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日本維新の会 「規約」の全文と問題点

2012年10月18日 10:15

gennpatu 1864410812.jpg 立ち上げに参加した7名の国会議員のうち、民主、自民両党を離党したとする4名の資格に疑問符がついた「日本維新の会」(参照記事⇒『日本維新の会 設立過程に疑義 』)。
 総務省への情報公開請求で入手した同党の「規約」の全文を紹介するが、代表である橋下徹大阪市長に権限を集中させた異例の内容である。
 仔細に見ていくと、同党が橋下氏の個人商店であり、「大阪維新の会」によってコントロールされる“いびつな政治集団”であることが浮き彫りとなる。

規約全文
 下の6枚の文書が、日本維新の会が大阪府選管を通じて総務省に提出した同党の「規約」である(上段左から1~3ページ、下段が4~6ページ)。

日本維新の会 規約 (1)  日本維新の会 規約 (2)  日本維新の会 規約 (3)

日本維新の会 規約 (4)  日本維新の会 規約 (5)  日本維新の会 規約 (6)

強大すぎる代表の権限
 全9章27条と附則4条から成る同党の「規約」の特徴は、何から何まで「代表」の了承がなければ物事が決まらない仕組みとなっている点だ。その極端さは、異例というより異常。まともな組織の姿とは思えない。

 まず、党務の全てを掌握し方針決定までを行なう「執行役員会」が設置されているのだが、その構成は代表、副代表、幹事長、副幹事長、政務調査会長、総務会長となっている。
 執行役員会の構成員である副代表、幹事長、政務調査会長、総務会長については、《代表が選任》することが定められており、橋下氏の意に沿わぬ人間が中枢に参画することはできないシステムだ。

 第6条 6を見ると、《執行役員会の議事は代表及びその他の構成員の双方の意見を含む出席者の半数をもって決する》と規定。つまり、執行役員会の過半数の意見といえども、橋下氏の賛同がなければ決定とは見なされないのである。独裁体制と言っても過言ではない組織運営だ。

 最高議決機関として位置付けられているのは「全体会議」(所属の国会議員、首長、地方議員、公認候補予定者で構成)という組織だが、執行役員会の権限が大きいため、全体会議は単なる承認機関であることがうかがえる。

 そして、執行役員会で決める党の方針はもちろん、各種選挙の候補者選定においても最終的な決定権が代表に委ねられている。 

第12条―《衆議院議員選挙、参議院議員選挙、首長選挙、地方議員選挙の候補者の公認、推薦等は、執行役員会の議を経て、代表が決定する》。
同条2―《衆議院議員選挙における比例代表名簿の登載順位、衆議院議員選挙及び参議院議員選挙における各比例代表選挙の名簿登載順番は、執行役員会の議を経て、代表が決定する》。

 いずれも《執行役員会の議を経て》として、議論を積み上げる形に見せかけてはいるが、前述したように執行役員会自体が代表の意思どおりに動く仕組みとなっており、事実上橋下氏の思いのままに候補者人事が進むという寸法だ。

 代表権限の強大さは、次の条文にも顕著に示されている。

第12条4―《代表は、公職の候補者の公認、推薦について、必要があると判断する場合は、前項の規定にもとづく場合を含めて、決定を取り消すことができる》。
 いったん決まった公認、推薦者といえども、代表権限だけでクビにできるというのである。公職の候補者といえども、代表の機嫌を損ねたとたん、お払い箱になる可能性があることを示唆しており、これでは誰も橋下氏に諫言することなどできないだろう。
 見方を変えれば、橋下氏の個人商店でしかないこの党は、他の政治家の個性や発信力を極力排除するしかないということだ。

低い国会議員の位置づけ
 国政政党の規約でありながら、肝心の国会議員についてはぞんざいな扱いだ。第6章『国会議員団』には、たったの1条しか記されていない。

第18条―《党所属国会議員により国会議員団を構成する》。
同条2―《国会議員団は、団長、団幹事長及びその運営のために必要な役員を置き、会議を開催することができる》。
同条3―《国会議員団は、規約等を定め適切な組織運営に努めなければならない》。

