民主党政権が崩壊への最終段階に入った。野田佳彦首相は10日、TPP(環太平洋連携協定)への交渉参加をマニフェストに明記することを示唆、「近いうち」の総選挙で争点化することを表明した。
党内ではTPP交渉参加に反対する議員らが離党を視野に入れた動きを始めており、首相方針通りに事が進めば数十人規模の造反者が出る可能性が高い。
小沢グループ(現・『国民の生活が第一』)に次ぐ大量離党の第二陣となり、衆院での単独過半数(240)をあっさり割り込むことになる。民主党が総選挙で勝てる見込みは低いが、首相には、もはや党の先行きなど頭にない。
こうした中、永田町では、TPP・増税・原発の3点セットを対立軸に据えた、新たな政治勢力結集の動きが進んでいる。
対中関係悪化とTPP
首相が党分裂も辞さずにTPPに突き進むのは、尖閣の国有化以来、関係が悪化した中国を牽制するため米国の力が必要となったからに他ならない。失政の尻拭いを頼む見返りに、米国の経済分野での欲求を満たすことが一番の策だと考えているのだろう。
民主党が崩壊するのは一向に構わないが、TPPについての国民理解が進んだとは思えない。
TPPの加盟・交渉国は米国をはじめマレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ベトナム、ブルネイ、チリ、ペルー、カナダ、メキシコ11カ国。加盟国間の経済制度における整合性を図るため、例外品目を設けない形で関税撤廃を目指すとしているが、日本を加えた12カ国のGDP(国内総生産)を比較すると、米国と日本の2カ国だけでその9割以上を占める。TPPの実質は、日・米FTA(自由貿易協定)に過ぎない。韓国は、TPP参加のメリットがないとして米国との二国間でFTA締結を目指しており、中国もTPP不参加だ。
中・韓が独自路線を歩む中、野田首相だけがTPP参加に執着するのは、前述した通り、日米同盟を強化するために他ならない。
TPPの本質
TPPの実質的主導者である米国は、経済再生の柱に輸出拡大を据えており、日本に金融、医療、農業といった分野を開放させることが急務となっている。
TPPの本質は、「公共サービス」への外資の参入自由化・民営化で、農業だけでなく金融、医療がその「サービス」の中に含まれていることを忘れてはならない(参照記事⇒「TPP」)。
自民党がTPPに慎重なのは、支持基盤である農家や医師会などから強い反対が上がっているからで、都市部以外の選挙区を地盤とする民主党内議員も事情は同じだ。
TPP・原発・増税 3点セット反対で「新党」
このため山田正彦元農水相を中心とするTPP反対派は、野田首相への反発を強めており、同調する議員らと離党を視野に新たな道を模索しはじめた。
ある民主党関係者は次のように話す。
「15日には憲政記念館で『TPP交渉参加を阻止する超党派議員・国民集会』を開く。ここがひとつの山。首相がTPP交渉への参加を正式表明したら、離党して新たな道を切り拓く。『新党』という形になるかどうか分からないが、新たな政治勢力を結集させる。結集軸はTPPだけではない」。
新たな政治勢力とはズバリ、TPP・原発・増税の3点セットに反対する集団のことだ。先週金曜日から浮上しているのは、著名な音楽家を提唱者にして、3点セットに反対する政治家を糾合するという構想なのだ。
これが新党にまで発展するかどうかは分からないが、一定の数を集めることは可能だろう。
小沢一郎氏率いる「国民の生活が第一」も同じ主張であることから、総選挙後の連携か、あるいは選挙前に合流する可能性もある。
郵政選挙の再来狙うも・・・
首相周辺が考えているのは、小泉純一郎元首相が行った郵政選挙のように、自ら争点を提示して総選挙を行うことだ。
TPPと日米同盟強化を旗印にして、内閣不信任案に関係なく解散・総選挙になだれ込めば、財界はじめ多くの支持を得られると踏んでいる。
たしかに、野田首相が「TPPで解散」と言った瞬間、民主党は崩壊し、年末もしくは年明けの選挙が実現するのだが、国政の課題はTPPだけではなく、目論み通りに事が進むとは思えない。
国民の間では、増税への嫌悪感に加え、原発再稼動に反対する声も少なくない。一方、TPPは国民全体の課題として認知されておらず、むしろ増税や原発への注目度の方が大きいとさえ言える。
永田町で進む新たな政治勢力の結集軸が、「原発」や「増税」に重きを置いたものになることは、前述した音楽家の担ぎ出しでも明らかだ。
こうした動きが顕在化すれば、政権の崩壊現象が一層進むことになる。
いずれにせよ、不支持が拡大するばかりの野田政権に、郵政選挙の再来を望むことは難しい。