払うという内容(土地所有権は15年後に県へ)。このうち、土地代にあたるのは約3,900万円に過ぎず、砕砂プラントの移転補償などに約4億7,000万円が充てられている。(下が、県とガイアテックの契約書。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

1-契約書 鹿児島.jpg 注目したのは補償の対象に含まれていた「杉林」。県が積算した杉林の補償額は、下の『立竹木補償金内訳表」で明らかだ。
 20161222_h01-02.jpg 樹木名は、すぎ(杉)。直径25㎝の杉が、1,661本あることになっている。単価は1,590円で、計264万990円が支払われていた。しかし、この数字は県側が実際の杉を1本ずつ数えたわけではない。県側の説明によれは、1㎡あたりにある杉を0.5本と算定。対象地の面積(約16,000㎡)の2割に杉があるとした上で、3,200㎡の中に生えている杉の本数を算出したという。信じられない杜撰な手法で、補償費をはじき出していたことになる。
 
 ところが、地元住民らの話では「杉林なんてなかった。あそこ(補償の対象地)は雑木林と草地。杉はあっても4~5本。1,660本なんてとんでもない」――。そこで、杉林があったとされる「鹿児島県薩摩川内市川永野字小奈多平6925-1」の公図を確認し、座標を調べて航空写真に落とし込んだ。民間の設計業者などが使用するCAD(キャド)ソフトがあれば、位置の特定は容易だ。結果が下。赤い囲みの内側が対象地。大半が草地の状態で、周囲にわずかな樹木があるが、杉は地元住民の話通り4~5本程度しか生えていない。対象地に含まれているのは「雑木林」だった。
 1-杉林の確認 キャド.jpg 次は、エコパークかごしまの事業者「鹿児島県環境整備公社」の一室にある写真。平成23年10月の現地画像だが、補償対象地のあたりに「杉林」がないことを確認できる。

1-23年.jpg 今月16日の現地取材でも結果は同じ。赤い囲みの内側が対象地で、杉林は存在していなかった。
 1-現地.jpg
証明できない杉林の存在
 杉林への補償はでっち上げではなかったのか――。HUNTERの取材に対し、エコパーク事業を所管する県環境林務部廃棄物・リサイクル対策課は「間違いはない」「公社(環境整備公社)の職員の報告を受け、補償額を決めた」。説明になっておらず、杉林があったという根拠を示すよう求めていたが、県側の主張を裏付ける事実は示せていない。杉林の補償は、明らかに不正な支出である。
 
 存在しない杉林に税金投入。県側が杜撰な調査で間違いを犯したとも考えられるが、これは可能性が低い。補償額が「5億円」ピッタリとなっていることから、無い杉林をあるものとして、収まりのいい金額をくっつけたと見るのが自然だろう。つまり、補償費水増しによる利益供与。職員が意図的にやったことなら、背任に問われかねない話となる。
 
移転補償の砕石プラントは破棄処分
 そもそも、5億円の補償内容自体に大きな問題がある。補償額4億6,100万円は、砕石プラントや事務所の建屋、樹木などに供されているが、何故か「移転」を前提に算出されたもの。県が買い取って処分していれば、数千万の補償で済んだ可能性が高い。役所の補償の常とはいえ、この契約には疑問がつきまとう。事実、ガイアテックに確認を求めたところ、移転したはずの砕石プラントを「廃棄した」と認めており、“移転補償”が名ばかりだったことは明らかだ。杉林だけでなく、補償額全体が植村組側への利益供与だった疑いがある。

疑惑まみれの処分場事業
 処分場整備事業の経緯を振り返ると、確信犯的なでっち上げ補償を疑わざるを得ない。県内に最終処分場が一箇所もないという大義名分を掲げて強行されたこの事業は、スタート時点から疑惑まみれだった。用地決定の過程は不透明。県内29箇所の処分場候補地については、満足な調査さえ行われておらず、伊藤祐一郎知事(当時)の指示で薩摩川内市川永野の一箇所に絞っていたことが分かっている。

 処分場用地は、薩摩藩以来信仰の対象となってきた霊峰「冠嶽」の裾野。県民に愛されてきた神聖な山の一角を、産廃で汚そうといとんでもない事業だ。冠嶽は、近隣の水源になってきたほど湧水が豊富で、これを無視して処分場建設を進めたため工事が難航し、工期遅れと設計変更で建設費は96億4,920万円にまで膨らんでいた。
 
 処分場用地を保有していたガイアテックは、薩摩川内市に本社を置く生コン製造業者。植村組グループの砕石部門として昭和35年に設立された川内砕石有限会社がその前身で、平成13年に植村組グループの別会社と合併し現在の社名となっている。問題の契約が結ばれた当時、植村組は苦しい経営状態で、エコパークかごしまの事業そのものが、植村組グループの救済策と噂されたほどだった。グループ企業への土地代5億円。加えて77億7,000万円に上る建設工事を、植村組を構成員とする建設共同事業体(JV)が落札しており、「出来過ぎ」で済まされる話ではない。

住民訴訟判決に影響の可能性
 エコパークかごしまを巡っては、処分場に反対する地元住民らが、公費支出に異議を唱える住民訴訟と稼動差し止めを求める訴訟の2件を提起し、係争中。杉林のでっち上げ補償が明らかになったことで、5億円の用地取得費全体に疑義が生じており、来年3月に予定される住民訴訟の判決や、差し止め訴訟に大きな影響を与えることが予想される。



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