 国会議員団のみで会議を開くことを認めただけで、付け足し程度の規定でしかない。党の重要事項を独自に決定する権限がないことは一目瞭然なのだが、驚くべきことに有権者の負託を受けているはずの議員の国会活動自体に、規約で制限が加えられているのである。
 前述『執行役員会』についての権限を規定した中で、国会議員の権限を限定してしまう条文が明記されていた。
 第6条二―《国会対策の執行に関する事項を審議、決定する》に従えば、同党の執行役員会=橋下氏の意向が国会議員の動きを決めるということになる。
 
 7名の同党の執行役員会の顔ぶれは、「大阪維新の会」の幹部ばかりだ。国会議員からは同党副代表となった松野頼久(衆・熊本1区)、副幹事長の松浪健太(衆・比例近畿)の両名が入ったものの、あとの5名を次のように大阪の首長・府議会議員で占めている。

代表・橋下徹=大阪市長 
幹事長・松井一郎=大阪府知事
副代表・今井豊=大阪府議会議員
政務調査会長・浅田均=大阪府議会議員
総務会長・東徹=大阪府議会議員

 同党所属の国会議員団は、明らかにローカル政党「大阪維新の会」の下部組織に過ぎない。
 大阪維新の会の面々は、『国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である』(日本国憲法第41条)ということを認識していないようだが、これがまともな「国政政党」と言えるのだろうか。

疑問だらけの「規約」の内容
 同党の規約には、ほかにも首を捻らざるを得ない条文が並ぶ。

21条―《代表は、重要な都道府県支部を、地域政党として指定する》。
 東京、名古屋といった大都市や、特別な地域事情を持った都道府県支部を「政党」として指定するということらしいが、この規定が分かりにくい。
 大村秀章愛知県知事の「中京維新の会」や、全国各地で雨後のたけのこのように設立された「○○維新の会」を吸収するための布石と見られるが、支部はあくまでも支部だろう。

 拙速でことを運んだせいか、あるいはただお粗末なだけなのか分からないが、規約に記された内容と現状には、一致しないことが多い。
 第2条の(目的)にはこうある。《本党は、党の綱領及びそれにもとづく基本政策の実現を図ることを目的とする》。
 さらに第3条には《本党の党員は、本党の綱領及び政策に賛同する18歳以上の日本国民で、入党手続きを経た者とする》とある。
 日本維新の会は、「維新八策」なるものを公表しているが、これが政策なのか理念なのか分からない内容。代表の橋下氏自身、八策への批判を受けて「あれは綱領」と発言したかと思えば、今月に入って新たに「綱領」の策定に着手するなど混乱ぶりを露呈している。

 国政政党の設立を急いだものの、「規約」を作った時点では、党が進むべき道を示す「綱領」などなかったのである。党の「目的」に掲げた、実現を図るべき「綱領」がじつはなかったという点、滑稽としか言いようがない。

 滑稽と言えば、もうひとつ。同党の規約の第4条は「離党」についての規定だ。
《国会議員が離党しようとする時は、幹事長に申し出て、執行役員会の承認を得ることを必要とする》。
 政党所属の政治家として有権者の負託を受けた以上、党の承認を得て正式離党となるのはあたり前のことである。この条文自体には何の瑕疵もない。
 問題は、同党設立に参画した国会議員たちの身の処し方である。松野氏ら民主党離党組の3名と、自民離党の松浪氏は、ともに9月28日の「日本維新の会」設立時に所属が旧政党だった可能性が高い(参照記事⇒『日本維新の会 設立過程に疑義 』)。
 民主党本部は松野議員らの正式離党を10月5日と明言し、自民党は松浪議員の離党届を正式受理さえしていないと主張しており、常識的に考えれば、日本維新の会の設立届には瑕疵があったと見るべきなのだ。
 自党の規約では国会議員の離党に明確な手順を示しておきながら、招き入れた政治家たちの行動には疑問を持たなかったのだろうか?

 橋下氏支配の強化を図った「規定」に縛られる政党から、国民の期待に応える政治家が誕生するとは思えない。



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