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抹殺された安全協定の協議記録―公文書毀棄の可能性
―福岡県原発安全協定の闇―

2013年1月 9日 10:05

 玄海原発(佐賀県玄海町)に関する安全協定にからみ、福岡県が九電との交渉記録である公文書を廃棄していた可能性が出てきた。
 昨年11月、福岡県の情報公開審査会が、原発安全協定に関する公文書非開示への異議申し立てに対し、県の隠蔽姿勢を追認する答申を出した。
 この答申を検証する過程で、県が「未完」としていた九電との協議議事録が廃棄された疑いが浮上。今週になって県に確認したところ、昨年の情報公開にあたって説明した内容とはまるで違う話を持ち出し、「未完」文書の存在を否定する事態となった。
 あったはずの公文書が抹殺された形で、公文書毀棄の疑いもある。

存在した「未完」の協議記録
 福岡県は、福岡・糸島の両市と共に九電との間で玄海原発の安全協定を結ぶまでに、計4回の協議を重ねていた。協定締結は昨年4月である。
 この過程を確認するため、HUNTERが県に情報公開請求を行ったのが4月23日。翌月23日の開示決定にあたって県が公文書としてとして認めたのは1回目と4回目の協議議事録(非開示)で、3回目と4回目の協議に関する記録については、対象文書にも含まれていなかった。

 担当である県総務部防災危機管理局防災企画課原子力安全対策係に確認したところ、「未完」の記録が残されていることを認めた上で、「公文書ではない」と主張していた。

 この折の記者と県職員のやり取りは次のようなものだった。

 記者 : 2回目と3回目の協議の議事録がないのはなぜか?
 職員 : 未完のままになっているものしかないので・・・。

 記者 : 未完とは?
 職員 : 協議から(県庁に)帰ってきて、その日のうちに、忘れないよう職員の記憶にある状況をメモした程度のもので、完成していないからですよ。

 記者 : 未完といえども公文書だ。職務の一環として作成し、組織的に共有しているのではないか。
 職員 : 未完の文書は公文書と考えていませんから。

 記者 : おかしい。未完でも公文書だ。かつて県庁は、カラ出張問題で封筒の裏に書かれた走り書きさえ公文書であるとの判決を受けたではないか。まだ懲りないのか。
 職員 : 県としては、未完のものは公文書ではないと判断しています。

 このやり取りから分かるのは、未完ながら協議の内容を記した文書があったということ、さらに、2回目・3回目の協議から帰ってきた職員が、直後に何らかの記録を残していたということの2点だ。

 ところが県側は、HUNTERが議事録非開示と未完の公文書について報道(→『福岡県原発安全協定 九電との議事録を非開示 未完で放置の議事録も』)した後、2回目・3回目の協議記録を完成させる必要性を認め、作成した段階で、改めて開示・非開示の判断をすると方針転換。6月に記録文書を完成させ、7月にHUNTERが再請求した情報公開請求で、改めて非開示の決定を出していた。

審査会は未完の文書の存在を否定
 福岡県情報公開審査会は、HUNTERの異議申立てに関する県の諮問を受けて昨年11月に答申を出したが、協定締結までの過程を記した協議議事録などの情報公開を拒んだ県側の主張を追認したほか、対象外とされた第2回目と第3回目の協議の記録を開示対象に加えるように結論付けていた。

 しかし、審査会が新たに公文書として認めたのは、HUNTERが情報公開を請求した時点で県が「未完」のため「公文書ではない」と強弁していたものではなく、6月に作成した文書の方だった。県の担当課は、未完の文書の存在を抹殺していたのである。

 下は、未完の文書の存在を否定した答申の記述である(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)。未完の文書は、はじめからなかったことにされている。

2回目3回目.jpg

《当審査会が執務室に赴き、本件協定に係る公文書を見分したところ、平成24年度の文書ファイルに完成した本件文書が保存されており、その完成は、同年6月末であることが確認された》

