自民党の実力者・古賀誠元幹事長(衆院福岡7区)の「引退」が視野に入り始めた。
同党の総裁選終了後、福岡県内の政界関係者の間で急速に古賀氏引退の話が拡大。HUNTERの取材に応えた自民党や古賀氏の後援会関係者は、古賀氏が周辺に「引退」についての相談をしたことを認めた上で、「後継が決まればという条件付きだが、バッジをはずす可能性は高い」と明言している。
古賀氏は、総裁選直後に派閥領袖の座を譲り、永田町での影響力低下が囁かれていた。
長老議員の引退が相次ぐ永田町だが、「近いうち」の総選挙を控え、古賀氏の動向から目が離せなくなってきた。
叩き上げの党人派
古賀氏は福岡県瀬高町出身の72歳。県立山門高校から日大商学部に進み、参議院議員秘書を経て昭和55年の総選挙で初当選、以来10回の当選を重ねた重鎮だ。(左の写真は古賀氏の公式HPより)
故・池田勇人首相からの流れをくみ、“お公家さん集団”と揶揄された名門派閥「宏池会」にあっては珍しく叩き上げの党人派。早くから建設族として頭角を現し、運輸大臣(平成8年)や幹事長(同12年)といった要職を歴任した。政界でもっとも関係が深かったのは、野中広務元官房長官(元幹事長)である。
古賀派(宏池会)を率いて政界に一定の影響力を保っていたが、先月行われた自民党総裁選で同派出身の谷垣禎一前総裁に引導を渡したあげく、同派所属の林芳正参院議員ではなく山崎派の石原伸晃氏を支援。安倍晋三元首相の勝利に終わったことで同派が分裂状態となり、党内での求心力を失っていた。
総裁選直後、宏池会の会長を岸田文雄前国対委員長に譲っている。
また、10年間務めていた日本遺族会の会長を、東日本大震災で同会が運営していた「九段会館」(東京都千代田区)の天井が崩落し、2人が亡くなった事故の責任を取る形で今年2月に辞任していた。
総裁選が引き金
福岡県内で「古賀氏引退」の話が拡がったのは総裁選終了後。自民党県連関係者や古賀氏の後援会関係者に、古賀氏本人から次期総選挙についての相談があったという。
福岡7区内のある自民党関係者はこう話す。「古賀先生の腹は決まっていると思う。バッジを外す覚悟であることは確か。相談を受けた人間も複数いる。ただし、後継者が見つからなければこのまま選挙に突入するしかない。新人にはまねのできない実績をお持ちなんだから」。
中選挙区時代から古賀氏を応援してきたという県南地域に住む男性支持者は、引退話があることを認めた上で、古賀氏の心境を次のように解説する。「安倍晋三は小泉(元首相)路線の継承者でしょう。しかも極端なタカ派。絶対に相容れない。あんなやつが総裁に返り咲いた時点で、がっくりきたんだと思いますね。そのあと、古賀派が割れたことで、先生にとっての目標がなくなったということじゃないでしょうか。派閥の会長をあっさり辞めた時点で、心のうちに『議員引退』という選択肢があったと思いますね。権力にしがみつく人じゃないから。森さん(元首相)や山崎拓さん(元副総裁)といった同時代にしのぎを削った古参議員が相次いで引退表明したことも影響したんじゃないですかね。健康状態も良くないという話もありますし、ゆっくりお休み下さいと言いたいところですが、簡単な話ではない。後継者といえば息子さんしかいないけど、先生ご自身が『世襲』はだめだと発言なさってる。もう一度だけ出馬なさるしかないんじゃないですかね」。
拡がる引退論
古賀氏引退の話は、選挙区である福岡7区内はもとより県政界関係者の間でも既定のものとなりつつあり、すでに自治体副市長や古賀氏の秘書、県議など後継候補の名前が取り沙汰されている。
ただ、前述の支援者の話にも出た古賀氏の長男については、「難しい」(7区内の地方議員)との見方が大半だ。
引退話の拡大に拍車をかけた場面があった。
福岡県内で行われた松山政司参院議員の政治資金パーティで挨拶に立った古賀氏は、来賓の林芳正氏に閣僚や党の役職就任を我慢して雑巾がけをすることの必要性を説いたうえで、政治家の世襲を強く否定。出席した地方議員の間から発言の内容を訝しがる声が上がっていたという。
「古賀さんにしては珍しい話の内容だったが・・・。岸田と並んで派閥を引き継ぐことになった林(古賀氏の会長辞任にともない、林氏が宏池会座長に就任)に対するものだろうが、政界全体への説教に聞こえた。引退する長老の苦言としか思えなかった。二世政治家を否定したところをみれば、衆議院の議席を息子に譲るつもりはないんだな」(県連関係者)。
別の県連関係者に、古賀氏の資金管理団体が保有する巨額の政治資金(平成22年末の時点で約6億円)の使い道について聞いたが、あっさりと「あれは政治塾に使うらしい」。
世襲を否定した古賀氏は、すでに自らの政治資金を、若い政治家の養成のために使うことを決めているのだという。
こうした地元福岡での話は永田町にも聞こえているらしく、先週、民主党幹部が記者会見で唐突に「古賀さんは引退するんだって?」と発言、記者たちを驚かせたという。
“後継候補が決まりさえすれば”という条件付にはなるものの、自民党を象徴する政治家の引き際が近くなったことは間違いない。