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総選挙・候補者アンケートへの疑問

2012年11月29日 08:00

 新聞・テレビによる世論調査に基づく報道に疑問を呈したばかりだが(27日配信)、大手メディアの取材姿勢には他にも首をかしげたくなるようなものがある。
 選挙ごとに立候補予定者が提出を求められる「候補者アンケート」の内容がそれで、回答を選択式にして政治家の多様な意見を矮小化するようなものばかり。ひどいものは、争点化しそうな問題に対する答えを二者択一にして、立候補予定者の声を無理やり対極に押しやっている。
 政治家の質が下がっている原因は、「第4の権力」といわれる大手メディアにもあるのではないだろうか。

様変わりした候補者アンケート
 大手メディアは、選挙のたびごとに、予想される争点について「候補者アンケート」を実施する。
 各候補者がどのような主張をもって選挙に臨むのかを確認し、配信する記事に反映させるためなのだが、近年、国政選挙におけるアンケートの手法が大きく変容している。
 とくに今回の総選挙における候補者アンケートは、回答する側を困らせるものが目立つ。

 下は、読売、朝日、毎日3紙の候補者アンケートだが、新聞社側の質問に、用意された答えの中から該当するものを選択して別紙に記入する形式だ。

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 従来の候補者アンケートは、メディア側の質問に対し、定められた字数の範囲で候補者自身の主張や考え方を記入するものが主流だった。『原発の再稼働についてどのように考えているか、20字以内でお答え下さい』といった質問の仕方で、回答用に指定字数分のマス目が併記される。知事選や市長選などでは、いまだにこうしたアンケート方式が大半だ。

 アンケートは、候補者が出揃い、選挙戦に突入する少し前に届けられるため、候補者側は一度に何種類もの回答を記入する必要が生じる。多忙な候補者が頭を痛めるのは言うまでもない。しかし、候補者の主張がコンパクトにまとめられているため、有権者にとっての有効な判断材料のひとつとなってきたのは確かである。

 こうした候補者アンケートの様式が変わったのは、平成21年の政権交代選挙の時からとされ、選択式が一気に増えたという。候補者が多いため、整理に費やす時間を短縮する狙いがあると見られるが、このアンケート手法には問題がある。

矮小化される政治家の主張
 まず、回答を選択する方式のアンケートでは、政治家個々が持つ考え方や主張が、十分有権者に伝わらないということだ。
 短くても一つの文章であれば、個々の政治家の特色が出る上、想定される回答を超えた意外な主張も期待できる。しかし、“右か左”か、“白か黒か”という選択方式による回答からは、個性のかけらも見えてこない。
 右・中道・左、タカ・リベラルといった具合に、政治家には様々な立場や主張がある。従って個々の政治課題に対する考え方、対処法にも違いがあってしかるべきなのだが、二者択一でものごとを整理してしまえば、有権者の選択基準まで限定してしまうことになる。
 数多くの候補者の意見を記事にするのは大変な作業ではあるが、政治家の主張を矮小化するアンケートの在り方は、メディアの怠慢に過ぎないのではないだろうか。

 今回一番ひどいと評判の毎日新聞の候補者アンケートを見てみよう。

問1 (憲法改正) あなたは憲法改正に賛成ですか、反対ですか。
  (1)賛成
  (2)反対

 この調子で二者択一の設問が25項目並ぶのだが、原発に関する質問と用意された回答は乱暴というしかない。

問8(原発の再稼働) 原子力規制委員会は、原発の再稼働に関する新たな安全基準を策定中です。今後の原発再稼働について、あなたの考えに近い方を選んでください。
  (1)新基準を満たした原発は再稼働すべきだ
  (2)再稼働は認めず、廃炉とすべきだ

 福島第一原発の事故以降、国民は原発に関する国や電力会社の言い分を信用できなくなっている。「安全神話」が真っ赤な嘘だったことが明らかになった以上当然のことなのだが、新たに発足した原子力規制委員会への信頼さえも揺らいでいる。
 同委員会が公表した過酷事故が起きた場合の放射能拡散予測に誤りが見つかっただけでなく、訂正してはまた間違いが発覚するというお粗末。さらに、予測の実務を原子力ムラの企業に委託していたことも分かっており、批判が集中してきた原子力安全・保安院時代と何も変わっていないことを露呈してしまった。
 この不安定な組織が策定した安全基準を国民が鵜呑みにするはずがなく、アンケートにある質問の前提(規制委員会が作る新基準)そのものに疑問符がついているのだ。

 ある立候補予定者は次のように話す。
「“新基準に信頼性があり、国民の多くが納得すれば”という前提に立った答えならいいが、この質問に対する二つの答えでは、選ぶ気もしない。せめて“その他”でもあればいいのだが、択一では答えようがない。私の考えはこのどちらでもないんだから」。

問われる報道機関の姿勢
 たしかに、国は新たな安全基準の策定過程を国民に明示し、“なぜ安全なのか”を、納得してもらうことが必要なはずだ。しかし、毎日新聞のアンケート手法では、政治家のそうした多様な考え方を読者に提供することはできない。
 数多くの立候補予定者の主張を、メディアの都合で2極化することは間違いであり、一歩間違えば政治家の発言を矮小化するアンケートが世論誘導の道具に使われる懸念さえある。

 政治家の意見を2分割し、多数を占めた方を主流と見立てる記事は危険だ。有権者に予断を与える上、アンケート結果が世論を誘導する懸念も否定できない。これはどう考えても、報道の正しい手法とは思えないのである。

 政治の質が下がったことを批判するのは簡単だ。しかし、批判する側の姿勢も問われていることを、大手メディアは知るべきである。



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