―当然である。審査会が本件異議申立てについて諮問を受けたのは8月。県は、HUNTERの報道を受けて2回目・3回目の協議記録を6月中に完成させていたのだ。

《作成途中の本件文書は存在せず、開示請求時点で作成途中の本件文書が存在したことを示すような事実も確認できなかった》

―異議申立てに伴う意見書に、『県側の対象文書の特定には、九州電力側との第2回目・3回目の協議記録が含まれていないが、県は作成途中の当該文書が存在することを認めており、公文書であることは明らかである。これも合わせて開示されることを望むものである』と記したことへの回答のつもりらしいが、HUNTERへの事実確認もないまま、《存在せず》と断定した乱暴な結論だ。

 それでは「未完の文書」はどこに行ったのだろう?

しどろもどろ
 今月7日、県防災企画課に事実関係の確認を求めた。

 記者 : 答申の内容について、2回目・3回目の協議の記録に絞ってお尋ねしたい。
 職員 : 5月23日時点に(情報公開請求を)いただいた時点で、2回目・3回目の公文書というものが、まだ完成していなかったものですから・・・。

 記者 : 完成していなかったということですね。
 職員 : はい。

 記者 : 昨年5月の開示決定の時、2回目・3回目の協議の議事録について、未完のままの文書があって、それは公文書ではないと言われましたよね。
 職員 : ええ、ええ。未完のものは公文書ではないと・・・。

 記者 : 未完のものがあったということで間違いないですね。それで、いまは完成型に近いものがあるということですね。
 職員 : ええ、そうですね。はい。

 記者 : それでは、その未完のものはどこに行ったのですか?答申には「存在せず」と書かれていますが?どういうことですか?
 職員 : ・・・・・。

 記者 : さきほど確認しましたよね。未完のものがあったんでしょ。存在しないとはどういうことですか?
 職員 : ・・・・・。

 記者 : 廃棄したんじゃないですか?
 職員 : えー、私もいまは、ぱーっと、あれなんでですね、浮かばないんでですね・・・。

 記者 : その問い合わせです。廃棄したと見なしてよろしいですか?
 職員 : えーっと、分かりました。えー、ちょっと、いったん置かせてもらってよろしいですか?確認しますので。

 職員は、開示請求を5月23日と話しているが、4月23日の誤り、5月23日は開示決定の日である。しどろもどろだった職員だが、やり取りの後半で“公文書毀棄”についての取材であることに気付いたようだった。
 ただし、この確認の中で県の職員は、未完の記録があったことを認めている。それがどのように扱われたのか、知らないはずはない。
 言い訳を考えるための時間が必要と判断したらしく、『いったん置かせてもらってよろしいですか』と言い出したため、確認はここまでとなった。

一転、うそぶく県職員―明らかな公文書毀棄 
 結局、この日には回答がなく、翌8日の朝にHUNTER側から確認の電話をすることになった。県内部で十分に打ち合わせをしたものらしく、打って変わって自信に満ちた声に変わっていた。回答は想像した通りのものだった。 

 県側は、「開示請求」が行われた昨年4月23日時点では、「何もなかった」というのである。つまり、「未完の文書」はその後に作成したため、開示請求時点では存在していなかったという主張だ。

 開示請求に対する決定を出した5月23日には、未完ながら2回目・3回目の協議録を「作りかけていた」(県職員の表現)ため、そのことを「申し上げた」(同)のだという。

 しかし、5月23日の開示決定時、県の担当職員は『協議から(県庁に)帰ってきて、その日のうちに、忘れないよう職員の記憶にある状況をメモした程度のもので、完成していないからですよ』と明言している。辻褄が合わない。
 その点についても追及したが、役所の常でとぼけるばかりとなった。

 結論を述べるが、明らかな公文書毀棄である。
 刑法は、(公用文書等毀棄)について、『公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する』と定めている。



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