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原発の行方

2013年3月 4日 09:25

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という。諸外国の事情までは知らないが、少なくともこの国の国民は、災害や事件について、当事者にならない限り意識を持ち続けることが苦手で、最後には「人の噂も七十五日」とばかりに開き直ってしまうという欠点を持っている。
 被災地以外で、震災や原発事故についての記憶が風化しているのではないか。発生から二度目を迎える「3.11」を前に、とくに「原発」を取り巻く現状について検証してみたい。
(写真は玄海原発(佐賀県玄海町))

風化
 東日本大震災の復興を妨げているのが、福島第一原発の事故によって拡散した放射性物質であることは間違いない。関東大震災や阪神淡路大震災のケースと違うのはこの一点で、ために復旧・復興に膨大な時間と莫大な費用を要することになっている。いまだに約16万人もの人々が避難生活を余儀なくされていることについて、私たちは現実を正しく理解し、痛みを共有しているのだろうか。むしろ大震災の記憶が“風化している”と感じているのは筆者だけではないはずだ。
 震災がれきの処分をめぐっては、受入れを表明した多くの自治体で賛否に関する議論が起き、「絆」とは何か考えさせられる事態となった。この間、「安全神話」とやらをばら撒いた国や電力業界では、最悪の状況を招いた責任を誰も取っていない。
 普通の国なら「原発は止めましょう」という結論になるはずだし、事実ドイツでは国家としてその方向性を打ち出している。しかし、原爆に次いで原発の被害まで体験したこの国では、福島第一の事故の後始末さえ終わっていないにもかかわらず、逆に原発推進への動きが加速する一方だ。狂っている、と言っても過言ではあるまい。

原発推進の安倍自民党
 昨年暮の総選挙、自民党は政権公約の中で、原発政策について次のように記している。

  • 原子力の安全性については、「安全第一」の原則のもと、独立した規制委員会による専門的判断をいかなる事情よりも優先します。原発の再稼働の可否については、順次判断し、全ての原発について3年以内の結論を目指します。安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。
  • 中長期的なエネルギー政策として、将来の国民生活に責任の持てるエネルギー戦略の確立に向け、判断の先送りは避けつつ、遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な「電源構成のベストミックス」を確立します。その判断にあたっては、原子力規制委員会が安全だと判断する新たな技術的対応が可能か否かを見極めることを基本にします。

 これに対し、安倍首相は、政権発足直後から民主党が掲げた「2030年代に原発をゼロにする」という方針を見直すことを示唆。今年2月28日の施政方針演説では「安全が確認された原発は再稼働する」と明言し、翌30日の民放テレビの番組の中では、原発の新増設について「新たにつくっていく原発は40年前の古いもの。事故を起こした東京電力福島第1原発とは全然違う。何が違うのかについて国民的な理解を得ながら、新規に造っていくことになる」とまで踏み込んだ。

 安倍首相は、原子力規制委員会の新たな安全基準は定まっておらず、どの原発が安全かの判断も下されない状況で、すでに原発再稼働に加え新規原発の建設まで視野に入れているのである。「原発推進」。これが安倍自民党の姿勢であることはもはや疑う余地もない。明らかな公約違反である。
 「省エネルギーと再生可能エネルギーの最大限の導入を進め、できる限り原発依存度を低減させていきます」(施政方針演説より)と言いながら、原発を推進するというのは、かなり矛盾している。しかし、「アベノミクス」に魅入られたのか、世論の反発は少ない。原発に対する嫌悪感が日増しに薄れているのは確かなようだ。

「上関原発」復活の予兆
上関.jpg 中国電力が建設計画を進めながら、福島第一以後、計画そのものが事実上凍結されたと思われていた「上関原発」(山口県上関町)に関しても、きな臭い動きが出始めている。
 先月、中国電力が出した上関原発建設予定地の公有水面埋め立て免許の延長申請について、山口県の山本繁太郎知事が許可・不許可の判断を1年間先送りする方針を固めた。この間は審査が続くため免許は失効しないのだという。

 山本知事は、昨年の県知事選挙以来、原発建設計画については二井関成前知事の考えを引き継ぐとして、埋め立て免許をそのまま失効させる意向を示していた。しかし、地元山口県出身の安倍晋三氏が首相に就任したため、政権のエネルギー政策を見極めてから判断する方針に転換したとされる。これもまた公約違反であることに違いはなく、原子力規制委員会の新たな安全基準が定まり次第、原発推進に舵を切る可能性が高い。

 予兆はまだある。上関原発建設計画をめぐり、反対派が多数を占め、中国電力からの漁業補償金の受け取りを拒否していた県漁協の祝島支店が、先月28日に、一転して約10億8,000万円の補償金受け取りを決めたのである。
 上関原発の建設を阻止してきたのは、海を隔てて建設予定地と向き合う「祝島」の島民の力である。原発反対派の象徴でもあった同島内の異変に、原発反対運動への影響を心配する声が上がっている。
 くしくも28日は、安倍首相が所信表明演説で原発推進を宣言したその日。この符合が偶然とは思えない。原子力ムラの反撃が、目に見える形となって表れてきたと見るべきだろう。

暗躍する原子力ムラ
南大隈.JPGのサムネール画像 原子力ムラの暗躍は、ほかでも続いている。鹿児島県の南大隅町(写真)では、現職町長に高レベル放射性廃棄物最終処分場がらみの収賄疑惑が浮上。裏で電力業界と町を結んだ正体不明の会社社長が関与していたことが明らかになった(参照記事⇒「鹿児島・南大隅町長に収賄の疑い」。同町では、前・現の町政トップが原子力ムラに取り込まれており、事業を担う「原子力発電環境整備機構」(ニューモ)、そして電力業界の影がちらついている。

無責任国家 
 原発が抱える最大の問題は、稼働している限り毎年増え続ける使用済み核燃料の始末だ。国や電力業界は、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき、使用済核燃料を再処理した後に残る高レベル放射性廃棄物を、地層処分―地中深くに埋める―にする方針だが、その立地場所さえ決まっていない。
 これまでいくつかの自治体で処分場を誘致しようという動きがあったものの、いずれも町を二分する争いに発展、計画段階で頓挫してきた。
 狙われるのはいつも過疎地、全国54基の原発立地場所と同じ条件の自治体ばかりだが、高レベル放射性廃棄物の処分場は原発と違い半永久的な施設だ。住民が猛反対するのは当然で、処分地が決まる見込みは皆無に等しい。
 ゴミ箱がないのにゴミを増やし続けていれば、早晩家の中には住めるスペースがなくなる。子どもでも分かる理屈が、目先の暮らしや経済発展の掛け声の前にかすんでしまっているのが現状。無責任国家の象徴的な事案なのである。

決めるのは国民
 地震列島であるこの国に、原発や高レベル放射性物質の地層処分を求めること自体が狂気の沙汰だ。それでも、原発を続けるというのだろうか。
 電気と命、どちらが大切か考えれば分かるはずなのだが、東北の被災地以外では、自分のこととして原発と向き合うことができていない。原発の行方を決めるのは、私たち国民ひとり一人であることを忘れてはならない。



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